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日本歴史絵巻 杉勝啓短編小説集  作者: 杉勝啓


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13/19

片桐且元の話 最後の夢 戦国時代

大阪冬の陣がおき、大阪夏の陣で豊臣方が敗北し、豊臣秀頼とその母、淀の方が自害し、応仁の乱より長く続いた戦乱の世はおわりを告げました。


それから間もなくある一人武将がこの世を去ろうとしていました。

「ああ、殿さま、お目覚めですか?」

「そなたは…」

「はい。殿さまの世話をさせていただくことになりました。琴音と申します」

「そうか。よろしく頼む」

「よく、お眠りでした。幸せそうなお顔していました」

「ああ…お館様の夢を見ていた」

「お館様?太閤殿下ですか?」

「いや、浅井長政様の」

「浅井長政?誰ですか?それ?」

「ああ…そうだな。もうあの方のことを覚えている者もいないのだな。御台様の父に当たられる方だ」

「御台様の?では、さぞ、立派な方なのでしょうね」

「ああ…立派なお方だったよ」



「助作、こっち、こっち、早く、父上が私に馬を買ってくださったんだ」

「おう、来たか。万福丸、人まかせにせず、きちんとお前が世話をするのだぞ」

「はい」

「助作、万福丸にいろいろ、教えてやってくれ」

「かしこまりました」

「ねえ、馬に乗りたいな」

「助作、頼めるか」

「はい。万福丸様、少し駆けましょうか」

「わあい」

「助作はすごいな。私も大人になったら、助作みたいになれるかなあ」

「もちろんですとも」

万福丸様が大人になることはなかった。万福丸様は素直で優しい方だった。

万福丸様がいったい、何をしたっていうんだ。まだ10歳の万福丸にどんな罪咎があったというんだ。まだ、10歳だったんだ。



「助作、戦において何が一番、重要かわかるか」

「武力でしょうか?」

「違うな。それも、まあ…大事だが、一番、重要なのは兵站だ。いわば、金だな」

「金ですか?」

「戦になれば兵たちの食欲も性欲も満たしてやらねばならん。性欲を、満たしてやらねば、無辜の民に乱暴狼藉を働くものは必ず出てくる。そのために陣場女郎もいる。私は彼女たちにひどいことをしているとは思う」

お館様はそう言って辛そうな顔をしていた。

「そなたは政元(浅井長政の弟)について兵站の事を学べ」




小谷城が落ちる

「助作、お前の父とお前が最後まで忠義を尽くしてくれたのはうれしい。だが、おまえの死に場所はここではない。私のような莫迦な主ではなく、よき主に使え、一廉の武将になれ。そして、遠い未来に少しでも私のことを思い出してくれたらうれしい」



ああ…あれは初様…初様は何とか徳川と豊臣を取り持とうと奔走していた。

「ああ、助作、姉上は聞く耳を持ってくれません。城を出て降伏するのなら、悪いようにはしないと内府さま(徳川家康)は約束してくださったのに、何とか姉上を助けられませんか」


国松様…

あの時と同じだ。万福丸様の時と同じだ、まだ6歳の国松様が何をしたというんだ?


結局、私は誰も守れなかった。万福丸様も茶々様も秀頼様も国松様も……


「助作」

「お館様、私を怒っているのですか?」

「ああ…私は怒っている。なぜ、こんなに早くきた?もっとゆっくりくればよいではないか」

「茶々も茶々だ。あれほど生き急ぐな。死に急ぐなと言い聞かせたではないか」

「ごめんなさい。父上に早く会いたかったのですもの」

「あなた、茶々を叱らないでください。茶々は戦乱の世を終わらせて来たのですよ。褒めてやってください」

「お方様!」

「市、おまえも私のもとに来るのが早すぎる」


「助作!こっち、こっち、みんな待っているよ。父上も母上もおじい様もおばあさまも」

「万福丸様!」


桐一葉落ちて天下の秋を知る


片桐且元 享年60歳







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