表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/27

第1話 ヒーローだらけの街で、俺は“悪役”を買って出た


「……また増えてるな。」


 スマホを開けば、ランキングの上位は今日も“新人ヒーロー”の名前で埋まっている。

 《救助成功率98%》《フォロワー10万人突破》《正義ポイントウィークリー1位》。

 ……もうアイドルか。いや、正義アイドルだ。


 隣でバイト仲間のヤマダがため息をつく。

「昨日も横断歩道で旗振ってただけのやつがBランクに昇格してたぞ」

「ま、平和でいいじゃん?」

「いや、平和っていうか……過剰供給すぎるだろ……」


 レジ横のモニターでニュースキャスターが報じる。

『本日もヒーローによる過剰防衛が発生――一般人を怪人と誤認、周囲を巻き込む騒ぎに……』


「……あーあ、またか」

 誰もがヒーローを名乗り、誰も悪役をやりたがらない。

 街は正義で渋滞していた。




「やっぱり、俺が悪役を続けるしかないな」


 怪人がいない世界では、“悪役”は希少種。

 希少職に就き、生活する――それが俺の日常。



 「職業:自営業(※悪役)(元•本物の怪人)」

 イベント出演、SNS出演依頼、子ども向けショー、時には会社のPRイベントまで。

 代わりに殴られることも吹っ飛ばされることもある。

 本物の怪人をやっていた事もある。

 あの頃と比べると、たいした事などない。

 誰かが必要とする“悪”なら、悪くない。



 コンビニ休憩室。


「なあアオト、お前さ、なんでわざわざ怪人役なんかやってるんだよ」

「需要があるからだろ。今、街で一番足りてない職種だぞ?」

「いや、そういう話じゃ……」


 ――その瞬間、スマホが震えた。

 《依頼:明日15時 ステージショウ“正義の祭典”にて悪役出演希望》

「……ほら、来た」

 俺はスマホを掲げ、少し得意げに笑う。


 ヤマダは呆れ顔。

「……殴られるだけで、仕事になるんだな」

「そう、仕事だ。痛みもギャラのうちってやつさ」



 帰り道、街の中心にある広場を通る。

 子どもたちがヒーローショーを見上げ、歓声を上げる。

 ステージ上では、新人ヒーローたちがキラキラのスーツでポーズを決めている。

「すげえ……正義過多だな……」


 俺は悪役用の黒と赤のスーツを肩に掛け、横目で観察する。

 ヒーローたちは完璧な笑顔だが、誰も汗まみれで吹っ飛ぶ役はやりたがらない。

 ――だから俺がやる。

 代わりに殴られ、代わりに吹っ飛ぶ。

 皮肉だけど、街は確かに平和だ。



 途中、路地裏で酔っ払いが暴れていた。

「ヒーローはいねぇのかよー!」

 俺は軽くため息をつき、スーツを装着。

「……よし、悪役の力を見せてやるか」


 手を出す前に、酔っ払いは自滅。

 ヒーロー不在でも、少しだけ正義を体現した気分になる。

「……ま、これも仕事のうちか」




 部屋に帰ると、窓の外は街灯が整然と並ぶ夜景。

 ヒーローたちのパトロールは、どこかで誰かを守っている。

 俺はソファに沈み、スーツを脱ぐ。


「でも、誰も悪役やりたがらないんだよな……」

 頭の中でヤマダの声が響く。

「それでいいんじゃない? 悪役って、やっぱ危ないしな」


 危ないのは確かだ。

 でも、誰もやらないなら、俺がやるしかない。

 少し孤独だけど、仕事には誇りがある。





 翌朝、街は朝日で輝き、ヒーローたちは今日もパトロール中。

 子どもたちが手を振る。


 俺はスーツを肩に掛け、気合いを入れる。

 今日も一日、ヒーローたちに殴られる準備完了。

 それでも、胸の奥で誇らしい気持ちが少しだけ膨らむ。


「必要とされる悪役、それが俺の仕事。さ、今日もやるか」


 ブラック・アオトン、今日も稼働中。

 仮面の下で、俺は小さく笑った。



次回予告:

第2話「悪役にも、労災は出るらしい」

――新人ヒーローに本気で吹っ飛ばされるブラック・アオトン。

命削っても、正義のために笑う男の物語、ここに続く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ