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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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第32話 悪役、ラジオで正義を語る



――「“正義”に疲れたヒーローからのお便りって、ギャグにならない現実だ。」



「3、2、1……オンエア!」


赤ランプが灯る。

いつもの挨拶を終え、ミナセが次のメールを手に取る。

「今日の一通目は……えっと、ラジオネーム《プリズマ・ヒーロー》さん。」


スタジオが一瞬、妙に静かになった。

俺とミナセが目を合わせる。

(おい、それ絶対あいつだろ。)


ミナセが読む。

『最近、自分が“本当にヒーローなのか”わからなくなりました。

 人を助けているのに、感謝より批判が多くて。

 それでも笑って立っていなきゃいけないのが、正義なんでしょうか。』


……笑ってられるか、こんなの。



俺はマイクに口を近づけた。

「ヒーローさん。あんた、よく頑張ってるよ。」


ミナセがちらっとこちらを見た。

俺は続ける。


「でもな、“正義”ってのは笑顔の仮面でやるもんじゃねぇ。

 本当の正義は、たまに泣いて、怒って、迷って……それでも前に進もうとすることだ。

 人を救うために、自分を壊すのは違う。そんなの、悪役の仕事だろ。」


スタジオの空気が変わった。

スタッフの誰も動かない。

ミナセだけが、そっと頷いた。



「……社長、今のちょっと、泣きそうでした。」

「泣くな。番組のトーンがブレる。」

「ブレていいですよ。たまには人間味あって。」


「俺、怪人味しかねぇけどな。」


二人して、少しだけ笑った。



放送終了後。

プリズマスター本人から、短いメッセージが届いていた。


《ありがとう。

 あのとき言ってくれた“悪にも正義にも、休み時間が必要”って言葉、

 今日、やっとわかりました。》


俺は苦笑して返信する。

《おう。次会ったら、ラテアートくらい奢れ。》



その帰り道。

街はまだ夜の光で生きていた。

電柱の影に、チラシが一枚貼られている。


《新番組決定! “アクターズ・オブ・イービル presents 正義ゼミ” 放送開始!》


「……おいおい。

 悪役が正義を教える時代、マジで来ちまったな。」


ミナセが隣で笑う。

「社長、これってもう、正義の逆輸入ですよ。」

「じゃあ次は、“悪役輸入禁止”だな。」



風が吹く。

スタジオの明かりが遠ざかる。

ヒーローも、悪役も、誰もがきっと誰かの“声”になる。


そして、俺は今日もマイクに向かって言う。


「――おやすみ、迷える正義たち。」



次回予告


第33話「悪役、正義ゼミを開講する」

――「“悪役が講師”って、そりゃ受講者みんな緊張するわ。」


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