悪魔王?のドード
「チッ! 今回も失敗か!」
光の賢者を足止めできたから今回こそはと思ったが、また世界樹奪取に失敗した。
せっかくブーケを焚き付けて悪魔憑きにしたというのに。
ブーケは能力が高い上に、ジュリーが酷い目に遭えばすぐ怒る。
だから今まで重宝していたが、ジュリーが婚約解消した以上、今後は悪魔憑きにし辛くなるだろう。
便利な手駒が減ったことに思わずため息をつくと、俺の中にいた闇の精霊が話しかけてきた。
「ドードさん、もう諦めましょうよ。世界樹を手に入れたところで、貴方達の世界が復活するとは限りませんよ」
「うるさい。そんなこと、試してみないとわからないだろ。貴様は自分の世界が俺達のように滅びても、諦めることができるのか?」
何度敗れようとも、諦めるものか。
世界樹のエネルギーを使えば、俺達の世界を復活させることができるかもしれない。
だからこそ我らが創造神様のためにも、俺は必ず世界樹を手に入れなければならないのだ。
「確かに、僕がドードさんの立場だったら諦めることはできません。だからこそ、僕達だって貴方達からこの世界を守っているのです」
目障りな精霊どもだ。
それでも、数千年前に転生した時に闇の精霊を捕まえることができたのはラッキーだった。
おかげで賢者が一人減った上に、闇の精霊の加護を与えることで悪魔憑きをパワーアップさせることができた。
「ドードさん。いっそのこと、僕達の世界の精霊になるというのはどうでしょうか? 僕達の創造神様にお願いすれば『怒りの精霊』として受け入れてくださると思いますよ」
「ふざけるな! 我らが創造神様を裏切れというのか!? 俺が仕えるのは、後にも先にも我らが創造神様だけだ!」
たとえ何度も転生することになろうとも、他の連中が諦めようとも、俺だけは決して最後まで諦めない。
「それに諦めなかったからこそ、俺にチャンスが巡ってきた。今世の俺には、賢者達と戦う以外にも世界樹を手に入れる手段がある」
世界樹はアスタリア王国が管理していて、管理権限は、その時代の国王に代々受け継がれている。
つまり国王になれば、戦わずして世界樹が手に入るのだ。
王子に転生できた今の俺には、次期国王になるという選択肢もある。
「この際、王位争いに専念するか?」
「それはそれで難しいのではないのでしょうか? 第一王子のアベル殿下は優秀で民から慕われている上に、国王陛下に気に入られていますし。それに王妃様の長子・カイル殿下も優秀ですから、王妃様に配慮して次期国王にするとも考えられます」
あぁ、クソッ!
賢者達も厄介だが王子達も面倒だ。
何度か悪魔憑きを使って他の王子達を殺そうと試したが、奴らは逃げるのがうまい。
始末するのが難しい以上、俺の派閥を強化するのが無難か。
手っ取り早く強化するには、中立派の貴族を味方につけるのが一番だ。
中立派で味方にできそうな奴はいないだろうか?
「…そうだ!」
ジュリーが婚約解消した今、長年中立派だったオルティス公爵を取り込むチャンスじゃないか。
しかもオルティス公爵はこの国の宰相だ。俺の派閥に加われば王位争いで一歩リードできる。
「ジュリーに婚約を申し込んでみるか」
オルティス公爵を取り込むには、一人娘であるジュリーと結婚するのが一番手っ取り早い。
しかもジュリーは元から評判が悪い上に『夜会で婚約者に捨てられた』という汚名もあるから、俺以外に婚約を申し込む奴はいないだろう。
「果たして、オルティス公爵が婚約を受け入れるでしょうか? 長年、頑なに王位争いに参加しなかった家ですよ? オルティス公爵は、中立派の貴族以外とは結婚を認めないのではないのでしょうか?」
確かに、それは十分にあり得る。
オルティス公爵は頑固だから、王子の俺が申し込んでも簡単には承諾しないだろう。
「それにアベル殿下贔屓の国王陛下が、ジュリー嬢との婚約を認めるとは思えません」
「…貴様の言うことにも一理ある。だけどもし、ジュリーが俺との結婚を受け入れたら、どうだ?」
今の国王は、少し変わった奴だ。
自分が最愛の相手と引き裂かれて政略結婚をさせられたからか、自分の子ども達には政略結婚をさせたくないらしい。
だから公爵目当ての結婚は当然、却下される。
だけど俺がジュリーと恋仲であるフリをすれば、国王は逆にジュリーとの結婚を許すだろう。
国王が頼めば、流石のオルティス公爵も婚約を受け入れる他ない。
そのためにも、まずはジュリーを振り向かせる必要がある。
「あのガードの固そうなジュリー嬢が、ドードさんを好きになるでしょうか?」
「あの女とは接点があるし、仲も悪くはない。俺の行動次第では可能性はある」
そんな話をしていると、生徒会室の外からジュリーとジャズの話し声が聞こえてきた。
ジャズが勢いよく扉を開けると、二人は生徒会室の中に入ってきた。
「悪ぃ、ユミル。ちょっとお腹下してトイレが長引いた」
そう言ってジャズはヘラヘラと笑いながら、謝る気のない謝罪を俺にした。
「すみません、殿下。ブーケを探していたら彼女が悪魔憑きになってしまったので、避難していました」
一方のジュリーは、申し訳なさそうに俺に謝った。
「別にいいよ、二人とも。仕方ないことだし」
俺は闇の精霊との会話を打ち切って、いつものように生徒会室で午後を過ごした。