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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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第34話 悪役、ヒーローのメンタル相談に乗る



――「“倒すより先に話聞いてくれる悪役”って、優しすぎんだろ俺。」



夜のアクオビ事務所。

いつもの蛍光灯の明かりが、今日はやけに柔らかい。

デスクには書類の山、冷めたコーヒー、そして相談受付の札。


……いや、相談受付って。誰が置いたんだこれ。


「社長、SNSで『悪役に相談できるって本当ですか?』ってDMがバズってます!」

ミナセがタブレットを掲げる。

画面には《#悪役に聞いてほしい》のトレンドが。


「お前、また勝手にタグ作ったな?」

「だって需要が……!」

「需要があるのと仕事が増えるのは別問題だ。」


とはいえ、気づけば夜のオフィスに数人のヒーローが集まっていた。

マスクを外し、疲れた顔をして、椅子に腰を下ろす。


「……すみません。ちょっと話、聞いてもらえますか。」



最初の相談者は、正義歴一年の若手ヒーロー。

「最近、“笑顔で倒す”って指導されて……でも、人を殴って笑うの、違う気がして。」


俺はコーヒーを置き、軽く頷く。

「正義は演技じゃねぇよ。

 笑えないときは、無理に笑うな。

 その顔、子どもたちはちゃんと見てる。」


彼は目を潤ませてうなずいた。

(……あーあ、俺、なんでカウンセラーみたいなことしてんだ。)



次に来たのは、あのプリズマスター。

「アオトンさん。今日、一般人に“偽善者”って言われて、ちょっと折れました。」


「偽善者? いいじゃねぇか。

 “偽”でも“善”をやってるだけマシだ。」


「……それ、皮肉ですか?」

「もちろん。けど、半分は本音だ。」


彼は小さく笑った。

それだけで、少し世界がマシになった気がした。



深夜。

ミナセがソファに沈み込みながら呟く。

「社長、悪役って、案外いちばん優しい職業かもしれませんね。」

「おいやめろ。悪のイメージが溶けるだろ。」

「いいじゃないですか。“優しい悪役”って、時代に合ってますよ。」


俺は苦笑して、窓の外を見た。

街のネオンの中を、ヒーローたちが静かに帰っていく。


みんな“倒す”より、“立ち直る”方に向かってる。

それなら、俺の仕事も悪くない。



机の上のスマホが光る。

《依頼:明日、ヒーロー支援局主催“心の安全講習”ゲスト出演希望》


「……次は講師か。悪役のキャリア、どこに向かってんだ俺。」



次回予告


第35話「悪役、心の安全講習でパワポを使う」

――「“悪のプレゼン資料”が、ヒーロー業界でバズる日が来るとは。」


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