片桐且元の話 最後の夢 戦国時代
大阪冬の陣がおき、大阪夏の陣で豊臣方が敗北し、豊臣秀頼とその母、淀の方が自害し、応仁の乱より長く続いた戦乱の世はおわりを告げました。
それから間もなくある一人武将がこの世を去ろうとしていました。
「ああ、殿さま、お目覚めですか?」
「そなたは…」
「はい。殿さまの世話をさせていただくことになりました。琴音と申します」
「そうか。よろしく頼む」
「よく、お眠りでした。幸せそうなお顔していました」
「ああ…お館様の夢を見ていた」
「お館様?太閤殿下ですか?」
「いや、浅井長政様の」
「浅井長政?誰ですか?それ?」
「ああ…そうだな。もうあの方のことを覚えている者もいないのだな。御台様の父に当たられる方だ」
「御台様の?では、さぞ、立派な方なのでしょうね」
「ああ…立派なお方だったよ」
「助作、こっち、こっち、早く、父上が私に馬を買ってくださったんだ」
「おう、来たか。万福丸、人まかせにせず、きちんとお前が世話をするのだぞ」
「はい」
「助作、万福丸にいろいろ、教えてやってくれ」
「かしこまりました」
「ねえ、馬に乗りたいな」
「助作、頼めるか」
「はい。万福丸様、少し駆けましょうか」
「わあい」
「助作はすごいな。私も大人になったら、助作みたいになれるかなあ」
「もちろんですとも」
万福丸様が大人になることはなかった。万福丸様は素直で優しい方だった。
万福丸様がいったい、何をしたっていうんだ。まだ10歳の万福丸にどんな罪咎があったというんだ。まだ、10歳だったんだ。
「助作、戦において何が一番、重要かわかるか」
「武力でしょうか?」
「違うな。それも、まあ…大事だが、一番、重要なのは兵站だ。いわば、金だな」
「金ですか?」
「戦になれば兵たちの食欲も性欲も満たしてやらねばならん。性欲を、満たしてやらねば、無辜の民に乱暴狼藉を働くものは必ず出てくる。そのために陣場女郎もいる。私は彼女たちにひどいことをしているとは思う」
お館様はそう言って辛そうな顔をしていた。
「そなたは政元(浅井長政の弟)について兵站の事を学べ」
小谷城が落ちる
「助作、お前の父とお前が最後まで忠義を尽くしてくれたのはうれしい。だが、おまえの死に場所はここではない。私のような莫迦な主ではなく、よき主に使え、一廉の武将になれ。そして、遠い未来に少しでも私のことを思い出してくれたらうれしい」
ああ…あれは初様…初様は何とか徳川と豊臣を取り持とうと奔走していた。
「ああ、助作、姉上は聞く耳を持ってくれません。城を出て降伏するのなら、悪いようにはしないと内府さま(徳川家康)は約束してくださったのに、何とか姉上を助けられませんか」
国松様…
あの時と同じだ。万福丸様の時と同じだ、まだ6歳の国松様が何をしたというんだ?
結局、私は誰も守れなかった。万福丸様も茶々様も秀頼様も国松様も……
「助作」
「お館様、私を怒っているのですか?」
「ああ…私は怒っている。なぜ、こんなに早くきた?もっとゆっくりくればよいではないか」
「茶々も茶々だ。あれほど生き急ぐな。死に急ぐなと言い聞かせたではないか」
「ごめんなさい。父上に早く会いたかったのですもの」
「あなた、茶々を叱らないでください。茶々は戦乱の世を終わらせて来たのですよ。褒めてやってください」
「お方様!」
「市、おまえも私のもとに来るのが早すぎる」
「助作!こっち、こっち、みんな待っているよ。父上も母上もおじい様もおばあさまも」
「万福丸様!」
桐一葉落ちて天下の秋を知る
片桐且元 享年60歳




