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機織りの娘  作者: こま
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4

 トントントントン


 布を織る音に集中しようとするも今日も考えるのはあの日のこと。


 あの日以降ルマトの顔がまともに見られなくなってしまった。


 話し掛けられても避けたり、仕事中に顔を出したルマトにびっくりして逃げたりとかなり感じが悪くなってるに違いないんだけど、ルマトの顔を見るとあの日のことを思い出して恥ずかしくて仕方がなくてどうしていいのか分からなくなるんだもん。あたしにどうしろって言うのよ。


 トントントントン


 もちろん夕飯も一緒にすることが出来なくてあれこれと理由をつけて時間をずらしているだけど、そろそろ言い訳が尽きそうだし、母さんは面白そうに見て来てあたしがルマトのことどう思っているのか知っててその内からかってきそうで嫌だ。


 いっそのことこの村を出て行けたらいいのだけど、することはたくさんあるし、今まで村を出たことないから上手くやって行けるのかも分からない。


 トントントントン


「どうしたらいいのよ……」


 こんなこと初めてだからどうしたらいいのかも分からないし、誰かに相談したくても恥ずかし過ぎて無理だ。


「姉ちゃん居る?」

「ランセルどうしたの?」


 いつもルマトが入ってくる窓から身を乗り出してランセルがやってきた。この時間なら羊のところに行っているはずなのに。


「ちょっと待ってて」


 そう言って姿を消したと思ったらすぐに出入口から姿を現した。


「で、どうしたの? 羊は?」

「羊は父さんに任せてきた」


 あんたがここに来た時点でそれはわかっている。大事な羊を放ったらかしにしてここに来た理由をあたしは聞いているのよと睨む。


「まあ、そう睨むなって。最近姉ちゃん上の空だから見てこいって父さんが言うんだよ」

「ああ、そう」


 確かにずっと上の空だったような。いつの間にか父さんを心配させてしまったみたいだ。後で安心させてあげなくちゃ。


「俺はどうせルマトのことだから放っておけばいいって言ったんだけど、うわっ!」

「ちょ、あんた何でそれを?!」

「痛い! ちょ、殴んなって!?」


 恥ずかしくなって思わずランセルを追い出そうとしたらまだ話は終わってないと叫ぶから一旦殴るのはやめておく。


「ったくルマトも姉ちゃんがこんな乱暴者だって知ったら驚くな」

「さっきから何でルマトの名前ばっか出すのよ!」

「じゃあ違う奴のこと考えてんのか?」

「それは……」


 どうなんだと問いかけくるランセルの言葉に尻すぼみになってしまう。


「どっちでもいいけど、しばらくしたらルマト帰るってよ」

「どこに?」

「そりゃ元暮らしてたところだろ」


 知らない初耳だと言うと夕飯の時に来たルマトが教えてくれたと言う。あたしが逃げ回っている間に決まっていたなんて。


 もしかしてあたしがルマトの家に行った時に部屋が閑散としていたのも引っ越すからだったの?


「あたしルマトのところに行ってくる」

「いってら」


 ガタリと音を立てて立ち上がり、慌てて外へと向かう。


 外は秋風が冷たくて上着かショールを羽織ってくればよかったと一瞬頭を過ったけれど、それよりもルマトの方が気になる。


 この時間だと家よね? ルマトの家ならすぐそこだ。あっという間に着く。


 だが、ルマトの家を見た途端にあたしの頭は真っ白になった。


 ルマトの家の前に一台の馬車が止まっている。その馬車に今乗ろうとしているのはルマトだ!


「ルマト!」


 行っちゃ嫌だ。今まで避けていたけど馬車に乗ってここから去って行こうとするルマトの姿を見てあたしの頭にはそれしかなかった。


 ルマトにはあたしの声が聞こえなかったらしくそのまま乗り込んでしまいそう。


「ルマト!!」


 もう一度しっかりと叫ぶ。


「ミア?」


 今度は聞こえた。ようやく動きが止まったらルマトに向かって全速力で駆け寄って抱きついた。


「ルマトお願い行かないで」

「ミ」

「あたしルマトがこの村を出るって聞いて嫌だって思ったの。ずっとあなたのことを避けていたのに。ルマトは悪くないのにあたしの勝手な都合で避けちゃってたごめんね」

「ミア」

「あたしのワガママだって分かってる。あたしルマトとずっと一緒に居たいの!」


 ルマトにあたしの気持ちを否定されたくなくてルマトが何か言いかけているけど自分の気持ちをわーわー伝える。


「あたしルマトのことが好きなの! だからあたしの隣にずっと居てください」

 

 言っちゃった。


 どうしよう。ルマトの顔をまともに見られそうにない。


 でも、もう逃げないって決めたからもし断られても──


「え?」

「ちょっと黙って」


 ルマトの指があたしの唇に当たっている。というか、しっかりと抱きしめられている。 


「僕もミアのことが大好きだよ──」


 ルマトの顔が段々と目の前に迫ってきてもう何が何だか分からなくなりそうになり、あたしの唇に温かくて柔らかいものが。


 それが何かに気付いた時にはルマトの顔は離れてルマトの顔は赤くなってはにかむような笑みを浮かべていた。


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