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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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18/27

第18話 “悪役職業相談”で、泣きながら就活生を励ました件。




朝。

「すみません、“悪役株式会社”のブースってここで合ってますか?」


体育館みたいな会場に、まだ声変わり途中っぽい若者の声が響いた。

――そう、今日は“ヒーロー・キャリアフェスタ”。

ヒーロー志望、怪人志望、救助員志望……あらゆる「正義職」志望者が集まる、カオスの祭典。


で、なぜかその一角にあるのが俺らのブース。

《悪役株式会社/体験型・模擬戦就業相談コーナー》


ポスターには大きく書かれている。

「倒れ方にも、プロ意識を」

――うん、もうキャッチコピーが哲学。



受付には、アカマントこと赤間が座っている。

「社長、今日の参加者リストっす。ヒーロー志望が八割、悪役志望が二割……いや、半分は冷やかしですね」


「まぁいい。どんな動機でも、来たやつには全力で向き合う」


俺は黒のスーツに赤のネクタイ。

今日はマスクを外して、“職業人アオト”としてブースに立つ。



最初の相談者は、ピカピカのスーツを着た男子。

「志望動機……っすか? えっと……ヒーローが好きで、人を守りたくて……でも、実力試験で落ちちゃって」

「ふむ」

「それで……“せめて悪役でもいいかな”って」


俺は少し笑って、ペンを置いた。

「“せめて”か」

「……はい」

「悪役は“せめて”やるもんじゃねぇよ。誇りを持って負けに行くんだ。負け方ひとつで、ヒーローが立つ」


少年がぽかんとして、目を潤ませた。

――あ、泣くやつだ。


「……なんか、負けるのも……かっこいいんすね」

「かっこいいよ。勝つための負けならな」



二人目の相談者は、ヒーロー科女子。

「正義に憧れてたんです。でも……最近、SNSの炎上とか見て、ちょっと怖くなって」

「うん、わかる。正義って、思ったよりも“燃える”からな」

「……悪役って、叩かれませんか?」

「叩かれる。けど、立ち上がる。叩かれても立てるのが、“悪”の仕事だ」


彼女は少し笑って、頷いた。

「……なんか、悪役のほうが優しい気がしますね」

「そうだろ? 俺ら、痛みの受け方だけはプロだから」



昼休み。

ブースの机には、相談カードが山積みになっていた。

“ヒーローに向いてないかもしれない人”たちが、こっそり悪役ブースに集まってきていた。

迷って、悩んで、でも「誰かの役に立ちたい」と言う目をしていた。


赤間が缶コーヒーを渡してくる。

「社長……今日、全員泣かせてますよ」

「泣かせる気はねぇよ。

 でも、正義だけがヒーローじゃねぇって、誰かが言わなきゃな」



夕方。

最後の相談者は、あの最初の少年だった。

「……俺、悪役、やってみたいです」

「本気か?」

「はい。ヒーロー落ちたけど、“立たせる側”になれるなら、それでもいいです」


俺は立ち上がって、右手を差し出した。

「ようこそ。今日からお前は、“負けのプロ”の見習いだ」

少年の手は、震えてたけど、ちゃんと握り返してきた。



夜。

撤収作業をしていると、美影が現れた。

「素敵なブースでしたね」

「また裏で何か仕掛けたか?」

「ええ、来月“悪役インターン制度”を立ち上げます」

「やっぱりか」


「……でも、アオトさん」

「ん?」

「今日、泣いてた学生たち、みんな前を向いてましたよ。あなた、ヒーロー教育より効いてます」

「俺は教えた覚えねぇよ。倒れ方を見せただけだ」

「それが教育ですよ」



帰り道。

夜風の中、イベントホールの看板が見える。

《ヒーロー・キャリアフェスタ202X》

その下に、貼り紙が残っていた。


「悪役相談コーナー、満員御礼」


……笑っちまうだろ。

どいつもこいつも、“悪”に救われやがって。


でも――それがこの時代の、いちばん正しい“正義”かもしれない。



次回予告:

第19話「悪役インターン生、初陣で正義を殴る」

――「“倒れ方教わったんで、今度は殴られ方お願いします!”って元気すぎるだろお前!」


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