第33話 悪役、正義ゼミを開講する
――「“悪役が講師”って、そりゃ受講者みんな緊張するわ。」
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「えー……それでは本日より、『正義ゼミ』を開講します!」
司会の女性アナが笑顔でカメラに手を振る。
――が、正面に立つ俺の顔(※ブラック・アオトン仕様)は、
その笑顔の八割を殺していた。
だってさ。
壇上に“悪役の仮面”が立ってるんだぜ?
隣にはミナセ(=ネーミングセンス爆死怪人)。
観客席にはヒーロー志望の若者たちがずらり。
ざわざわ……
(“悪役が講師ってマジ?”)
(“あれ倒したらポイント入るんかな”)
……頼むから授業前にバトルモード入るな。
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「それではまず、講師の自己紹介からお願いします!」
マイクを渡され、俺は咳払いひとつ。
「株式会社アクターズ・オブ・イービル代表、ブラック・アオトンです。
本業は、ヒーローの踏み台と社会風刺を担当しています。」
観客の一部が笑い、一部が引いた。
ミナセは横でぎこちなく手を振る。
「し、新人悪役のミナセです! 好きなものはバッテリー充電と社長の労災報告です!」
……なんかもう、自己紹介から社会病理のにおいしかしない。
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講義が始まる。
テーマは「正義の副作用」。
俺はホワイトボードにマーカーで書いた。
『正義は、独りで持つとだいたい壊れる』
教室が静まる。
カメラが寄る。
真剣な目でメモを取るヒーロー候補たち。
「正義ってのはな、便利な言葉だ。
“自分が正しい”と思った瞬間、他人を間違いにできる。
それが悪意より、ずっと危ねぇんだ。」
前列の青年が手を上げた。
「じゃあ先生、“悪”ってなんですか?」
「悪? ……それは、“正義の副作用を引き受けること”だ。」
一瞬、会場がざわついた。
でもその中に、プリズマスターが座っていた。
彼は静かに頷いていた。
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講義の最後、司会がマイクを向けてくる。
「では最後に、講師のお二人から受講者へ一言お願いします!」
ミナセが先に言う。
「正義をやるのも悪役をやるのも、心のメンテ忘れないでください!」
おぉ、成長してるな。
俺は続けて言った。
「ヒーローでも悪役でもいい。
倒すより、立ち上がるほうを大事にしろ。
それが、俺たち《アクオビ》のモットーだ。」
拍手が起きた。
――なんだこれ。
悪役講師が拍手浴びるって、どんな世の中だ。
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収録後、休憩室でプリズマスターが近づいてきた。
「アオトンさん。今日の話……本当に救われました。」
「おいおい。授業料、高くつくぞ?」
「じゃあ、今度また番組で共演してください。」
彼の目はもう、迷ってなかった。
その光を見て、俺は苦笑する。
「……ま、ヒーローが本気で笑えるなら、悪役冥利につきるな。」
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次回予告
第34話「悪役、ヒーローのメンタル相談に乗る」
――「“倒すより先に話聞いてくれる悪役”って、優しすぎんだろ俺。」




