表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です  作者: サトウミ
アンサムの秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/52

消された記憶

中庭でレディーナと話していると、後ろからアンサム様が現れた。

彼の手には赤黒い本があることから、彼がこの本で私達の頭をコツンと叩いたのだろう。


アンサム様は珍しく眼鏡をかけていない。

そのせいで見えにくいのか、目を瞑っているのかと思うくらい細めていた。


「痛ぇな。何すんだよ、アンサム」

「すみません。呼びかけても反応がなかったので、つい」

「アンサム様が裸眼で歩かれているなんて珍しいですね。どうされたのですか?」

「それが、眼鏡がどこかに消えてしまったので探しているのです。お二人とも、どこかで見かけませんでしたか?」


「まぁ! それは大変ですね。私は見かけませんでしたが、レディーナは?」

「私も知らない。一緒に探そうか?」

「いえ、結構です。これ以上、お二人の会話の邪魔をしたくはないので。要件はそれだけです。失礼しました」


アンサム様は聞きたいことだけを聞くと、さっさと立ち去ってしまった。


「アンサム様の眼鏡、見つかるといいですね」

「だな」

「ところで、さっきの話の続きですが……何の話をしていましたっけ?」

「ジュリーの好きな人の話だよ!」


聞き直して少し後悔した。

せっかく話が逸れたのだから、そのまま無かったことにしておけば良かった。


「単刀直入で聞くけど、お前の好きな人って……もしかしてユミルか?」


レディーナは含み笑いをしながら尋ねる。

だけど聞き覚えのない名前が出てきて、私は頭にはてなマークを浮かべて眉を顰めた。


「その表情、図星か?」

「いえ。レディーナ様、その『ユミル』という方はどなたですか?」

「はぁ? 何の冗談だよ」


私の質問に、レディーナは笑いながら眉間に皺を寄せた。


「いくら誤魔化せないからって、『ユミルを知らない』っつう設定は無理あるだろ」

「設定も何も、本当に聞き覚えのない人物なのですが」


「アホ抜かせ! だったらお前の中でこの国の第二王子は誰なんだよ。生徒会長は? この前私と会った時に一緒にいた人物は?」


「この国の第二王子ですか? 第一王子はアベル殿下で、第三王子はカイル殿下で、その間が第二王子ですよね? ……あれ? どなたでしたっけ?」


そんな重要人物、忘れようがないのに思い出せない。

レディーナの言い方からして、その人物は生徒会長で、この前彼女と一緒に会ったことがある人のようだ。


だけど生徒会長の姿も思い出せない。

同じ生徒会役員だから、絶対に顔見知りなはずなのに。

他の役員は全員思い出せるのに、生徒会長の顔だけは、いくら記憶を捻り出そうとしても出てくる気配すら感じられない。


ジュリーの姿でレディーナと会った時にもいた人物のようだけれど、あの時、タマモ様とヒヒさん以外にも誰かいたかしら?


必死に記憶を巡らせてみても一向に思い出せず、無言の状態が続く。


「お前、本当に大丈夫か? どうしてもユミルを思い出せないんだったら、直接本人に会うか」

「えっ、その方に会えるのですか?」

「アイツは生徒会長だからな。生徒会室に行けば会えるだろ」


確かに、それは一理ある。

第二王子で生徒会長でもあるのに、一切記憶に残らない人物って、一体どんな人だろう?


私とレディーナは、ユミルという方に会うために生徒会室へと移動した。



◆◆◆



レディーナと一緒に生徒会室に着くと、中にはなぜかカイル殿下しかいなかった。


「あっ。ジュリー嬢に……レディーナ様!? 今日はどうされたのですか?」

殿下はレディーナがいることに、目を丸くして驚いた。


「レディーナ様は私に聞きたいことがあったようで、先程まで質問を受けていました。それよりカイル殿下は、なぜこちらに? 他の方は?」

「それが、僕が来た時には誰もいなかったんだ。アンサムが先に来ていると思ったんだけど、彼すらいなくて」

「アンサムだったら、さっき中庭で見たぞ」

「眼鏡を無くされたようで、探していました」


せっかくユミルという方に会いに来たのに、当てが外れた。

もしかすると生徒会長の記憶がない理由は、今みたいにタイミングが悪くて会う機会が少なかったから、なのかもしれない。


「あ〜あ、折角ジュリーとユミルを会わせようとしたのに。間が悪いな」

「ユミル兄上と? どうしてですか?」

「実はジュリーが、ユミルが誰か忘れたみたいでさ」

「え?」


カイル殿下は眉を顰める。


「ジュリー嬢、本当に兄上を思い出せないの?」

「はい、申し訳ありません。第一王子であるアベル殿下は記憶にあるのですが、第二王子殿下はどなただったか記憶にございません」

「……本当なのかい?」


何度聞かれようと、覚えていないものは仕方ない。


「な? コイツ、おかしいだろ? だからユミルに会えば嫌でも思い出すかと思ってさ」

「ユミル兄上以外に忘れた人はいないの?」

「わかりません。そもそも、忘れたつもりもないため、仮に他に忘れている方がいらしても自分では気づけないかと思います」


「だったら、他の生徒会メンバーは?ジャズさんやアンサムは、分かるよね?」

「はい、勿論です」

「ブーケさんやキャリーさん、ロックくん……あとご両親やお二人のお兄様は?」

「覚えています」

「本当に、忘れているのはユミル兄上だけなのか?」


私の反応に、レディーナもカイル殿下も、頭を抱えている。


「ユミル兄上の記憶だけが抜け落ちるなんて、不自然じゃないか? つい昨日までは普通に話していたし、それまでの間に何かがあったとしか思えない」


昨日もユミルという方と話していたの?

それなのに忘れているなんて、流石に自分の記憶力を疑わざるを得ない。


「なぁ、ジュリー。記憶が消えた理由に心当たりはねーのか? 例えば階段から落ちたとか、頭に何かをぶつけたとか」

「いえ。昨日と今日で、怪我をするような出来事は特にはありませんでした」


強いて言えばアンサム様が本を頭にぶつけてきたことくらいかしら。

だけど、あの程度で記憶が消えるはずがないわ。


「だったら、悪魔憑きの能力で消された……とか?」

「その可能性は考えられますね。ですが、悪魔憑きと遭遇した記憶は……あれ?」


そこでふと気がついた。

悪魔憑きって、どんな姿をしていたのだっけ?

悪魔憑きにされた人のことや、悪魔憑きが怒りによって生まれることは覚えている。

だけど過去の戦った記憶を振り返っても、悪魔憑きの姿だけがすっぽりと記憶から抜け落ちている。


「すみません、悪魔憑きはどのような姿をしているのでしたっけ?」

「お前なぁ、そんなことも忘れたのかよ」


レディーナは物忘れの激しい私に、呆れてため息をついた。


「悪魔憑きの見た目はだな……その……あれ?」

「どうかしましたか?」

「悪魔憑きって、どんなんだっけ?」


レディーナも覚えていないの?

賢者二人が悪魔憑きの記憶があやふやだなんて、非常事態だわ。


「まさかレディーナ様まで記憶を失っているとは。悪魔憑きの記憶を二人揃って無くすなんて、都合が良すぎます。本当に悪魔憑きの仕業かもしれませんね」


カイル殿下の言葉に、思わず息を呑む。

賢者二人に気づかれずに記憶を消す手強い悪魔憑きに、私は思わず鳥肌が立った。


「ちなみに悪魔憑きは、赤と黒を基調とした姿をしています」

「赤と黒?」

「それって、ジュリーのことか!?」


レディーナは疑念の目で私を見た。

私自身、自分を疑ったが、昨日以降で怒った記憶がないから違うはずだ。


「いえ。ジュリー嬢の姿は悪魔憑きとは関係ありません。むしろ悪魔憑きの特徴が彼女と一致しているために、彼女はいつも誤解を受けるのです」


なるほど、だから私はいつも怖がられてしまうのね。


「そっか。ならジュリー以外で赤と黒っぽい奴か…誰かいたか?」

「いえ。見ませんでした」

「私もです」


「だったら、悪魔憑きと違うんじゃねえか?」

「悪魔憑きが記憶を消せるのであれば、私達と会った時に記憶を消しているのではないでしょうか? だから記憶にない、という可能性もあります」

「確かに、仮にそうだとしたら厄介な相手だね。最悪な事態を考慮して、悪魔憑きを探した方がいいんじゃないかな」


「だな。じゃあ私は念の為、悪魔憑きを探してくる! ジュリーとカイルは、もし見つけたら私に教えてくれ!」

「はい」

「わかりました」


こうして私達は生徒会室を出て、悪魔憑き……もとい、赤と黒っぽい姿をした人を探し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ