第31話 悪役、人生相談を始める
――「“彼氏がヒーローすぎて疲れます”とかいう相談、対応マニュアルにない。」
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スタジオの照明が落ち、赤いランプが点く。
ディレクターが指を上げた。
「3、2、1……スタート!」
「こんばんは、《夜のアクターズ・ルーム》へようこそ。
今夜も“正義と悪のあいだ”で揺れるあなたのお悩みに、悪役代表・ブラック・アオトンが答えます。」
──そう、俺はいま、“人生相談番組”のMCをしている。
いや、どこで人生こうなった。
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きっかけは例の教育番組の反響だった。
“悪役パパが泣ける”の声がバズり、制作会社から「夜の相談コーナーやりませんか?」とオファーが来た。
おかげで俺はいま、“昼は怪人、夜はカウンセラー”という謎の二足のわらじを履いている。
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「では、最初の相談メールです」
アシスタントのミナセ(今日もミナトロンのまま)が読み上げる。
『ラジオネーム:ヒーロー彼氏に振り回される彼女さん』
『彼はいつも正義のことばかり考えていて、デート中もパトロール優先。私は悪い人扱いです。どうしたらいいですか?』
……おい、これヒーロー業界でリアルにありそうだな。
「うーん、難しいな。
正義ってのは、他人のために動くことだ。でも、相手を犠牲にしてまで続けると、それはもう“独善”だ。
――つまり、君の彼氏、ヒーロー病だな。」
ミナセが苦笑する。
「社長、それ放送コード的に大丈夫ですか?」
「知らん。病気扱いした俺も病気だ。」
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次の相談。
『悪役なのに、最近“人助け”しちゃいました。どうしたら悪に戻れますか?』
「……そのままでいい。悪ってのは、善を知ってて選ぶ道だからな。
何も知らずに壊すのは、ただの空っぽだ。」
スタジオが静かになる。
ディレクターが親指を立てた。
ミナセが小声で「名言出ました!」と言ってる。
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収録後、控室。
ミナセがモニターを見ながら言う。
「視聴者コメントすごいですよ。“悪役に救われた”って!」
「……救われるのは勝手にしてくれ。俺はまだ迷子だからな。」
スマホが震える。
通知には、ひとつのDM。
《ありがとう。あなたの言葉で、明日ちょっと頑張れそうです。》
名前の欄には――“Mikage_Y”。
(……おいおい、またお前か。)
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その夜、外の風がやけに涼しかった。
街のどこかでヒーローがパトロールし、どこかで怪人が芝居をしてる。
俺はその真ん中で、コーヒーを飲みながらぼやく。
「……正義も悪も、夜になると似た顔するんだよな。」
カメラの赤ランプがまた灯る。
次の収録が始まる。
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次回予告
第32話「悪役、ラジオで正義を語る」
――「“ヒーローからの投書”が来た時点で、もう平和は遠い。」




