第28話 悪役、PTAに呼び出される
――「“教育的配慮に欠ける演技”って言われたけど、そもそも俺、悪役なんだが。」
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翌週の月曜。
アクオビの事務所に、妙に封筒の厚い郵便が届いた。
表には達筆な筆文字。
『○○小学校PTA 本部役員一同』
……字が綺麗なクレームは、たいてい重い。
「社長、これ……ラブレターでは?」
「だったらどれほど平和だったか……開けるぞ。」
中には三枚の文書。
・「児童への影響について」
・「反省の捉え方について」
・「あと、出演者のセリフが哲学的すぎる件」
「最後だけ方向性が違うな。」
ミナセが覗き込みながら首をかしげた。
「なんか……褒めてるような、怒ってるような?」
「ま、PTAとはそういう生き物だ。」
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翌日、俺とミナセはPTA会議室に呼び出された。
長机の向こうに、眼鏡をかけたお母さん方。
空気がピリッとしてる。まるで取り調べ室だ。
「えー……ブラック・アオトンさん、でしたね?」
「はい。“反省しない怪人”を演じました。」
「……その、“反省しない”というのは、教育的に問題があるのでは?」
(うわ出た。“教育的”って単語。社会で最も強い武器のひとつ。)
「もちろん反省の大切さは伝えました。最終的に、ちゃんと“謝れる強さ”を――」
「ですが、子どもが“悪役になりたい!”と言い出しまして!」
「……それは、教育成功では?」
「違います!!」
(たぶん違うらしい。)
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会議は白熱した。
PTAの一人が言う。
「ヒーローが正義を象徴するなら、悪役は何を象徴してるんですか!」
「……人間の“逃げ場”です。」
俺は静かに答えた。
「正義ばかりがもてはやされる世界で、“悪”は息抜きだ。
誰もが正しく生きられない時、俺たちは“間違える自由”を代わりに演じてる。」
沈黙。
少しして、メガネの母親が咳払いをした。
「……そういう考え方も、あるかもしれませんね。」
(若干、敗北を認めたっぽい。)
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会議後、廊下でミナセが笑う。
「社長、さっきちょっとかっこよかったです!」
「“ちょっと”が余計だ。」
「でもほんと、悪役って、なんか“許されない人たち”の代わりに笑われてる気がしますね。」
「……それが仕事だ。」
その時、スマホが鳴った。
《新規依頼:教育番組第2回「悪役に学ぶ!社会マナー」》
「……あー、PTA逆にハマったなこれ。」
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その夜、帰り道の商店街。
スーパーの惣菜コーナーで、ミナセが言った。
「社長、今度のテーマ“悪役でも譲る心”だそうです!」
「いやそれ、タイトルからして矛盾してるだろ。」
「でもギャラ倍らしいです!」
「……悪くねぇな。」
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次回予告
第29話「悪役、カフェを乗っ取られる」
――「正義の方がコーヒー薄いんだよ。」




