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悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です  作者: サトウミ
8.悪魔祓い講習

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煽ってみよう

「……なるほど。キャリーちゃん、ありがとう!」


これで、講習生全員の話を聞き終わった。

いろんな人の悪魔憑きになった話を聞くのは、新鮮ね。

ブーケからは何度か聞いたことはあるけれど、他の人の話を聞いて、改めて悪魔王の誘惑の恐ろしさを感じた。


ブーケもキャリーも、ジャズ先輩の叔父さんだって、普通なら悪魔憑きにならないように抵抗するはずだ。

だけれど言葉巧みに誘惑されているからか、それとも強い暗示をかけられているのか……みんな、悪魔王の誘惑に屈してしまう。

もし私が強い怒りに囚われたら、悪魔王の誘惑に打ち勝てるかしら?


「みんな、悪魔憑きになった時の話を聞いて、どう思った? 何か気づいたことがあった? 意見のある人は手を挙げて!」


アベル殿下の問いかけに、教室に一瞬、沈黙が流れた。

少しの間を置いて手を挙げたのは、アンサム様だった。


「はい! アンサムくん、どうぞ!」

「悪魔王は世界樹以外にも、何か別の目的があるような気がします」

「ほほう? 面白い考えだね」


世界樹以外の目的?

考えたこともなかった。

そもそも悪魔王の目的は、この世界を破滅させることじゃないのかしら?

だから、いろんな人を悪魔憑きにして、世界を混沌に陥れようとしている。

そう、私は思っていた。

でもアンサム様の言うように、もしそれ以外にも目的があるとしたら?


「アンサムくん、その考えの根拠はあるのかな?」

アベル殿下は、顎に手を当てて興味深そうに尋ねる。


「根拠はありません。ですが、世界樹を狙っているにしては、悪魔憑きにする人間の基準が不自然に感じました。世界樹奪取が目的であれば、ブーケさんのように素直に世界樹を狙う人間を中心に、悪魔憑きにすると思います。百歩譲って、命令に従わない相手を悪魔憑きにした場合、2度目はないはずです。ですがロザリア嬢のように、明らかに命令に従わなさそうな人間でも、何度も悪魔憑きにしています」


「世界を混沌に陥れるために、怒りやすい彼女を悪魔憑きにしているだけではないのでしょうか?」

私はつい、思ったことを意見した。


「それならばロザリア嬢以外にも、世界各地で悪魔憑きを生み出しているはずです。ですが悪魔憑きは、世界樹のある王都付近に頻繁に出てきます。そのことから、狙いが世界樹であることは一目瞭然かと思います」


するとアンサム様の考えに、ユミル殿下も興味を示した。


「だったら、ロザリア嬢が狙われているのは、彼女を使って賢者様達の正体を暴くためじゃないかな? 賢者様達の正体を特定して、先手を打つことができれば、世界樹が奪いやすくなるからね」


なるほど、ユミル殿下の言う通りだわ。

それなら、賢者に敵対心を持つロザリアが狙われるのも納得ね。


「確かに、そうなのですが…」

けれど、アンサム様は納得できないのか、口を引き結んで考え込んでいた。


「アンサムくんも引っかかる? 実は俺も。な〜んか、それだけじゃない気がするよなぁ」

アベル殿下も、何かが気になるようだ。


「きっと気のせいですよ。兄上も、アンサム卿も考えすぎです」


「そうか? …まぁ、この話を掘り下げても、何も出てこないか」

腑に落ちないのか、アベル殿下は眉間に皺を寄せていたものの、ユミル殿下の言葉を聞き入れて考えるのをやめた。


「他に何か気になったことがある人、いる?」

アベル殿下の問いかけに、今度は手を挙げる人はいなかった。


「いないね。それじゃ、次はぁ……模範生もいることだし、いつもしないことを試してみよっか」


目を輝かせて不敵な笑みを浮かべる、アベル殿下。

嫌な予感しかしない。


「模範生のみんな! いっぺん、講習生にお手本を見せてくれよ!」

「お手本、ですか?」


「そう! お前らを試しに煽ってみるから、キレずにスルーして手本を見せてくれ」


お粗末な提案に、私は呆れてため息が出た。

それで万が一、怒りに囚われて悪魔憑きになったら元も子もないのでは?


「そう仰るのであれば、アベル殿下がお手本をお見せください」

アンサム様が投げやり気味に言い返す気持ちが、よくわかる。


「俺? 俺はいつも手本を見せてるさ。毎日ロザリアにボロクソに言われても悪魔憑きになったことがないのが、その証拠だ」


ロザリアがいる時の状況を思い出しながら、遠い目をして語るアベル殿下。

殿下の達観したような顔から、普段の苦労が伝わってくる。

話を聞いていた講習生たちは一斉に、同情の眼差しをアベル殿下に向けた。


「…まぁ、そんなわけで! まずは生徒会長のユミルくんから! みんな、じゃんじゃん煽ってみよう!」


無茶を言わないで欲しい。

ユミル殿下を煽るなんて、不敬もいいところだわ。

講習生どころか、模範生ですら畏れ多くて黙ってしまった。


「兄上、無理を言うのは良くありません。煽れと言われたところで相手が僕じゃ、皆さん気を遣うじゃないですか。何も考えずに僕を煽れるのは、兄上くらいです」


「ん〜。それもそうだな。じゃあ、俺がお前を煽ってみるか。あ。でもあんまり本気になるなよ?」


煽ると宣言した上での罵倒は、そこまで腹が立たないのでは?

仮に、手本を見せるために罵倒するのであれば、宣言せずにしなければ意味がない気がする。


アベル殿下は顔を上に向けて、考え込む。

そして数秒、考えた後に、口を開いた。


「ユミルは偉いよなぁ。俺やカイルと違って、王太子に前向きだし、そのための勉強も毎日欠かさない。生徒会長に自分から立候補して、毎日朝から晩まで真面目に業務をこなしている。まさに、王子の鑑だ」


屈託のない笑顔で語る、アベル殿下。

煽りとは正反対の褒め言葉ばかりが出てきて、一瞬、自分の耳を疑った。

普段の会話でなら素直に喜べるような美辞麗句も、今のタイミングで言われると少し不気味だ。


「だけど能力で一番評価されているのは俺だし、派閥の勢力が一番大きいのはカイルだ。お前が王太子になるには決定打が欠ける。……一番、真面目にコツコツ頑張っている奴が、中途半端な結果しか出せないのって、惨めだよな」


下手な罵詈雑言とは比べ物にならないほどに、鋭利な言葉だ。

アベル殿下は同情するかのように、ユミル殿下の肩を叩く。その憐れむような表情は、より一層、ユミル殿下を煽っているように思えた。


ユミル殿下はアベル殿下の言葉に、ショックで目を大きく見開いて固まる。

そんなユミル殿下を、アンサム様が不謹慎にも鼻で笑っているのが見えた。


……煽るためとはいえ、これは酷い。言い過ぎよ。


「アベル殿下。僭越ながら、先程のお言葉は度が過ぎています」


私が語気を強めて諌めると、場の空気が凍りついたように静まった。


「どのような理由であれ、真面目に努力している殿下が馬鹿にされる謂れはありません。品行方正・質実剛健なユミル殿下は、尊敬に値します」


「ありゃ、ジュリーちゃん、怒ってる? もしかしてユミルのことが好きだった、とか?」


「茶化さないで下さい。そのような意図で申しているのではありません。むしろアベル殿下は、もう少しユミル殿下を見習うべきです」


「はは、手厳しい苦言だなぁ」

アベル殿下はヘラヘラ笑って、私の言葉をあしらった。

……私の言葉を、少しは真剣に受け止めて欲しい。


アベル殿下の態度に呆れていると、突然、教室の後ろの扉がガラガラと開いた。


扉から現れたのは、悪魔憑き講習の常連である、ロザリア・フォルティーナだった。

てっきり今日はサボりなのかと思っていたけれど、一応は出席する気はあるみたいね。


ロザリアは黙って後ろの空いている席に座る。

それを見たアベル殿下は、気まずそうに苦笑いをしながら、視線を彼女から逸らした。


「あっ、ロザリア嬢! 君も講習を受けていたんだね」

腫れ物のように扱うアベル殿下に代わって、ユミル殿下がロザリアに話しかけた。

すると彼女は目を見開いて仰天した後、鋭い目つきでアベル殿下を睨みつけた。


「…アベル殿下。これは、どういうことですか? なぜ、ユミル殿下やカイル殿下がいらっしゃるのですか?」


ロザリアの怒気を含んだ声に、アベル殿下はまるで蛇に睨まれた蛙のように、冷や汗を流しながら彼女と目を合わせた。


「あ、あれ〜? 今日、模範生として二人を連れてくるって言っていた気がするんだけれどなぁ〜。二人を連れて来たら、君が喜んでくれると思ったんだけど、違った?」


「…殿下。そういう行動を、世間では『余計なお世話』と言うのです」


えっ? どこが『余計なお世話』なの?

さっきのアベル殿下の台詞に、キレるようなポイントはあったかしら?

ロザリアは眉間に皺を寄せ、徐々に顔を赤くさせる。


「そっか、ゴメンね! そうそう! 今、模範生を試しに煽って怒りをコントロールするお手本を見せてもらっているんだ! 君も試しに、誰かを煽ってみない?」


アベル殿下は必死に話題を変えて、ロザリアの怒りを鎮めようとする。

話題転換が功を奏したのか、彼女は機嫌が良くなり、ニヤリと口角を上げながら模範生(わたしたち)を品定めし始めた。

上機嫌で、誰を罵倒するか考えるロザリア。

このメンバーの中だったら、誰がターゲットになるか一目瞭然だ。


「そこの、婚約者に捨てられた残念令嬢さん。貴女に決めたわ」


…あぁ、やっぱり私か。

気づかれないように顔を逸らしていたけれど、無理だった。


「ねぇ貴女、知ってる? あのお馬鹿なダドリーと、貴女からダドリーを奪った女、結局あの後別れたそうよ。しかもダドリーったら、貴女を捨てた夜会での出来事が原因で、ランドベルト公爵は後継をダドリーの弟に変えたんですって」


「へぇ、そうなのですか」

私を怒らせるための発言にしては、パンチがない。

むしろ私にとっては『ざまぁ』と思うような話ばかりだ。


「ところで今、貴女が貴族社会で何と言われているかご存知かしら? 『自分の婚約者にハニートラップを仕掛けた悪女』だそうよ? 貴女がユミル殿下やカイル殿下を狙っているから、邪魔なダドリーにハニートラップを仕掛けて婚約解消にこじつけた。…ってことになってるわ」


「そう、なのですね」


「こんな噂が広がったんじゃ、誰も貴女と結婚したがらないでしょうね。もちろん、王子殿下達が貴女と結婚することは、ありえない。中立でいたいオルティス公爵も、殿下達との結婚は認めないでしょうしね」


「…はい」


「つまり貴女は一生、独身なのよ! それか、どこの馬の骨か知れない平民と駆け落ちするか、貴女と同じくらい醜い豚公爵と結婚するのが関の山よ。底辺みたいな男としか結婚できないなんて、可哀想ねぇ。私なら、耐えられないわ。

アハハハハッ! ……あぁ、いい気味!」


教室中に、ロザリアの高笑いが響く。

彼女の罵倒は想像できていたとはいえ、言われて少し凹んだ。

私には幸せな結婚なんて、無理なのかしら?

そう思うと、だんだんと悲しみが込み上げてくる。


──だけどその時、ふとウイン様の顔が頭の中に浮かんだ。

ウイン様が、私の隣で微笑みかけてくれる。

そんな将来を、少しだけ想像してしまった。


ありえない話ね。

どこの誰だか知らない相手と結婚するなんて、不可能よ。

…けれど、想像するくらいは、自由よね?

ウイン様との未来を思い浮かべただけで、悲しい気持ちが少しだけ薄れた。


「はいはい! 煽るのはそこまで!」

アベル殿下がロザリアを制止する。

それと同時に、講習の終わりを告げるチャイムがタイミングよく鳴り響いた。

良かったわ。

これでロザリアの罵倒も終わるわね。


「ユミルくんもジュリーちゃんも、素晴らしいお手本ありがとう! みんなも二人を見習って、悪魔憑きにならないように怒りをコントロールしようね。

皆さん、お疲れ様でした」


ようやく悪魔祓い講習が終わった。

今日の講習は、いろんな人の話が聞けて面白かった。特に、悪魔王の目的なんて考えたこともなかったわ。

講習で聞いたことを活かして、悪魔憑きになりそうな人を未然に防げるようになりたいわ。


「あっ! ジュリーちゃん、ちょっと待って!」

次々と教室から人が出ていく中、私はアベル殿下に引き止められて教室に残った。

そして私達以外が教室から出たところで、殿下から、ある話を持ちかけられた。



◆◆◆



あぁ、クソッ!

思い出しただけでも、腹が立つ!


俺は一人、生徒会室に戻ってきて、アベルに言われたことを思い出しては憤慨していた。

今の俺はロザリアやブーケ以上に、上質な怒りを抱いている。

自分自身に怒りの加護を与えることができたら、きっと今までで一番強い悪魔憑きになれていたことだろう。


(珍しいですね。ドードさんが、ここまで怒るなんて。そんなに不快な発言だったのですか?)

俺の中にいる闇の精霊は、呑気に話しかけてきた。



──真面目にコツコツ頑張っている奴が、中途半端な結果しか出せないのって、惨めだよな。



その言葉は、ユミル(現世の俺)だけに当てはまる言葉ではない。

俺が今までこの世界で奮闘してきた努力を全て、嘲笑うかのような台詞だ。


いつの時代も、アベルのような奴が一番評価される。

普段は適当に手を抜いているクセに、なぜか誰にも咎められない。

しかも肝心なところで活躍するから、周囲の人間に気に入られやすい。

普段から真面目に働いている人間より、そういう要領の良いだけの人間の方が評価される社会はおかしい。


今日は絶対に、アベルを始末してやる!

でなければ俺の怒りが収まらない。


誰か悪魔憑きにできそうな人間はいないか?

俺は怒りの感情を探ってみた。

できればアベルを嫌っているロザリアを悪魔憑きにしたい。


…と思ったが、あの女は今、機嫌がいい。

ジュリーを罵倒したことでスッキリしたのだろう。

肝心な時に使えない女だ。


だが、あの女も少しは仕事をしてくれたようだ。

強い怒りの感情を辿ってみると、久々にブーケに行き着いた。


(いつもいつも、なんて偉そうなのよ! あの女!)

ブーケが怒る時はジュリー絡みのことが多いし、怒りの矛先は恐らくロザリアだろう。


(一生結婚できないのは、ジュリーじゃなくてロザリアでしょ! なんでジュリーが、あんな女に馬鹿にされなくちゃいけないのよ! それにジュリーみたいな良い子を、見た目だけで誤解してる貴族も変よ! 変なレッテルを貼って、本当に腹が立つ!)


ブーケの気持ちは、よくわかる。

ジュリーは、普通に良い奴だ。

特に、俺の代わりにアベルに言い返してくれた時の彼女は、後光が差しているように見えた。

『真面目に頑張っているのに周囲から思うような評価が得られない』という点では、彼女にシンパシーを感じる。


……まぁ、今はそんなことより、ブーケを悪魔憑きにしよう。


(ブーケ・ジュエルリック。貴様に、怒りの加護を授けよう)

(アンタは、悪魔王?! 駄目よ! 私、もう悪魔憑きにならないって決めたんだから!)


(貴様は本当にそれで良いのか? ロザリアを懲らしめる力が欲しくないのか?)

(それは、欲しいけど…。でも万が一、私が世界樹を手に入れたら、この世界が終わっちゃうじゃない)


(どうせ貴様が悪魔憑きになっても、また賢者達が貴様を助けて街を元通りにするのだから、気にする必要はないだろう?)

(……それも、そうね)


ブーケは一度怒りに囚われると自制心が緩くなるからチョロい。

しかもロザリアと違って、素直に言うことを聞いてくれるから扱いやすい。


(その代わり、アベル・アスタリアを始末するのだ!)

(あれ? 世界樹はいいの?)


おっと、うっかりしていた。

アベルを始末させる表向きの理由を言ってなかった。


(……あの男の悪魔祓い講習は厄介だから、今回は邪魔者を消すことに専念する)

(へぇ。確かに、ほとんどの人は2回以上悪魔憑きになってないものね)


ほとんどの人間を再び悪魔憑きにしないのは、単に使い勝手が悪いからだ。


(さぁ行け、ブーケ・ジュエルリック! ロザリア・フォルティーナに報復しろ!)


そして、アベル・アスタリアを始末するのだ!

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