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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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第25話 悪役、ファンミーティングで人生相談される



――「“正義に疲れました”って言われても、俺もだよ。」



「社長!ファンイベント決まりました!」

ミナセが会社の廊下をスキップしてくる。

「“ブラック・アオトンと語る!悪の午後ティー会”です!」

「……タイトルがすでに胡散臭ぇ。」

「いいじゃないですか!“悪役トーク&サイン会”って!」

「どうせ“倒され芸トークショー”だろ?」

「はい!あと“握手と人生相談コーナー”もあります!」

「後半のジャンル、もう悪じゃねぇ!!」



当日。

都内のイベントホール。

黒と金のバナーに「ようこそ、アクターズ・オブ・イービル!」の文字。

思ったより客が多い。……というか、全員真剣な目をしている。


「社長、今日の客層……なんか重くないですか?」

「“悪役推し”って、そういう人種なんだよ。闇が深いほど光るタイプ。」


壇上に立ち、マイクを持つ。

「えー、ようこそ“悪の午後ティー会”へ。

 本日も倫理と爆発音を担当します、ブラック・アオトンです。」

(拍手)


「ではまず質問タイムいきましょうか。……はい、そこの方。」


若い女性が立ち上がる。

「アオトンさん……あの、正義に、疲れました……」

「重っ!!?」

「会社で“ヒーロー精神を持て”って言われ続けて……もう限界で……」

「社会の悪、ヒーローより手強ぇな……。」


「で、どうしたい?」

「悪になりたいです……!」

「え、転職相談!?俺カウンセラーじゃねぇよ!!」


(客席:笑いと拍手)



次の相談者。スーツ姿の男性。

「僕、ずっと正義側でした。でも、最近思うんです。

 “悪役のほうが、ちゃんと役割を果たしてる”って……」

「やめろ。そんな真面目なこと言うな。バラエティの流れ止まる。」

「でも、悪役って、ちゃんと負けてくれるじゃないですか。

 僕、上司に勝たせっぱなしで、ずっと負けっぱなしで……」

「……あー、それはもう、悪役より消耗してんな。」


(静かな笑いと、少しの拍手)


アオトは缶コーヒーを一口。

「……いいか。

 悪ってのは、正義を映す鏡だ。

 でも、鏡の中に立ち続けるのは、ちょっと疲れるんだ。

 だからたまに、光に背を向けて休め。

 悪ってのは、休憩所でもあるんだよ。」


(拍手)


ミナセが袖から小声で叫ぶ。

「社長!今日、名言多くないですか!?ファン増えますよ!」

「増えるのはいいけど、“悪役で救われました”系は対応が難しいんだよなぁ……。」



イベント後。

美影からメッセージが届く。

《今日のファンミ、拝見しました。

 “悪の倫理講座”、教育番組にできそうです。》

「……やめろ、“教育番組”タグ付けるな。」


ミナセがにこにこしながら言う。

「社長、悪役が人を救ってますね!」

「……救ってるつもりはねぇよ。ただ、俺も疲れてるだけだ。」


アオトはステージの残り香を見上げる。

笑い声と、少しの涙の跡。

「……悪ってのは、意外と優しいんだよな。

 だって、誰かに負けてくれる役だから。」



次回予告


第26話「悪役、教育番組にレギュラー出演する」

――「“悪い見本として出演”って、聞こえは悪いけど仕事は増える。」


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