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斎藤道三の話・我が子よ
斎藤道三は敵であるわが子・義龍の陣を見て思っていた。
我が父は一介の油売りから美濃の土岐氏の重臣まで登り詰めた。その後を継いだわしは土岐氏を、美濃から追い出し、国守の地位についた。だが、父は国盗りを教えてくれたが、その後のことは教えてくれなかった。確かにわしの治世は褒められたものではなかったかも知れぬ。それがため、人心はわしから離れ、義龍と敵対しても、わしのもとには兵は集まらなかった、それに比べ、義龍は人心の掌握に優れているのか。家督をあれに譲った後、あれほどまでもの手腕を見せるとは。義龍はわしと違い、人心を掌握している。それにもましてあの陣容。我が子ながら見事だ。
しかし、わしもこれでは終わらぬ。これが父として、お前にしてやれる最後の贈り物だ。それは我が娘.・帰蝶の婿・織田信長に国譲り状を書こう。
ああ、あの類まれな器量人に討ち勝ってくれ。我が子よ。
斎藤道三
長良川の戦において、我が子・義龍に討たれる。
享年 六十二歳