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悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です  作者: サトウミ
10.湖水浴

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クリー湖へ

「わぁ〜、大きな湖! まるで海みたい!」

「わざわざ遠くまで行った甲斐があったわね」


王都から翼竜車で2時間程離れた場所にある、緑豊かなドンモルガ山。

私達はその山にある、クリー湖に遊びに来ていた。


クリー湖の岸辺には色とりどりの野花が風に揺れている。湖面は鏡のように周囲の木々を映し、時折、水中を泳ぐ魚の姿が見えた。

その自然溢れる光景は、見る者の心を癒す。太陽が暖かく、空気がおいしい。


クリー湖は、気候が安定しているためオフシーズンがない。そのため一年中、特に今日のような休日は人で賑わっていた。


「あぁ〜…死ぬかと思った」

「アンタ、大丈夫?」


クリー湖に着いたばかりだというのに疲れ果てて項垂れているのは、ブーケの弟のロックだった。

彼は翼竜車から降りると、その場に倒れるように座り込んだ。


ブーケの一つ年下のロックは、女性の私よりも小柄で可愛らしい。噂では、その大きくて綺麗な瞳の虜になった男性もいるとか、いないとか。

これだけ愛らしいと、キャリーが女装させたがる気持ちも分かるわ。


そもそも今日、みんなでクリー湖へ行くことになったのは、キャリーが『ロックと仲良くなりたい』と言い出したことがキッカケだ。

その話の流れで、私が『生徒会メンバーも含めてお出かけしよう』と提案したため、今日は大人数で遊びに来ている。


それにしても、これだけの大人数が、小さな翼竜車によくおさまったものね。

ユミル殿下にジャズ先輩、アンサム様にカイル殿下、ブーケとロック、キャリー、それから私。

8人も乗せて空を飛べる翼竜は、意外と力持ちだ。


「ロックくん、高所恐怖症だったんだね! そういうところも可愛い♪」

「……可愛いって言うな」


「それより、いつまでもへたり込んでないで、あそこで受付を済ませてボートを借りるわよ」

「わかってるよ、姉ちゃん」


ロックが大きく深呼吸をして立ち上がると、私達は桟橋の近くにある受付まで移動した。


クリー湖の奥のほうには、すでにいくつかのボートが浮かんでおり、そのボートには親子連れやカップルが乗っていた。

中にはボートに乗りながら釣りを楽しんでいる人もいる。

ジャズ先輩がそれを見たら「俺も釣りをしたい」と言い出しそうね。


受付につくと、ブーケが代表で受付の人に話しかけた。


「お客様、本日は何名様ですか?」

「8名です」

「何をレンタルされますか?」

「ボートでお願いします」

「釣り用具や水着はレンタルされますか?」

「水着? って、何ですか?」

「あちらのお客様達が着られているものです」


受付の人は岸辺にいる人達を指さした。

彼らは信じられないことに、少し薄手の服を着て湖の中を泳いでいる。その光景に、私は若干、引いてしまった。


服を着たまま水の中に入って、溺れないのかしら?

百歩譲って下着だけで泳ぐならまだしも、水着とはいえ薄手の服を着たまま泳いだら、服が水を吸って動き辛そうだわ。かといって、下着になってまで泳ぎたいとも思わないけど。


「あっ! いいなぁ〜。僕、泳ぎたい♪」

「俺も俺も!」


嘘でしょ?

ロックとジャズ先輩は、湖水浴に興味深々だ。


「私も! 泳ぐの楽しそう!」

「水着が借りれるのだったら、泳ぐのもいいわね♪」


キャリーとブーケまで泳ぎたがっている。


「でしたら、ボートではなく水着を借りましょう」

「そうだね。事前予約していないから、無理にボートを借りる必要もないしね」


アンサム様とカイル殿下も乗り気だ。

どうしよう。この流れでボートがいいと言い出し辛い。


「今日はボートに乗る予定だったんだし、泳ぐのはまた今度にした方がいいんじゃないかな?」


助け舟を出すようにそう言ったのは、ユミル殿下だった。ボート派が私だけでなくて良かったわ。


「えぇ〜! 却下! 僕、泳ぎたいもん」

「ボートの方こそ、また今度でいいだろ。今日は泳ごうぜ!」

「だけど、泳ぐのに必要な物や、泳いだ後に身体を乾かしたりする物は持ってきてないよね? 準備もなしに泳いだら、後々大変だと思うよ」


「その心配はありません。水着をレンタルされますとタオル等もセットでレンタルできます。それに更衣室もありますし、荷物のお預かりもできますので、気軽に泳ぐことができます」


「…だってよ、ユミル。お前以外、みんな泳ぎたいんだから、ボートは今度にしようぜ」

「だけど…」


「ユミル殿下。もしかして、湖の中に入るのが怖いのですか?」


アンサム様の指摘に、ユミル殿下の顔が強張る。

その表情からして、図星なのだろう。


「えぇ〜! 王子サマなのに泳ぐのが怖いの〜? カッコ悪〜!」

無邪気な顔で嘲笑うロックに、ユミル殿下は悔しそうに俯いた。


「ユミル殿下って、苦手なものはないイメージがあったんですけど、意外と可愛らしいところがあるんですね。湖を怖がる殿下も、それはそれでアリです♪」

キャリーは馬鹿にしたつもりで言ったのではないのだろうけど、ユミル殿下は彼女の言葉に、恥ずかしそうに顔を赤くした。


「大丈夫ですよ、ユミル殿下。浅瀬であれば溺れはしませんから」

気遣うように話すアンサム様だったが、彼がうっすらと笑みを浮かべているのを私は見逃さなかった。


『湖に入るのが怖い』というだけで小馬鹿にされるのは解せないわ。


「ユミル殿下、私もボートがいいので一緒に乗りませんか?」

「えっ、いいの?」

ユミル殿下は顔を上げると、目を丸くして私を見つめた。


「はい。実は私も、湖に入るのが怖いのでボートに乗りたかったのです。ユミル殿下が『ボートにしよう』と言ってくださって助かりました」

「そうだったんだ。こちらこそ助かったよ。ありがとう」

ユミル殿下の安堵したような笑顔に、思わず私もつられて笑顔になった。


「それじゃあ、ジュリーとユミル殿下の二人はボートを、残りのメンバーは水着を借りるけど、それでいい?」

「えぇ。私と殿下の二人は…」


そこまで口にして、ふと気づいた。

ユミル殿下と二人でボートに乗ったら、側から見たらまるで恋人同士のようだわ。

それに、ユミル殿下が本当にウイン様だったとしたら、これはつまり…。

そこまで考えると、急に顔が熱くなった。


「だったら僕も! 僕もボートに乗りたい!」

突然、声を張って意見を変えたのは、カイル殿下だった。


「みんなが泳ぐなら別にそれでもいいかなって思っていたけど、本当は僕もボートに乗りたかったんだ。ついでに釣りもしてみたいしね」


カイル殿下の申し出を残念に思う気持ちと、安堵する気持ちが入り混じる。

きっと、これで良かったのよ。

ウイン様…いえ、ユミル殿下と二人きりになったら、正体を探ってしまいそうだもの。


私はボートを借りると、殿下達と一緒に乗って湖の奥の方まで移動した。

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