表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/33

第26話 悪役、教育番組にレギュラー出演する



――「“悪い見本として出演”って、聞こえは悪いけど仕事は増える。」



朝。

アクオビ(※株式会社アクターズ・オブ・イービル)の会議室にて。


「社長ぁぁぁっ!!ついに我々、テレビ進出です!!」

勢いよくドアを開けて飛び込んでくるミナセ。

書類をばさばさと振りながら、目は完全に星マーク。


「テレビ?」

「はいっ!教育番組の新コーナー、“みんなで学ぼう!ヒーローと社会”!」

「……タイトルからして、悪役に出番なさそうだけど。」

「いえ、“悪いことをするとどうなるか”ってコーナーで――」

「ほら出た、“悪い見本”ポジション!!」



スタッフの説明はこうだった。

番組のテーマは、子どもたちに“正義の行動”を学ばせること。

そしてそのために、悪役役者がリアルな“悪い例”を演じて見せる――。


「つまり俺は、“信号無視マン”とか“ゴミポイ捨て怪人”とかやるわけ?」

「はい!しかも教育監修がヒーロー管理局です!」

「……完全に監視対象じゃねえか。」



撮影初日。

スタジオに入ると、ポップで明るいセットが広がっていた。

「みんなー!ヒーロー・プリズマスターだよー!」

(司会:例の新人ヒーロー)


その横に立つのが俺、ブラック・アオトン。

“信号を守らない怪人・レッドライト”の衣装。

……赤信号で止まらない悪役。コンセプトが地味すぎる。


「今日の悪い子、レッドライトくーん!」

「ウヒヒ!信号なんて関係ねぇ!俺の正義はノンストップだァ!」

「みんな、真似しちゃダメだぞー!」

(子どもたち:キャー!)


……台本通りにやってるのに、

途中からヒーローがアドリブで「悪を説教」し始めた。


「レッドライト!お前が止まらないから事故が起きるんだ!」

「いや、そういう設定だろ!?俺が悪くないと成立しねぇだろ!?」


スタジオの外で、美影が腕を組んで見ている。

「いいですね……この“悪のリアリティ”。」

「監視の目がこえぇよ!!」



撮影の合間。

子どもたちが控室に寄ってくる。

「アオトン!今日の“止まらない怪人”、ほんとに怖かった!」

「……そっか、ありがとな。でも止まらないのは仕事だからな。」

「ううん!僕、今日からちゃんと信号守る!」


……不意に、心があったかくなる。

“悪い見本”でも、何かを伝えられるなら、それは悪くない。


「……悪も、たまには教育になるんだな。」

ミナセがドーナツをかじりながら言う。

「社長、次回の撮影、“宿題やらない怪人”だそうです!」

「どんどん生活感ある悪になってんな……。」



収録を終えてスタジオを出ると、夕暮れ。

美影が軽く会釈して言う。

「お疲れさまでした、アオトさん。今日も立派な悪でしたね。」

「褒め言葉として受け取っていいのか、それ。」


彼女は少し笑って続ける。

「悪役が子どもに影響を与える。……それもまた、教育ですよ。」

「皮肉だよな。“悪”が“正義の先生”になるなんて。」

「ええ。でも、あなたならできる気がします。」


アオトンは空を見上げた。

今日も正義が多すぎる空。

それでも、少しは息がしやすくなった気がした。



次回予告


第27話「悪役、道徳の時間に呼び出される」

――「“反省コメントお願いします”って、俺が反省してどうすんだ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ