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日本歴史絵巻 杉勝啓短編小説集  作者: 杉勝啓


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19/19

葛飾応為の話

あたしの名はお栄。

父ちゃんの名はいっぱいあるけど、葛飾北斎と言ったらわかるかな。

父ちゃんは、あたしに女らしくしろとか、家事をしろとか言わないんだ。

あたしたちは1日中、絵を描いていられれば、それでも幸せだった。

あたしが掃除もしないもんだから、家の中はいつも汚かった。

でも、父ちゃんは掃除しろなんで一言も言わないんだ。住めないほど、汚くなって、ご近所さんから苦情が来るようになると、父ちゃんの言葉はいつも一緒。

「引っ越そう」

うん、究極の解決方法だよね。


そして、あたしの絵を誰よりも認めてくれたのも父ちゃんだった。


こんなあたしでも、一度は嫁に行ったんだ。その人も画家で南沢等明って人だったけど、あたしはつい、本当のことを言っちゃったんだ。下手だって。


出戻ったあたしは父ちゃんに叱られると思ったけど、父ちゃんは言ったんだ。

「仕方ないなあ。そりゃ、お前は美人画にかけては俺よりうまいんだから、そう思うのは無理もない」

って…あたしはとても嬉しかった。


でも、父ちゃんが亡くなって、絵の仕事が来なくなっちゃった。父ちゃんはあたしを認めてくれたけど、絵で食べていくのは、父ちゃんほどの名前があってのことだったって、あたしは実感した。

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