第23話 悪役、表彰される(不本意に)
朝。
アクオビの事務所に届いたのは、一通の封筒だった。
金色の封蝋、立派すぎる封筒。
差出人の欄には――「ヒーロー管理局 広報部」。
「社長、これ……まさかスカウトじゃないですよね?」
ミナセが恐る恐る封を切る。
中から出てきたのは、分厚い招待状。
『ヒーロー功労表彰式 特別貢献者:ブラック・アオトン殿』
「……いや待て、俺、悪役だぞ?」
「おめでとうございます!!」
「めでたくねぇ!!」
⸻
午後。
会場はテレビ局のホール。
スーツ姿のヒーローたちが並び、
その真ん中で、ひときわ浮いた“黒スーツの怪人”が座っている。
「場違い感、MAXですね……」
ミナセが小声で言う。
「どっちかっていうと、俺、捕まる側だよなこれ。」
「なんか、セキュリティの人が三回くらい目合わせてきます。」
「それもう通報寸前じゃねぇか。」
司会者がマイクを握る。
「特別功労賞――“教育的価値のある悪役”として、
株式会社アクターズ・オブ・イービル、代表 ブラック・アオトン殿!」
拍手。
フラッシュ。
完全に居心地が悪い。
「いや、“教育的価値のある悪”ってなんだよ。」
小声でぼやきつつ、アオトは壇上に立つ。
スーツ越しにスポットライトが刺さる。
「……本当に、これ俺でいいのか?」
「素晴らしい悪役演技で、子どもたちに“正義とは何か”を考えさせた功績です!」
「いや、それ考える方向、若干狂ってる気がするけどな!」
⸻
授賞後の囲み取材。
記者が詰め寄る。
「ブラック・アオトンさん、悪を演じる上で大切にしていることは?」
「えっと……“加減”ですかね。やりすぎるとPTAに怒られるんで。」
「ヒーローの印象をどう思われますか?」
「まあ……倒され方によっては、腰痛がひどくなる印象ですかね。」
――会場、爆笑。
なぜかそれが「気さくな悪役」として再評価される。
マスコミの切り抜きが飛び交う。
《ブラック・アオトン、愛され悪役の素顔》とか。
頼むからやめてくれ。
⸻
帰りの車の中。
助手席のミナセがスマホを見ながら言った。
「社長、トレンドまた入りました。
“#教育的悪” “#ブラックアオトン語録”……」
「いや、俺そんな名言残した覚えないぞ。」
「“悪役にも腰痛はある”ってやつです。」
「なんでそれがバズるんだよ!!」
美影からメッセージが届く。
《今日の表彰、見てました。あなたらしいスピーチでしたね。
正義も悪も、笑える余裕が大事です。》
アオトは少しだけ笑い、返信する。
《余裕ってのは、痛みに慣れた結果ですよ。》
⸻
夜。
事務所に戻ると、机の上にミナセが置いた表彰盾が輝いていた。
「なんだこれ、地味に重いな。」
「ヒーロー業界の“善行ポイント”10万相当らしいですよ!」
「悪役が“善行ポイント”って、どんな世も末だ。」
それでも、盾を見つめるアオトの顔は、
ほんの少しだけ柔らかかった。
「……ま、悪役が笑われるうちは、世界もまだ平和ってことだな。」
⸻
次回予告
第24話「悪役、バラエティ番組に呼ばれる(嫌な予感しかしない)」
――「だから“キャラでお願いします”って何だよ、俺、素だぞ?」




