第13話 ヒーロー候補生、SNS炎上事件。
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「先生、これ見ました!?」
朝から教室がざわついていた。
スマホの画面には、拡散中のハッシュタグ。
#悪役講師の学校ってどうなの?
……タイトルからして燃える予感しかしない。
「いや、これ完全にバズる前提の書き方だろ。
“悪役”と“教育”並べた時点で、勝てるわけないじゃん」
美影が職員室のドアから顔を出した。
「アオトさん、ちょっとした問題になってます。
ネットで“悪の教育が始まった”って」
「悪の教育て。言葉選びの暴力がすごいな」
「報道陣も校門に来てます」
「早いな!? 俺まだコーヒーすら飲んでないんだけど!?」
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グラウンドには取材ドローンが浮かんでいた。
まるで“正義の監視カメラ”だ。
その下で、生徒たちはいつも通り訓練をしている。
いや、しようとしている――のだが。
「……集中できねぇなぁ。あれ全部、俺ら撮ってんのか?」
「“悪役に指導されたヒーロー候補たち”とか、絶対ニュースになるよな」
レイがため息をつく。
「先生、これ、俺たち何すればいいんですか?」
「簡単だ。
――堂々としてろ。
正義ってのは“見られてる時”より、“見られてない時”のほうが試される」
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午後。
ネットはさらに荒れていた。
《悪役が教育現場に!?》
《管理局は何を考えているのか》
《でも授業めっちゃ面白そう》←少数派
俺は苦笑しながらコメント欄をスクロールする。
「人間って、見えない敵を叩くのほんと好きだよな」
「先生、炎上慣れしてません?」
「お前ら、俺の“倒され履歴”見たら悟るぞ。炎上より爆発のほうが痛い」
レイが小さく笑った。
でも、隣の女子生徒がそっとつぶやく。
「……うちの親、ニュース見て心配してた。“悪役なんかに関わるな”って」
その声に、場が少しだけ重くなった。
俺は立ち上がって言った。
「いいか。正義を信じるなら、“正義っぽいもの”に流されるな。
本物のヒーローは、自分で考える。
――それが、俺が教えたい“倒され方”だ」
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その夜、会議室。
上層部から呼び出しを食らった。
「ブラック・アオトン講師の採用、再検討すべきとの声が出ています」
美影が横で口を開く。
「ですが、現場の評価は上々です。
炎上は一時的な反応で、彼の教育方針には――」
「わかってる。……ただ、正義のブランドは繊細なんだ」
(ブランド、ねぇ。正義って、そんなに取り扱い注意だったか?)
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帰り際、美影がぽつりと漏らした。
「あなたの授業、好きですよ。
“悪役にしかできない教え方”って、たぶんそれ、誰かの救いになります」
「お、珍しく素直じゃん」
「炎上中ですから。少しはフォロー入れないと」
「SNSより人間関係の火消しが早いな」
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次の日、教室の扉を開けると――黒板に大きく書かれていた。
“悪役講師、応援中!”
生徒たちのいたずらだ。
レイが照れくさそうに言う。
「ネットは騒いでても、俺たちは見てるんで」
「……お前ら、ほんとバカで良い生徒だな」
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そして、昼休み。
スマホが震えた。
《トレンド更新:#悪役先生の授業受けてみたい》
俺はため息をつきながら笑った。
「……結局、世間ってのも観客だな。
悪役がいないと、正義も退屈する」
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次回予告:
第14話「正義のオーディションと、悪役の審査員」
――「“悪役目線での審査”って、何を評価すりゃいいんだよ。」




