第17話 正義と悪の合同説明会に呼ばれた結果。
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「本日はお忙しい中、“ヒーロー・ジョブフェア202X”へようこそー!」
司会のマイクが響く。
ホールには若者がぎっしり。スーツ姿の学生、派手なコスプレ志望者、SNS配信中の子までいる。
――いや、ほんとに配信してるやついるぞ。バズ狙いか。
俺、ブラック・アオトン。
職業:悪役(会社経営者)。
今、壇上に立たされている。
理由? “ヒーロー産業の多様な働き方を紹介するパネルディスカッション”らしい。
「正義と悪の、建設的な未来を語る場です!」
って、美影が笑顔で言ってた。
……完全に俺をネタ枠にしたな。
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ステージ上。
隣には、若手人気ヒーロー・プリズマスター。
その横にヒーロー協会の広報担当。
で、最後の端に――俺。
スーツの上に黒いコート、マスクは外してるが、髪は黒と青で染まってる。
どう見ても「反◯系カリスマ」枠だ。
司会が言う。
「では、まず自己紹介からお願いします!」
マイクを取る。
「どうも、悪役株式会社(仮)・代表のブラック・アオトンです。普段はヒーローに吹っ飛ばされる仕事などをしています。安全第一、労災完備です。」
会場の一部がざわっ。笑いが起きた。
よし、滑ってはない。
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プリズマスターが眩しい声で言う。
「僕たちヒーローは、人々を守る誇りある仕事です!」
その言葉に拍手が起こる。
続けて俺がマイクを取った。
「……で、その僕たち、悪役を安全に吹っ飛ばすのが俺らの仕事です。」
「え?」と数名がキョトンとする。
「つまり、“正義を成立させる裏方”。倒されることが、俺たちの社会貢献」
プリズマが苦笑いした。
「まるで、悪役が正義の一部みたいですね」
「一部じゃなくて、土台だよ」
笑いが起きる。
でも、会場のどこかにいたひとりの学生が、真剣な顔でメモを取っていた。
――あ、なんか、刺さったやついるな。
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質疑応答タイム。
学生のひとりが手を挙げた。
「ブラック・アオトンさんに質問です! 悪役って……怖くないんですか?」
「怖いよ。痛いし、熱いし、たまに燃えるし」
会場に笑い。
「でも、それでもやるのは、ヒーローを“ちゃんと立たせる”ためだ。
倒され方ひとつで、そのヒーローの価値が変わるから」
静寂。
あ、これ刺さったやつ、また増えたな。
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控室に戻ると、美影がコーヒーを差し出してきた。
「お疲れさまでした。かなり人気でしたね」
「俺のどこが人気なんだ。倒れ芸だぞ?」
「“倒れ芸”で世界を支えてる人なんて、なかなかいませんよ」
「……あんた、ほんと人を褒めてるのか貶してるのか分かんねぇな」
「褒めてます。皮肉込みで」
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その夜、イベント後のSNSを見た。
#正義と悪の合同説明会 がトレンド入りしていた。
《ブラック・アオトンの言葉、地味に刺さる》
《悪役のプロ意識、マジかっけぇ》
《倒される側にこそ勇気がある》
……なんだよ。照れるじゃねぇか。
赤間からメッセージが届いた。
《社長、次のイベント、“悪役職業相談ブース”来てます!》
《報酬:日当+焼肉食べ放題》
「……悪くないじゃん」
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帰り道。
街のスクリーンには、今日のイベントのダイジェスト映像。
マイクを持つ俺の姿が映っていた。
「――正義が光なら、悪は影だ。どっちもあって、世界は立ってる」
思わず、笑った。
……我ながら、くさい台詞だな。
でも、ほんの少しだけ胸の中が温かかった。
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次回予告:
第18話「“悪役職業相談”で、泣きながら就活生を励ました件」
――「“倒れる勇気”を教えてくださいって言われた。泣かせんなよもう。」




