表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/36

18 吹雪の訪問者2


「それにしても、吹雪の日にリリアナを一人にするなんて、レイモンドはひどい奴だな」


 二人で図書室へ向かいながら、メイナードは腕を組んでしかめっ面になる。


 リリアナの吹雪嫌いは、学園在学中にすっかりと有名になっている。

 それというのも、入学して二年目の冬に授業中に吹雪に見舞われてしまい、リリアナがパニックになってしまったからだ。

 事情がわからずクラスメイトや先生が困っていた時に、レイモンドが自分の教室を飛び出し駆けつけてくれたのだ。

 レイモンドがうまく説明してくれたおかげで、その時はなんとかやり過ごすことができた。


 それ以来、メイナードは少しでも雪が降ってくると「カーテンを閉めよう!」と提案するほど、リリアナを気にかけてくれた。王子自ら率先してくれたおかげで、リリアナは大いに助けられた。


「レイモンド様には、一人で行けると伝えてきましたので。私も社会人になりましたし、少しずつでも慣れていかなければ、王宮で働けませんから」


 今までは、「怖い」と逃げることが許されるお嬢様だったが、これからは王宮の職員として仕える身。そのようなわがままは許されない。


「無理しなくてもいいんだよ。なんなら僕が言って、雪の日はカーテンを閉めさせるし。吹雪になったら、王宮に安心できる部屋を取らせるよ」

「ふふ。お気遣いには感謝申し上げますが、特別扱いはよくありませんわ」


 到着した図書室は、人けがなく静まりかえっていた。今日は通いで働いている人たちが休みなので、公爵邸はどこも人がまばらにしかいない。


 ここで別れて、それぞれ目的の本を探そうと思ったが、メイナードは話し足りない様子でリリアナの後をついてくる。

 他愛もない話を続けながら、リリアナが探している本を見つけたところで、彼は言いにくそうに切り出した。


「その……。リリアナはレイモンドと婚約したんだよね?」


 どうやら、噂を聞きつけたようだ。

 これが本当の婚約ならば、共通の友人であるメイナードとウォルターに真っ先に報告すべきところ。事情を話せないとはいえ、友人として少し配慮が足りなかったようだ。


「はい。急なことで驚かせてしまいましたよね」

「凄く驚いた……。僕をリリアナから遠ざけておいて、ずるいよ……」

「え?」


(遠ざけるってどういう意味かしら?)


 リリアナが聞き返すと、彼は気まずそうにリリアナから視線をそらした。


「いやっ……。妹も残念がっていたよ。レイモンドは妹の結婚相手候補だったから」

「そうなんですか!?」


 メイナードの妹である第二王女は、リリアナたちの一つ下でありレイモンドの一つ上。

 歳も近いし、公爵家の嫡男であるレイモンドなら、王女の結婚相手としては打ってつけだ。


(どうしよう……。王女殿下に悪いことをしてしまったわ……)


 けれど、この偽装婚約は国王が承諾したもの。国王としては、第二王女をレイモンドへ嫁がせるつもりはないのかもしれない。


「リリアナはその……。特に、レイモンドに恋しているわけではないよね?」

「え……」

「公爵家からの圧力で仕方なく婚約したなら、僕がなんとかしてあげるよ」

「あの……」


 メイナードは優しいが、優しさが少し過剰というか、ズレている部分がある。リリアナが困っていると、勘違いしているようだ。


 何と答えるべきか迷っていると、誰かが走ってくる足音が聞こえてくる。そのすぐ後に、本棚の陰からレイモンドが現れた。


「リリ!」

「レイモンド様。どうかなさいました……?」

「遅いから様子を見に来たんだけど……。来て正解だったようだな」


 レイモンドはリリアナを引き寄せながら、メイナードを睨みつけた。


「……やあ。レイモンド」

「殿下いらしていたのですね。――リリ。改めて殿下に、俺たちの関係を報告しようよ」

「ご報告でしたら今したところで――」


 リリアナはそう答えたが、レイモンドははなから同意を求めてはいない様子で、メイナードから視線を離さない。

 一緒に留学へ行くほど仲が良いはずなのに、二人の間の空気がやや重い。


(留学先で喧嘩でもしたのかしら……?)


「殿下もご存知のとおり、陛下の承認を受けて俺たちは正式に婚約しました。お互いに長年の想いが実って幸せなんです。ね? リリアナ」


 同意を求められて、物思いにふけっていたリリアナは慌てて「はっはい。幸せ……です」と答えた。

 友人相手にこの報告は恥ずかしい。演技なだけに尚更。

 けれどリリアナの照れをレイモンドは、満足そうに眺める。


「見てください殿下。この程度の会話ですらリリアナは、頬を染めて恥ずかしがるんです」


(この演技を恥ずかしいって思わない人は、ないと思うけどっ)


 メイナードも苦笑いしているではないか。


「本当に可愛い。俺だけのリリ」


 一人だけ楽しそうなレイモンドは、リリアナの頬へと手を当てた。

 このシチュエーションも三度目ともなれば、流石にリリアナも学習する。


(まずい。またキスされちゃう!)


「……リリちゃん?」


 にこりと笑みを称えながら小首をかしげたレイモンドだが、目は全然笑っていない。

 おそらく、リリアナが口元を本でガードしたのが気に入らないようだ。

 しかしリリアナも、そう何度も人前でキスされるわけにはいかない。 


「こっ……これ以上は、恥ずかしいから……」


 三度目にしてやっと、はっきりとお断りできた。

 リリアナはそう思ったが次の瞬間、レイモンドに両手首を掴まれて本棚へと押し付けられた。思わぬ力強さにリリアナは驚く。


「リリちゃんは、強引にされるほうが好きだったかな?」

「ばかっ! そういう意味じゃないってばっ」


 流石に無理やりは、度が過ぎるではないか。リリアナが必死に逃れようとしていると、メイナードの大きなため息が聞こえてきた。


「はあ……もうわかったから。リリアナをあまり困らせないであげなよ。僕はもう帰るね……」


 疲れたと言いたげに手をひらひら振りながら、メイナードは出入り口へと向かう。


「殿下、お探しの本は?」

「今日はもういいよ……」


 わざわざ吹雪の中を公爵家まできたというのに、目的の本も借りずに、何しに来たのだろうか。

 「お気をつけて。殿下」と声をかけるレイモンドのことは無視して、メイナードはこの場を去っていった。


 何だかよくわからない展開になってしまったが、嵐が過ぎたようにリリアナがほっとする。

 けれど、嵐はまだ過ぎ去ってはいなかった。急にレイモンドの顔が迫り、またも唇を奪われてしまう。


「っん…………………………ちょっ! 今のは必要ないでしょうっ」

「無防備なリリが悪い」


 一番はしゃいていたはずのレイモンドまでもが、なぜか不機嫌だ。


(どういう理屈よ……もうっ)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ