28 犯人との対面2
(私がドレスで、相手を選んだとでも思っているのかしら……)
リリアナは上司から逃れたい一心で、幼馴染を巻き込んだというのに、そのようなくだらない理由だと思われていたとは、うんざりしてくる。
「助けてほしいと言った覚えはありません。この子たちと一緒に家へ帰してください」
「あいにくだが、それはできない。ガキどもを国外へ売るついでに、俺たちも国を出る。心配するな。あちらの国で爵位を買う手はずは整えたので、不自由はさせない」
「そんな……。子爵が、子どもを売っていたんですか……!」
リリアナの問いには答えず、カヴルは意味ありげに笑みを浮かべる。
嫌な上司ではあったが、そこまで非道な真似をするような人物だとは考えもしなかった。
(あの顔……。犯人に似ていて怖いと思っていたけれど、もしかして……)
「リリお姉ちゃん……」
ある考えが浮かんだと同時に、子どもたちがリリアナの周りに集まってきた。リリアナの足に抱きつく子。リリアナの手や腕にしがみつく子。リリアナの後ろで震えている子もいる。
皆、売られると聞いて恐怖を感じているようだ。
(今は話の通じない上司と会話するより、この子たちを開放する手段を考えなきゃ……)
リリアナがそう考え直した時、すぅーっと冷気を帯びた風とともに、はらはらと雪が舞ってきた。
(あっ……。倉庫の扉は開いたままなのね……)
この場にいるカヴル側の人間は、本人も合わせて三人だけ。
このような密会をしているにも変わらず、扉を閉めていないということは、外に見張りはいないようだ。
今まで子どもの連れ去り事件が解決しなかったのは、ごく少数でおこなってきたからなのだろうか。
何にせよ、リリアナたちは六人。逃げる六人を全員捕まえるのは楽ではないはず。
「皆! 後ろの扉から外へ逃げて!」
リリアナはそう声をかけながら、扉の方へと足を向けようとした。
しかし、リリアナにまとわりついている子どもたちは、ぴくりとも動いてくれなかった。
「皆どうしたの? 逃げようって約束したでしょう」
「怖いよ……」
「置いて行かないでリリお姉ちゃん!」
子どもたちはリリアナから離れることが、怖くて仕方ないようだ。
この作戦は瞬時に動かなければ意味がない。リリアナはあっという間に、カヴルの御者に腕を掴まれてしまった。
「そうはいきませんよ、お嬢様」
「皆! お願いだから逃げて!」
もう一人の男も、威嚇するように両手を広げて、子どもたちを囲おうとしている。
完全に作戦は失敗した。
リリアナがそう落胆した瞬間。
男の間を縫って、駆け出す男の子がいた。
エリンフィールドのホテルで、子どもの誘拐事件の首謀者を捕まえたレイモンドが、急ぎ夜の港倉庫街へと足を運んだ時には、粉雪が降り始めていた。
「あの倉庫で間違いないな?」
犯人に確認を取ったレイモンドは、王宮から借り受けている騎士たちを、倉庫を囲むように配置させた。
そして扉が開いたままの倉庫へと向かおうとした瞬間、一人の小さな男の子が、転びそうになりながら倉庫から走り出てきた。
レイモンドのもとへと駆け寄ってきた男の子は、泣きべそをかきながらも、必死にリリアナのボタンをレイモンドに突き出した。
「リリお姉ちゃんを助けて~!」
その泣きじゃくる姿を見たレイモンドは、過去の自分の姿と重なって見えた。
かつてのレイモンドも、泣きながら大人に縋るしかできなかった。一緒に助けに行くことも許されず、リリアナだけが連れ去られてしまった罪悪感に震えながら、何時間も待つだけだった。
けれど今回は、自分の手でリリアナを助けに向かうことができる。レイモンドはその力を手に入れた。
「大丈夫だよ。一緒に助けに行こう」
ボタンを受け取り、男の子の頭をなでながらにこりと微笑んだレイモンドは、それから男の子の手を引いて倉庫へと向かった。





