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「え、ルマト寝込んでるの?」
「そうなんだ。最近は安定していたんだけどねえ。それで、ミアさんの料理が食べたいって言ってて悪いんだけど作ってもらえないかい?」
「それぐらいならすぐに作るわ」
消化にいいスープとかでいいかしら? あたしが作れる中で優しい料理。
野菜を取り出しながらジョゼフさんに座って待っててもらおうと思ったのに薬を買いに行かないといけないからと出かけてしまった。
もしかして、これってあたしが届けないといけないの?
その後誰か持ってって行ってくれそうな人を探してみたけどタイミング悪く誰も居ない。
いつもだったらルマトのことを聞きに来る子たちも今日に限って見かけない。
ランセルや父さんは仕事中だから論外。母さんとおばさんも染め糸の調整が上手く出来ないとか言ってああでもないこうでもないと白熱したやり取りをしていて邪魔するのは気が引けた。
「仕方がないか」
多い目にスープを作ったから残りは家用にして冷めないように小鍋に移し変えて家を出る。
「うー……寒くなってきたわね」
もう一枚上着を羽織ってくるべきだった。いつの間にかすっかり秋になってしばししたら冬が来る。そしたらもっと寒くなる。この辺りはかなり冷えるからルマト平気かしら?
冬になったら王都に戻るのかもしれない。しばらく歩いているとルマトの家に着いた。赤い屋根の家。庭には色とりどりの花。
最初はこの庭の花全部なくして更地にするはずだったそうなんだけど、思いの外ルマトが気に入っちゃって見苦しくないようにとは整えられていて昔のことを覚えてるからつい嬉しくなっちゃう。
「ルマト? 起きてる?」
ジョゼフさんに勝手に中に入っててもいいって言われてたけど、一応ノックはする。
だって着替えとか見ちゃったら恥ずかしくて今後ルマトにどんな顔して会えばいいのか分かんなくなっちゃいそうなんだもの。
しばらく待ってみたけどルマトからの返事はなし。寝ちゃってるのかな?
「……お邪魔します」
玄関をそっと開けてみたものの、家の中はシンと静まり返っている。
寝てるんだったら起こすのも可哀想だし、キッチンかどこかに置いて行こう。
中はさすがにシュゼット夫妻が居た頃とは違っていたけど、造り自体は変わってなかったのですぐにキッチンは見つかった。
帰る前にルマトの様子見た方がいいかな?
ジョゼフさんは戻るまでまだ時間が掛かるはず。
しばらく迷ってから少しだけ覗いて行こう。ルマトの部屋は二階の奥だって聞いたことがある。ちょっとだけ寝顔を見たら帰ろう。
階段を上がって一番奥へと向かう。部屋に入る前に一応ノックをしてみたけど反応はなし。
「ルマト?」
やっぱり寝ているのかとそっと部屋を開けると思ったよりがらんとした部屋。
ベッドとクローゼットはあるけどそれ以外はない。
ランセルの部屋は散らかっててあそこまで物が散乱してるよりはいいかもだけど、引っ越して来たばかりだから仕方ないとしてももう少し物があってもいいと思う。
「花でも飾ってあげようかな」
ルマトはベッドの上ですやすやと眠っていてしばらくは起きそうにもない。
庭の花を取ってこよう。ジョゼフさんも庭は好きにしていいって言ってくれていたしいいよね。
花を摘んで戻る。ルマトの部屋には花瓶がなかったからキッチンからコップに水を淹れてルマトの部屋に戻った。
「あら? ルマト起きたの?」
「ミア?」
「ええ、ジョゼフさんに言われてスープ作って来たけど食べる?」
「うん」
熱があるのかいつもより口調が幼いような気がする。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
花を摘んで来たのはいいけどこの部屋テーブルすらない。一瞬どこに置こうかと迷ってから窓際にスペースがあることに気付いてそこに置く。
「それ……」
「これ? この部屋殺風景だったから持って来たんだけど、邪魔だった?」
「ううん。ミアが持って来てくれたんならいい」
摘んで来た花の匂いが嗅ぎたいのか手を差し出してくるのでコップは窓際に置いて花だけルマトに差し出す。
スッ
「いい匂い」
「え? ル、ルマト?!」
ち、近い。
ルマトの顔があたしの首筋に埋まっている。
何これどういうこと?!
「ミア」
「な、何?!」
そこで喋んないで! ルマトの息が掛かって何かおかしい。
「ミアも熱いけど熱ある?」
「熱何てないよ。あたしスープ持って来るね!」
ルマトを引っぺがす勢いで離れて一階のキッチンに急いで駆け込んだ。
「な、何だったの今の……」