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悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です  作者: サトウミ
9.獣人族の王女と土下座

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ジュリーとレディーナ

最悪だ。

せっかくフィーネ様やレディーナ様、そして何よりジュリー嬢と会える日だというのに。


この日、僕は高熱にうなされて、ベッドの上から立ち上がれなかった。

体温は高いはずなのに、悪寒がする。

そのため布団にうずくまって、暖を取った。


(お前って、ホントついてないな。こんな大事な日に限って体調を崩すなんて)


念話で風の精霊(グーリン)様は大きくため息をついた。

僕も心の中で大きくため息をつく。


(まぁ、ジュリーは学校でも会えるんだし、気を取り直せよ)

(そうだけど、彼女と一緒に話すことなんて滅多にないじゃないか。せっかく彼女と話せる機会だったのになぁ…)


今すぐにでもベットから出てジュリー嬢に会いに行きたい。

なのに身体が重くて、ベッドから立ち上がる気力が湧かなかった。


(ジュリーと話す機会がなんて、これからいくらだって作ればいいさ。それに、これはこれで逆に良かったんじゃないか?)


(良かった? なんで?)


(だってもしジュリーと仲良くなりすぎて、彼女がウインのことを好きになったら目も当てられないだろ? お前が今の姿で告白しても『私はウイン様が好きだからカイル殿下とは付き合えません』って振られるんだぜ?)


(だけどウインも僕だよ? ジュリー嬢と一緒になれるなら、どっちの姿でも良いよ)


(甘いな。ジュリーがウインを好きになるってことは、その恋は期間限定の恋で終わるってことだ。悪魔王を倒したら離れ離れになるんだぜ? それに、お前にとっては同一人物でも、ジュリーにとっては別人なんだよ。仮に正体をバラしたとしても、ジュリーがカイルを好きになるとは限らないじゃないか)


(確かに、それはそうかも)


(まぁ、全部タラレバの話だけどな。ファンとはいえ、この前初めてウインの姿で会ったばかりなんだから、ジュリーが惚れてるワケないよ)


(そのくらい、わかってるよ)


だけど、この前の彼女の様子を思い出すと勘違いしそうになる。僕に抱っこされて照れている彼女は、一段と可愛かった。


(……彼女のことを思い出したら、意地でも会いに行きたくなってきた)


(気持ちはわかるけど、もう今日は諦めて寝な。ジュリーは逃げないって。彼女に会う前に倒れてたら世話ないぜ)


(ちょっと寝て少し回復したら、会いに行けるかな?)


(…そこまで会いたいんだったら、好きにしな。とりあえず俺はもう黙るから、お前はぐっすり寝ろ。寝過ぎてたら起こしてやるから)


(ありがとう、グーリン様!)


僕は少しでも回復する可能性を信じて、瞼を閉じて深呼吸をし、眠りについた。



◆◆◆


お昼時のカフェ『キャメル・モーダン』。

観葉植物で彩られた、木の温もりを感じるお店。

そのお店の出入口付近の席で、私はウイン様達が来るのを待っていた。

この席からなら二人が入ってくるのが一目瞭然だ。


私はホットココアをゆっくり味わいながら、出入口をチラチラと確認していた。


少し早く来すぎたかしら?

なかなか二人が来ないため、気がつけばココアをほとんど飲んでいた。


(ねぇジュリー、今からでも間に合うわ。フィーネの姿で二人に会うべきよ。先に約束をしていたのはフィーネの方でしょ?)


私の中に隠れている光の精霊(ワイティ)は、念話で話しかけてきた。


(確かにそうよ? でもフィーネの姿であればいつでも会えるでしょ? ジュリーの姿でウイン様と会えるのは、これが最後かもしれないじゃない)


(フィーネの姿で会えるなら、それで十分だよ。ジュリーは今の姿でウインと会って、何がしたいの?)


(何がって、それは…)


(ジュリーは将来、お父さんが決めた相手と結婚するつもり、なんだよね? だったらジュリーがウインと仲良くなる必要はないんじゃないの? 友達のままでいいなら、フィーネの姿でもいいじゃない)


ワイティに言われて、気づいた。

自分が思った以上に、自制できていないことに。

ウイン様への想いは心の中に留めておくつもりだったのに、全然できていない。


無意識のうちに緑を選んでしまったり、アベル殿下やジャズ先輩に片想いがバレたり、ウイン様の前で緊張して避けてしまったり…。

今だって、ジュリーの姿で会いに行こうとしている。


(別にウインに恋するなって言ってるわけじゃないよ? むしろジュリーの恋は応援したい! 過去に賢者同士で恋をした人もいたから、頑張ればきっとウインとも結ばれるよ!)


(本当?!)


(うん! ただし、お互いの正体をバラすのだけはダメだからね!)


(わかっているわよ、そんなこと)


って、いつの間にかウイン様と付き合う前提で考えていたわ!

私はお父様が決めた相手と結婚すると心に誓っているはずなのに。

…だけど、ウイン様と会うくらいなら別にいいわよね?


ワイティと念話で雑談をしていると、お店のドアが開く音が響いた。

お店に入ってきたのは、清らかな川のように綺麗な青い髪の少女──レディーナだった。


彼女は店の奥の、日の当たらない席に座って、ウイン様と私を待っていた。


やっと来たわね!

私は用意していたノートとペンを準備して、レディーナの席まで移動した。

レディーナは突然現れた私に、目を見開いて唖然としていた。


「あっ、お前!」

「初めまして、レディーナ様。私はオルティス公爵の一人娘、ジュリー・オルティスと申します。このように見た目ですが、悪魔憑きではございませんので安心してください」


「なんでジュリーがここにいるんだよ」

「実はウイン様が、本日レディーナ様とフィーネ様がこちらに来られることを教えてくださいました。お二人のサインが欲しくて来たのですが、よろしかったでしょうか?」


「別にいいよ。サインだったらいくらでも書いてやるよ!」

私がノートとペンを差し出すと、レディーナは照れくさそうに笑いながら、あっという間にサインを書いてくれた。


「ありがとうございます。ウイン様のサイン同様、家宝にします」

「家宝って、大袈裟なヤツだなぁ。…えへへ、大事にしてくれよな!」


「フィーネ様のサインも頂きたいので、このまま一緒にお待ちしていてもよろしいでしょうか?」

「いいよ。好きにしな」


良かった。これで一緒にいる大義名分を得た。

フィーネはこのまま待っていても、絶対に来ることはない。

つまり今日一日、『フィーネを待つ』という理由でウイン様やレディーナと一緒にいられる。

私はレディーナの向かいの席に座って、ウイン様が来るのを待った。


「あぁ、早くフィーネ来ないかなぁ〜」

「そうですね。私もサインが欲しいです」

私が来るのを楽しみにしているレディーナには申し訳ないけれど、フィーネは来ない。


ウイン様を待っている間に、レディーナが注文したコーヒーが運ばれてきた。

彼女がコーヒーを一口飲む間に、私は店員さんにお水を注文する。


「そういえばジュリーって、ウインのサインはもらったの?」

「はい。この前、ブーケが悪魔憑きになって学校に出た時を覚えていますか? あの時にウイン様にお会いして、助けてくださったついでにサインをいただきました」


「へぇ。あの時、お前もいたんだ」

「ちなみに、その時にレディーナ様達がこのお店に来られることを聞きました」


「なるほどな。ようやく話が見えた。まさか私が戦っている裏で、ウインとジュリーが出会っていたとはな」


「私も、まさかウイン様に会える日が来るとは思いもしませんでした」

フィーネの姿では何度でも会っているけど。


「お前ラッキーだったな。今日はウインどころか、私やフィーネとも会えるんだからさ。あぁフィーネ、早く来ないかなぁ〜」


レディーナは片手で頬杖をつきながら、出入口の方を眺めた。今か今かとフィーネ(わたし)を待ち侘びる彼女を見ていると、私のことを想う気持ちが伝わってきて嬉しくなる。


「ウイン様も、早く来るといいですね」

「アイツは別に。フィーネだけ来ればそれでいい!」


だけど彼女、ウイン様を毛嫌いしているフシがあるのよね。どうしてなのかしら?


「なぜウイン様は来なくてもいいのですか? 同じ賢者仲間ではありませんか。もしかして、ウイン様と仲が良くないのでしょうか?」


「えっ? 別に嫌ってないけど? ただ、それとこれとは別というか、なんというか…」


それとこれとは別?

なんの話かしら?


「つまり、どういうことですか?」

「つまり、だな…」

私が尋ねると、レディーナはまるで寝違えたかのように首を捻る。


「実はさ、私、好きな人がいるんだ」

「そうなのですね」


知っているわ。

レディーナの好きな人って、ジャズ先輩のことよね。

以前話した時にジャズ先輩のことをべた褒めしていたし、レディーナの好きな人はジャズ先輩以外ありえない。


「だけどさ、その人、実はウインのことが好きらしいんだよ」

「えぇ!?」


ジャズ先輩が、ウイン様を?!

てっきり先輩はフィーネ(わたし)が好きなのだと思っていた。

もし本当にウイン様が好きなのであれば、ジャズ先輩はもしかして……()()()()

キャリーが聞いたら飛んで喜びそうな話ね。


「まさか、意外ですね。その…同性愛者の方だとは、思いもしませんでした」

「え?…あぁっ!?」


するとレディーナは慌てて顔を横に振った。


「違う、違うの! そういう意味じゃないから! あくまで友達として好きっていう意味だから!」

「そうですか」


とんだ早とちりだったわ。

フィーネ一筋のジャズ先輩が、薔薇の人のはずがないものね。

だけどジャズ先輩は、ウイン様と友達だったの?

二人の関係が気になるわ。


「とにかく話は戻すけど、私の好きな人がウインを慕っているのが面白くないの。アイツ自身は、いいヤツだと思うよ? それに大事な仲間だとも思ってる。だけど、アイツにあの()を取られるのだけは嫌だ。そういう意味では、アイツは私のライバルだ」


大男のジャズ先輩を『あの子』呼びするなんて。

レディーナにとって、ジャズ先輩は可愛らしい存在、ということなのかしら?


「レディーナ様がウイン様に敵対心を抱く理由はわかりました。ですが、ウイン様とその方が恋仲になるとは思えません。レディーナ様がそこまで心配する必要はないのでは?」


試しに、ウイン様とジャズ先輩が恋仲になるところを想像してみる。

……う〜ん、天地がひっくり返っても、あり得ないわね。


「甘いよジュリー! お前は二人を見たことがないから、そんな呑気なことが言えるんだ! この前だってウインのヤツ、あの娘をお姫様抱っこしていたし」


ジャズ先輩をお姫様抱っこ?!

ウイン様は力持ちなのね。

だけどその場面、想像しただけでかなりインパクトがあるわ。


「しかもあの娘、ウインと話す時はいつも顔がほんのり赤いし! 今はまだ友達同士でも、時間の問題だろ!」


フィーネと会う時ですらあまり頬を赤くしないジャズ先輩が、ウイン様相手に照れているなんて想像もできないわ。

もしかして、本当に薔薇の人なの…?


「ですが仮にその人がウイン様に気があるとしても、ウイン様がその気でなければ大丈夫ではないのでしょうか?」


「どうだろうな? アイツこの前『君みたいな人に好かれる人は幸せなんだろうな』って言ってたくらいだしな。案外、気があるんじゃね?」


この前、私に対して言ってくださった言葉と同じね。ウイン様は誰に対しても同じことを言っていたのかと思うと、あの時言われて舞い上がっていた自分が馬鹿らしくなった。


「その台詞なら、私…の知り合いも言われたことがあるそうです。ですから特別な意味で言ったわけではないと思いますよ?」

知り合い、ではなく本人だけど。


「そうなの? じゃあ、ウインの方は気があるわけじゃないか」


ウイン様まで()()()の気があったら、たまったもんじゃない。


「だとしても! あの娘がウインに気があることに変わりない。どうにかして振り向かせたいんだけどなぁ。今の私じゃ、圧倒的に不利だ」


確かにジャズ先輩が薔薇の人なら、レディーナに勝ち目はない。

……そうだわ!

私はレディーナの手を握ると、彼女の目を見つめた。


「私、レディーナ様の恋を応援致しますわ! 私は王立アスタリア魔導学園で生徒会庶務をしています。ですので相談がありましたら、いつでも生徒会室か2年の教室に来てください。忙しくなければ、お話を聞きます」


レディーナは虚をつかれたかのように目を見開いて、瞬きをする。


「それに賢者様達や私生活の知り合いに相談できないことでも、私であれば聞けることがあると思います」


「確かに、そうかも。…ありがとう、ジュリー!」

レディーナは少し照れ臭そうにしながら微笑んだ。


すると突然、お店の扉が勢いよく開いた。

ウイン様が来たのかしら?

私とレディーナの視線は扉に集まる。


お店に入ってきたのは、狐のような耳と稲穂に似た髪色を持つ、野生味あふれる少女だった。

その少女に続くように、猿のような尻尾を持つ筋骨隆々の大男も中に入って来た。


「あれって獣人族? スゲェ、初めて見た」

「私もです」

レディーナと私は相手に聞こえないよう、こっそりと呟く。


獣人族の二人の後ろにも誰かがいるようだ。

その人物がお店に入って来た時、私は言葉を失った。


「あっ、アイツは…!」


獣人族の少女と一緒に入ってきた人物。

それは──ユミル殿下だった。

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