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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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17/27

第17話 正義と悪の合同説明会に呼ばれた結果。




「本日はお忙しい中、“ヒーロー・ジョブフェア202X”へようこそー!」


司会のマイクが響く。

ホールには若者がぎっしり。スーツ姿の学生、派手なコスプレ志望者、SNS配信中の子までいる。

――いや、ほんとに配信してるやついるぞ。バズ狙いか。


俺、ブラック・アオトン。

職業:悪役(会社経営者)。

今、壇上に立たされている。


理由? “ヒーロー産業の多様な働き方を紹介するパネルディスカッション”らしい。


「正義と悪の、建設的な未来を語る場です!」

って、美影が笑顔で言ってた。

……完全に俺をネタ枠にしたな。



ステージ上。

隣には、若手人気ヒーロー・プリズマスター。

その横にヒーロー協会の広報担当。

で、最後の端に――俺。

スーツの上に黒いコート、マスクは外してるが、髪は黒と青で染まってる。

どう見ても「反◯系カリスマ」枠だ。


司会が言う。

「では、まず自己紹介からお願いします!」


マイクを取る。

「どうも、悪役株式会社(仮)・代表のブラック・アオトンです。普段はヒーローに吹っ飛ばされる仕事などをしています。安全第一、労災完備です。」


会場の一部がざわっ。笑いが起きた。

よし、滑ってはない。



プリズマスターが眩しい声で言う。

「僕たちヒーローは、人々を守る誇りある仕事です!」

その言葉に拍手が起こる。


続けて俺がマイクを取った。

「……で、その僕たち、悪役を安全に吹っ飛ばすのが俺らの仕事です。」

「え?」と数名がキョトンとする。

「つまり、“正義を成立させる裏方”。倒されることが、俺たちの社会貢献」


プリズマが苦笑いした。

「まるで、悪役が正義の一部みたいですね」

「一部じゃなくて、土台だよ」


笑いが起きる。

でも、会場のどこかにいたひとりの学生が、真剣な顔でメモを取っていた。

――あ、なんか、刺さったやついるな。



質疑応答タイム。

学生のひとりが手を挙げた。

「ブラック・アオトンさんに質問です! 悪役って……怖くないんですか?」

「怖いよ。痛いし、熱いし、たまに燃えるし」

会場に笑い。

「でも、それでもやるのは、ヒーローを“ちゃんと立たせる”ためだ。

倒され方ひとつで、そのヒーローの価値が変わるから」


静寂。

あ、これ刺さったやつ、また増えたな。



控室に戻ると、美影がコーヒーを差し出してきた。

「お疲れさまでした。かなり人気でしたね」

「俺のどこが人気なんだ。倒れ芸だぞ?」

「“倒れ芸”で世界を支えてる人なんて、なかなかいませんよ」


「……あんた、ほんと人を褒めてるのか貶してるのか分かんねぇな」

「褒めてます。皮肉込みで」



その夜、イベント後のSNSを見た。

#正義と悪の合同説明会 がトレンド入りしていた。

《ブラック・アオトンの言葉、地味に刺さる》

《悪役のプロ意識、マジかっけぇ》

《倒される側にこそ勇気がある》


……なんだよ。照れるじゃねぇか。


赤間からメッセージが届いた。

《社長、次のイベント、“悪役職業相談ブース”来てます!》

《報酬:日当+焼肉食べ放題》


「……悪くないじゃん」



帰り道。

街のスクリーンには、今日のイベントのダイジェスト映像。

マイクを持つ俺の姿が映っていた。

「――正義が光なら、悪は影だ。どっちもあって、世界は立ってる」


思わず、笑った。

……我ながら、くさい台詞だな。


でも、ほんの少しだけ胸の中が温かかった。



次回予告:

第18話「“悪役職業相談”で、泣きながら就活生を励ました件」

――「“倒れる勇気”を教えてくださいって言われた。泣かせんなよもう。」


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