表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/27

第19話 悪役インターン生、初陣で正義を殴る。




「すみません社長!! ヒーロー殴っちゃいました!!」


朝からこれだ。

開口一番に土下座する新人。

名前はミナセ。十八歳、悪役インターン一年目。

笑顔が爽やかで、悪役にしては眩しすぎる。


「お前さ……“悪役だからって暴力OK”じゃねぇんだぞ」

「だ、だって向こうが先にキックしてきて――!」

「それを避けずに“倒れる”のがプロだ!」

「すみませんッ! 反射的に……!」


……反射でヒーローを殴る新人。末恐ろしい。



ことの発端は、今朝のステージショウだった。

テーマは「ヒーローと学ぼう!安全な戦い方」。

うち《悪役株式会社(仮)》が演出を担当してたやつだ。


ヒーロー側はC級ライセンスの“エビルナックル”。

SNSフォロワー二万人の新人。

で、悪役担当が――このインターン、ミナセくん。


彼の任務は、“キックを避けて派手に吹っ飛ぶ”ただそれだけ。

……のはずだった。


「避けようとして、つい拳を……」

「つい、でヒーロー吹っ飛ばすな」

「エビルナックルさん、救護室で“演出がリアルだった”って言ってました……」

「演出じゃなくて物理だろ」



控室。

赤間が資料をめくりながら、苦笑いする。

「いやー、若いっていいっすねぇ社長。勢いが」

「勢いで正義倒したらニュースになるんだよ」

「でも観客、大ウケでしたよ。『悪役の反撃が熱い!』って」

「だから怖いんだよこの国は」


最近のヒーローショウは、“リアリティ重視”がトレンド。

安全マットより本物感、演技より衝突音。

それを支えてるのが俺たち“倒れ屋”だが……時代のスピードが早すぎる。



昼休み。

事務所のベランダで、缶コーヒー片手にミナセと並んだ。

「……すみませんでした」

「まぁいい。誰だって最初は倒れ方が下手だ」


沈黙。

少しして、ミナセがぽつりと呟いた。

「でも俺……小さい頃からずっとヒーローに憧れてたんです。

 でも、試験落ちて。だから“倒される側”ならって」


俺は笑った。

「お前、それ、俺と同じだな」


「え?」

「俺も“正義”やろうとして、向いてなかった。

 でも、ヒーローを立たせる悪なら、できる気がした。

 勝てないなら、支えりゃいい。」


ミナセが目を見開いた。

「……かっこいいっすね、それ。」

「だろ? まぁ世間的には“負け犬の理屈”だがな」



午後。

協会から呼び出し。

「今回の“接触事故”について確認を――」と、

出迎えたのは案の定、美影だった。


「アオトさん、インターンの教育、順調のようですね」

「いやいやいや、順調どころか物理的に順調すぎたんだけど」

「エビルナックルさん、『悪役の迫力を見習いたい』と発言していました」

「え、まさか昇格フラグ……?」

「“悪役研修指導者”の候補に挙がっています」

「いらねぇ肩書きNo.1きたな」



その帰り道。

ミナセが申し訳なさそうに言う。

「社長……次のステージ、チャンスください」

「殴らないって約束できるか?」

「……はい。今度は、ちゃんと倒れます」


翌日、彼は見事に吹っ飛んだ。

派手に、痛々しく、完璧に。

会場の子どもたちが拍手を送っていた。

ヒーローも感動していた。

そして、ミナセは笑っていた。


「……どうでしたか、社長!」

「最高の負けっぷりだった。あれは“プロ”だ」

「ありがとうございますッ!」



夜。

事務所に戻ると、美影からメールが届いていた。

《インターン第1号、合格です。協会認定・悪役補助ライセンス発行予定。》


俺は笑った。

“悪役補助ライセンス”――言葉の響きが最高に地味だ。

でも、それでいい。

世界を支えるのは、だいたい地味な奴らだ。



「なぁ社長」

赤間が缶コーヒーを差し出す。

「なんか、悪役って……ちゃんと人育ててるっすね」

「当たり前だろ。倒れ方にも、人生が出るんだ」



次回予告:

第20話「悪役の表彰式、まさかの壇上トラブル」

――「“感動スピーチ”の予定が、火薬が爆発して全部吹き飛んだ件。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ