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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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15/27

第15話 悪役株式会社、正義保険に加入する。




朝、通勤電車の中で俺は思った。

「悪役がスーツ姿で満員電車って、いよいよ世も末だな」


――そう。俺、アオト(ブラック・アオトン)

今日から晴れて、**悪役株式会社(仮)**の代表取締役だ。

悪役専門のスタント・パフォーマンス会社。


名前はまたそのうちちゃんと決めよう。



「おはようございます社長!」

元・怪人仲間のアカマント(本名:赤間)が、なぜかスーツで敬礼してきた。

「今日の案件、ヒーロー協会さんから来てます!」

「またか……うちはもう協力会社じゃねえか」


机の上には、分厚い契約書の山。

『模擬戦演出請負契約書』

『ヒーロー訓練補助業務』

そして――『対ヒーロー心理研修 講師依頼書』


「……完全に、正義側の下請け会社だな」


「でも、健康保険入りましたよ!」

「悪役が社会保障受けてんの、ギャグにもほどがある」



昼。

俺と赤間は、ヒーロー協会本部へ打ち合わせに向かった。

応接室のドアを開けると、美影がいた。

やっぱりいた。絶対いると思ってた。


「アオトさん、会社設立おめでとうございます」

「おう、ありがとう。皮肉じゃないよな?」

「半分はそうです」


テーブルの上には契約書と……謎のパンフレット。


《ヒーロー安心プラン・悪役特約付き》


「……いや待て。悪役特約って何だよ」

「ヒーローに倒された場合、入院費が協会負担になります」

「……完璧に労災だな」

「その代わり、“悪役としての演出義務”が発生します」

「つまり、倒れ方までマニュアル化されたのか……」



協会ビルを出ると、街頭スクリーンにニュースが流れていた。

《正義戦闘による通行止め、今月12件目》

《ヒーロー民間化、現場の混乱続く》


「……正義も、だんだん“仕事”になってきたな」


赤間がぼそりと言う。

「社長、俺たちって何なんすかね。悪でもなく、正義でもなく」

「“負けるプロ”だよ」

「……かっこいいようで、かっこよくないっすね」

「そうだな。けど、誰かがやらなきゃいけねぇ仕事だ」



夜。

事務所のネオンが初めて点いた。

《ACTORS OF EVIL INC.》

看板の下には、手書きのサブタイトルが貼られている。


──「悪を演じて、世界を支える」


赤間が缶コーヒーを差し出した。

「社長、これからどうします?」

「とりあえず、請求書の書き方覚える」


スマホが震えた。

《依頼:明日、ヒーロー保険研修で“リアル倒され役”お願いします。報酬:交通費別途支給》


「……あー、もう。現場復帰早いな、社長業」



その夜、書類にサインしながら思った。

悪役ってのは、ただの敵じゃない。

ヒーロー社会の“影の整備士”だ。


――倒されることで、正義が立つ。

――悪がいなくても、誰かは悪にされる。


だったら、せめてその悪はプロでありたい。


「よし。明日も元気に倒されるか」



次回予告:

第16話「正義の監査、悪役の税務調査」


――「経費でヒーロー吹っ飛ばしたら、税理士が真顔になった件」


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