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27 犯人との対面1


 ここから船で子どもたちを運んで、外国で売るのかもしれない。国内で取引していたら、とっくに掴まっていただろうから。

 リリアナの身はどうなるか定かではないが、子どもたちを下ろすためにどこかに停車する可能性が高い。


(助けも来ないし、逃げ出すなら人が多い場所が一番よね)


 決意したリリアナは、子どもたちに手招きをして、小声で話し始めた。


「皆、残念ながら助けは来そうにないから、次に馬車の扉が開いたら隙を見て逃げましょう」


 そう提案すると、子どもたちは力強くうなずく。一日ほど世話を焼いただけだが、すっかりと子どもたちから信頼を得られたようだ。


 街の中で逃げれば、人に紛れることもできるし、助けを求めることもできる。

 ただ気がかりなのは、この子たちの身なりがあまり良くないことだ。


 残念ではあるが階級社会であるこの国では、地位が低いほど扱われ方が悪い。

 同じ平民でも身なりが悪いと、治安警備隊ですら助けてくれない時があると聞く。


(そうだわ)


 良い考えが浮かんだリリアナは、コートのボタンを一つずつ引きちぎり始めた。


「リリお姉ちゃん……?」


 突然の奇行に、子どもたちはおろおろとリリアナを見つめている。


「皆、このボタンを一つずつ持っていて。もし私とはぐれちゃったら、そのボタンを治安警備隊に見せて『お嬢様とはぐれたから、駐在所で待たせてほしい』と言うのよ」


 そのボタンには、モリン男爵家の紋章が彫られている。それを見せれば治安警備隊も、無下には追い払わないだろう。

 それから、困った時のためにお金も少しずつ持たせてやり、リリアナはその時を待った。




 けれど、リリアナの予想に反して、馬車が停車したのは人の賑わいからかなり遠ざかった場所だった。

 潮の香りが濃くなっているので、港のすぐ近くだと推測される。


(港ならきっと、人はいるわよね)


 停泊している船の船員は、きっと酒場に行きたいだろうから、人の往来はそれなりにあるはず。それに港の周りに建てられているはずの倉庫では、警備を雇っているはずだ。


 何としてでも治安警備隊を呼んでもらわなければ。リリアナは緊張しながら馬車の扉が開くのを待ち構えた。


「到着したぜ。降りろ」


 扉が開き、男に促されて馬車を降りたリリアナは、愕然と辺りを見回した。


(外じゃない……! どこかの倉庫の中だわ……)


 建物の三階くらいはありそうなほど天井が高いその倉庫は、まるで子どもの受け渡し場所として使用しているかのように、荷物はほとんどない。

 子どもたちが逃げないよう、工夫くらいしているはずだった。リリアナは自分の見通しの甘さを悔やむ。


「やっと会えたな、リリアナ君」


 何もないと思っていた倉庫に声が響き渡り、リリアナはびくりと身を震わせる。その声は、二度と聞きたくないと思っていたものだ。


「カヴル子爵……」


 彼はランタンを持ちながら馬車の陰から現れると、近くに置いてあった木箱の上にそのランタンを置く。そしてその場で腕を組みながら、リリアナに向けて長し目を送ってきた。

 片足だけがわずかに前に出ており、足を長く見せようとしているのが丸わかり。

 このような時ですら良く見られたいらしい。リリアナの腹立たしさがいつもより倍増した。


「なぜ、このようなことをしたんですか……」

「なぜ? お前が金に目が眩んで、公爵家のクソガキなんかを選ぶから、助け出してやったんだよ」

「なにそれ……」

「今回はお前が気に入るドレスも用意してやった。ったく、金のかかる女だ」


 カヴルは木箱の中から、高級品だと言わんばかりにうやうやしくドレスを取り出した。

 前回、彼に贈られたドレスよりは格段に質が向上しているようだ。

 けれどなぜか、あの時レイモンドが用意したドレスに、デザインが似ている。

 まるであのドレスに、対抗するかのように。


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