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葛飾応為の話
あたしの名はお栄。
父ちゃんの名はいっぱいあるけど、葛飾北斎と言ったらわかるかな。
父ちゃんは、あたしに女らしくしろとか、家事をしろとか言わないんだ。
あたしたちは1日中、絵を描いていられれば、それでも幸せだった。
あたしが掃除もしないもんだから、家の中はいつも汚かった。
でも、父ちゃんは掃除しろなんで一言も言わないんだ。住めないほど、汚くなって、ご近所さんから苦情が来るようになると、父ちゃんの言葉はいつも一緒。
「引っ越そう」
うん、究極の解決方法だよね。
そして、あたしの絵を誰よりも認めてくれたのも父ちゃんだった。
こんなあたしでも、一度は嫁に行ったんだ。その人も画家で南沢等明って人だったけど、あたしはつい、本当のことを言っちゃったんだ。下手だって。
出戻ったあたしは父ちゃんに叱られると思ったけど、父ちゃんは言ったんだ。
「仕方ないなあ。そりゃ、お前は美人画にかけては俺よりうまいんだから、そう思うのは無理もない」
って…あたしはとても嬉しかった。
でも、父ちゃんが亡くなって、絵の仕事が来なくなっちゃった。父ちゃんはあたしを認めてくれたけど、絵で食べていくのは、父ちゃんほどの名前があってのことだったって、あたしは実感した。




