5
「ちょっと! どういうことよ!!」
「あ、話して来たんだ」
あっけらかんと言うランセルに計画犯だったのかと非常に腹立たしくなってくる。
「でも、出掛けるのは本当だしいいじゃん」
「出掛けるって近くの街に診察受けに行くだけじゃない!」
あたしが勇気を振り絞って告白した日ルマトはここに慣れて来た時に風邪を引いたから念のためにちゃんと診てもらうらしいから一週間ぐらい村を出ると説明を受けて恥ずかし過ぎて死んじゃうかと思った。
あの時のことは思い出すだけで顔から火が吹き出しそうになるし、近所の人に見られていたらしく外を歩くと誰かれ問わずにルマトとのことを聞かれてしばらく外を歩けそうにない。
それなのにあたしを焚き付けたこの男は呑気にどうなったのとうるさい。
ランセルの晩御飯はランセルが嫌いな物ずくしにしてあげよう。
「でも、姉ちゃん俺が焚き付けなかったら行動しなかったしずるずると逃げ回ってルマトが本当に居なくなるまで逃げてたんじゃないの?」
「本当に居なくなるって?!」
「例えだよ!」
どういうことだと詰め寄るとランセルは慌てたのでホッとする。
「例えでもやめて」
ルマトが居なくなってしまうと考えただけで血の気が引いて立っていられなくなりそうだもの。そんなこと言わないで欲しい。
「そこまで言うのなら本人にはちゃんと伝えたんだな」
「うん」
ルマトに抱きしめられてキ、キスまでされて思い出すだけで恥ずかしくて身悶えする毎日だ。
あの後ルマトは診察を受けに行ってしまって詳しい話はしていないけど、ルマトはこの村から出て行く訳じゃないって分かった。
ルマトが戻ってくる前にランセルをとっちめようとしていたのにこれじゃあ怒るに怒れないじゃないの。
「……そこはありがと」
そう言うとランセルはニヤリと笑った。
「今日の夕飯は俺の好物でいいよ」
「調子に乗んな!」
「明日はルマトの好物にしていいからさ」
「!」
明日。明日ルマトが帰ってくる。
両思いになってから初めて会える。
「ど、どうしたら……」
「恋人なんだから抱きついてみたら?」
「もう! 勝手なこと言わないでよ!」
村の人たちに噂されて恥ずかしかったのにまた話題を提供するつもりはない。
でも、一週間ぶりに会うんだからうんとおしゃれしてルマトに綺麗だよって言ってもらいたいかも。
服はあたしが持っている中で一番いいのを。髪型は編み込みにして軽く化粧もしてみようかしら。それから──
「あ、あたしって可愛い?」
「は?」
ついに頭わいたのかとでも言いそうなランセルに詰め寄る。
「だって、あのルマトよ。その隣に居るのがあたしで大丈夫?!」
「大丈夫なんじゃね? 村の連中だって何も言ってこないんだろ」
「それは……そうだけど」
でも、あたしよりもっといい子だっているはずだ。
「そんなに気になるなら本人に聞いたら?」
「そうする」
帰って来たら会えるもの。
◇◇◇◇◇◇
トントントントン
トントントントン
あたしは今日も機織り機械に向かって生地を織る。
ルマトが帰ってくるのは昼からだ。お昼は来ないだろうからサンドイッチでいいとして夕飯はルマトの好きな羊のチーズを使った料理を沢山作ろうと朝からバタバタとし過ぎて母さんから家の食材全部使うなと怒られて仕事をしているんだけどね。
トントントントン
トントントントン
この音を聞いていると落ち着く。けど、今日はルマトが戻ってくる日だからこの音を聞いていてもずっとそわそわしていてさっきから何度も外を確認していて落ち着かない。
精一杯のおしゃれをしたけど変な格好じゃないのかと何度も仕事を中断して鏡を見ているのでうっかり誰かに見られたら恥ずかしいのにそわそわして何度も立ってしまう。
ルマトが帰って来たら何て言おうか。
二人でこれからの話をするのも楽しいかもしれない。二人で行きたい場所とか決めてみたりしたいことをしたい。でも、ルマトは体が弱いから気をつけなくちゃ。
寒くなってきたから家の中でまったりと過ごしてもいいかもしれない。ルマトにあったかい膝掛けを織ってあげよう。
あれこれと妄想している内に時間が経って行き気付けば家の前を馬車が通り過ぎた。
あれはルマトの乗っている馬車なのかしら?
作業の手を止めて外に出る。
外に出るとルマトの家の前で馬車が止まっていた。
馬車から降りる人はあたしの大好きな人。
「ルマトおかえりなさい!」
「ミアただいま」