表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/36

05 再び盾のお願い1


 先日のお詫びとして、プレゼントの箱いっぱいに手作りクッキーを渡すと、レイモンドは「ずっとリリのお菓子が食べたかった」と嬉しそうにそれを食べ始めた。こんな時のレイモンドは、昔と変わらず可愛い。

 けれどリリアナの相談事を聞いて、一気に不機嫌な顔へと変わってしまう。ため息をつきながら、箱をテーブルに置いた。


「久しぶりに会えたかと思えば、恋人のフリをしてくれる人を紹介してほしい?」


 先日の埋め合わせは結局、お菓子をいつもより多く作るという残念な結果になった。なにせ高価な贈り物は、レイモンドが喜ばないのでしかたないのだ。

 長年の付き合いで、手作りお菓子が一番喜ぶと熟知している。


 ただ、前回の埋め合わせ分はこの量で足りたようだが、今回の相談分としては不足だったようだ。


「お願いします、レイモンド様。あんな人と結婚したくありません!」

「……まずは、敬語をやめてくれないかな。二人きりなのに気持ち悪い」

「きっ……」


 リリアナを鬱陶しく思っている、という調査報告書を思い出して、リリアナは顔を引きつらせながら硬直した。


 昔はただ可愛がればよい存在だったが、年々レイモンドとの距離感には悩まされる。

 あまり馴れ馴れしく接するのは公爵令息に対して失礼だが、本来あるべき距離感で接すると彼は不機嫌になる。

 その匙加減を間違えては、鬱陶しく思われている自覚はあった。


 社会人になったリリアナとしてはその辺りをきっちりしたかったが、彼はまだそれを望まないようだ。

 

「ろくに手紙の返事も寄こさなかった理由が、そんなくだらないことだったとはね」


 これまでの経緯を説明すると、レイモンドはくだらないとため息をついた。


「上司は子爵だから、断りにくくて……」


 それよりも、誘拐事件の犯人に似ていて怖いという気持ちのほうが強かったが、これはレイモンドには話せない。

 あの時の誘拐事件はレイモンドも関係している。余計な心配はかけたくない。


「前から言っているだろ? 困ったことがあれば俺を頼れと。もっと早く言ってくれないかな」

「私も就職したし、学生のレイくんには迷惑をかけられないと思って」

「結局は俺を頼ることになるんだから、おとなしく俺に守られなよ」


 久しぶりに会った幼馴染は、このような大人びた発言までするようになったようだ。

 去年よりも確実に成長して男性的な魅力が増した彼に言われると、リリアナでも思わずドキドキしてしまう。


「レイくん……。今のカッコイイけど、どうせなら好きな子に言おうね?」


 幼馴染に言ったところで、魅力の無駄遣いだ。

 にこりとそう諭すが、また距離感を間違えてしまったようだ。レイモンドには、非常に鬱陶しそうな表情を浮かべられてしまう。


「……それで。相手の要求はどの程度?」

「本当の恋人だと証明しろって。例えばキスするとか……。でもでも! 他にも方法はあると思うの。手を繫ぐとか、お揃いのコーデにするとか」

「そんな子供みたいな方法で、相手が納得するはずがない」

「こどっ……」


 年下に駄目出しされると、少し傷つく。


(レイくんだって、女性とお付き合いしたことないじゃない。はっ……。もしかして、留学先で大人に……?)


「リリ……。何か変なこと考えてない?」

「ううん。何も……。それじゃ、本当にキスしなきゃいけないかしら……」

「キスしたところで、相手の気持ちを逆なでするだけだろうね」

「どうしよう……」

「一番簡単なのは、リリが本当に誰かと婚約することだな」

「急に婚約と言われても、相手もいないし……」


 だからこそこうして、紹介してほしいと頼んでいるのだ。


「相手なら、ここにいるだろう?」

「えっ。どこに?」


 メイドは下がらせたので、この部屋にはレイモンドと二人だけ。

 リリアナが首をかしげると、向かいに座っているレイモンドは優雅にお茶を口にしてから、リリアナと同じように小首をかしげる。


「リリちゃんには、目の前にいる俺が見えないのかな?」


(あっ。また怒ってる……)


 彼の名誉のために言い訳しておくと、リリアナは決してレイモンドのことなど眼中にないという訳ではない。

 レイモンドのことは家族の次に大好きな人であり、貴族の事情など知らない幼い頃は「おおきくなったら、レイくんとけっこんする」と公言していたほど。

 それが叶わぬ夢だと知ってからは、良い姉貴分になろうと彼に寄り添ってきたつもりだ。

 大切に見守ってきたからこそ、レイモンドには良い子と結婚して幸せになってほしい。


「さすがに、次期公爵様をそこまで巻き込めないよ」

「うちの両親もリリが不幸になるのを放っておくはずないし、モリン男爵が知れば大変な事態になる」


 そう。忙しいリリアナの父にはまだ知られていないが、この事実が知られてしまうとカヴル子爵を暗殺しに行くかもしれない。

 もしそうなればリリアナは上司から完全に解放されるが、その代償が父の逮捕では割に合わなすぎる。


「これはあくまで応急処置。偽装婚約みたいなものだ。俺としても女性除けになるし、お互いにとってメリットのあることだ」


 レイモンドの話によれば、帰国した途端に令嬢たちからラブレターが届きまくって大変なのだとか。

 特に一つ上の先輩に苦手な女性がいるらしく、その女性が卒業するまでは穏便に済ませたいと。

 去年まではさりげなくリリアナを盾にしてやり過ごしていたと聞いて、リリアナの肩の荷は下りた。


(盾にしていたのは、レイくんも同じだったのね)


「ふふ。そういうことなら、よろしくお願いします」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ