第26話 悪役、教育番組にレギュラー出演する
――「“悪い見本として出演”って、聞こえは悪いけど仕事は増える。」
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朝。
アクオビ(※株式会社アクターズ・オブ・イービル)の会議室にて。
「社長ぁぁぁっ!!ついに我々、テレビ進出です!!」
勢いよくドアを開けて飛び込んでくるミナセ。
書類をばさばさと振りながら、目は完全に星マーク。
「テレビ?」
「はいっ!教育番組の新コーナー、“みんなで学ぼう!ヒーローと社会”!」
「……タイトルからして、悪役に出番なさそうだけど。」
「いえ、“悪いことをするとどうなるか”ってコーナーで――」
「ほら出た、“悪い見本”ポジション!!」
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スタッフの説明はこうだった。
番組のテーマは、子どもたちに“正義の行動”を学ばせること。
そしてそのために、悪役役者がリアルな“悪い例”を演じて見せる――。
「つまり俺は、“信号無視マン”とか“ゴミポイ捨て怪人”とかやるわけ?」
「はい!しかも教育監修がヒーロー管理局です!」
「……完全に監視対象じゃねえか。」
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撮影初日。
スタジオに入ると、ポップで明るいセットが広がっていた。
「みんなー!ヒーロー・プリズマスターだよー!」
(司会:例の新人ヒーロー)
その横に立つのが俺、ブラック・アオトン。
“信号を守らない怪人・レッドライト”の衣装。
……赤信号で止まらない悪役。コンセプトが地味すぎる。
「今日の悪い子、レッドライトくーん!」
「ウヒヒ!信号なんて関係ねぇ!俺の正義はノンストップだァ!」
「みんな、真似しちゃダメだぞー!」
(子どもたち:キャー!)
……台本通りにやってるのに、
途中からヒーローがアドリブで「悪を説教」し始めた。
「レッドライト!お前が止まらないから事故が起きるんだ!」
「いや、そういう設定だろ!?俺が悪くないと成立しねぇだろ!?」
スタジオの外で、美影が腕を組んで見ている。
「いいですね……この“悪のリアリティ”。」
「監視の目がこえぇよ!!」
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撮影の合間。
子どもたちが控室に寄ってくる。
「アオトン!今日の“止まらない怪人”、ほんとに怖かった!」
「……そっか、ありがとな。でも止まらないのは仕事だからな。」
「ううん!僕、今日からちゃんと信号守る!」
……不意に、心があったかくなる。
“悪い見本”でも、何かを伝えられるなら、それは悪くない。
「……悪も、たまには教育になるんだな。」
ミナセがドーナツをかじりながら言う。
「社長、次回の撮影、“宿題やらない怪人”だそうです!」
「どんどん生活感ある悪になってんな……。」
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収録を終えてスタジオを出ると、夕暮れ。
美影が軽く会釈して言う。
「お疲れさまでした、アオトさん。今日も立派な悪でしたね。」
「褒め言葉として受け取っていいのか、それ。」
彼女は少し笑って続ける。
「悪役が子どもに影響を与える。……それもまた、教育ですよ。」
「皮肉だよな。“悪”が“正義の先生”になるなんて。」
「ええ。でも、あなたならできる気がします。」
アオトンは空を見上げた。
今日も正義が多すぎる空。
それでも、少しは息がしやすくなった気がした。
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次回予告
第27話「悪役、道徳の時間に呼び出される」
――「“反省コメントお願いします”って、俺が反省してどうすんだ。」




