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機織りの娘  作者: こま
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 トントンと生地を織る音が好きだ。


「ミア今日も精が出るね」

「あ、カーナおばさん」

「出来た分の生地もらってくね」

「うん」


 うちの家というか、この辺り一体が羊農家をしていて糸を紡ぎそれを染めて布にして衣服や絨毯なんかにして出荷している。


 ありがたいことにあたしたちが作った生地は質がいい上に暖かいと王都では人気なのだとか。


 あたしは主に糸作りと機織りをしている。父さんと弟は羊を育て母さんやおばさんは染色をしたり刺繍をしたりと忙しい。時たま近所の同じように暮らしている人たちと作業を交換するけど毎日同じことの繰り返し。


 さすがに羊の毛をすく作業は人手がいるのでこの作業は村一体となってする作業でこの時だけはさすがに騒がしいけどそれはそれで賑わっていて楽しいし、その後は決まって宴会になるので美味しい料理にお酒にと贅沢な気分を味わえる。


 でも、いつもの羊の毛と向き合っている時間はゆっくりとしていてあたしはこの時間の方が気に入っている。




◇◇◇◇◇◇




「えっお隣に人が越してくるの?!」

「そうよ。何年も空き家だったから気になってたのよね」

「どんな人が来るんだ? その口ぶりだと母さんはもう挨拶したんだろ?」


 お隣といっても田舎だから結構な距離があるけどそれでもお隣あたしもどんな人が来るのか気になって母さんと弟の会話に耳を澄ます。


「あたしが会ったのは代理人の方で入る人とは違ったのよ」

「なんだぁ~。何かその人のこといっていなかったの?」

「ミアも興味あるの?」

「あるっていうか」


 こんな田舎じゃ大した娯楽もないし、それにお隣さん前はシュゼッタという名のご夫婦が暮らしていたんだけどシュゼッタの奥さんの方のターニャさんの庭作りの腕はよくて彼らが年を録ったから子供たちと暮らしたいと引っ越して行ってしまってからも庭を覗きに行くのが好きだった。


 新しい人はその庭を壊してしまうんじゃないかって気になっているって言っても母さんは庭をほったらかしで引っ越してしまったシュゼッタ夫妻に虫が涌くと怒っていたのであまりいい顔はしないはずなので曖昧な返事をした。


「体が弱い子で田舎で療養させるためだって」

「へぇ。どんな子かな?」

「さあ。そこまでは言ってなかったけど先に掃除やら家具を入れたりするからしばらくバタバタするらしいからしばらくはご迷惑を掛けるかもって」

「迷惑ったって結構離れてるけどな。可愛い子だったらいいなぁ」

「あたしはあの庭さえなんとかしてくれたらいいよ」


 その後は母さんと弟のランセルの話しに耳を傾けていたが、その内に話しの内容が明日の天気だの今年の出荷量の話へと段々と変わっていったのであたしは途中で抜けて部屋に戻った。


 いつお隣に人が来るのか気になったけど、あの口振りだと母さんも知らないのかもしれない。


 ランセルじゃないけどいい子だったらいいな。


 数日前からお隣が騒がしくなった。


 母さんが言っていた改築と引っ越し作業が始まったのだ。 


 たまに人手がいるとかで父さんとランセルが手伝いに行っているが口がかたいのか知らないのか新しい人の話は教えてくれなかったそう。


 近所でも噂になっているのかみんなその話しばかりしている気がする。


 うちの家に聞きに来る人もいるけど、そんなのあたしたちだって知らないから気になっているのに教えられることなんてないよ。


 そろそろ引っ越して来るんじゃないかとは思うけど、いつになることか。


 今日は母さんの手が離せないので変わりにあたしがお昼を作ることになった。朝の残りのパンとチーズに何を作ろう? と頭を悩ませていると玄関のノッカーが叩かれた。


「はーい!」


 誰だろ? 近所の人が野菜でも持って来てくれたのかな? 


「はーい! え……」

「隣に越してきたルマト・S・ソレイユと言います」

「お隣さん」


 それだけ言うのが精一杯だった。


 薄茶色の髪に優しげな緑の瞳。目鼻立ちは整っていてどこの絵画から出てきたのだろうかと聞きたくなる程の美貌の線の細い男性。


 ルマトと名乗る青年がやってきてからうちの村は彼の話題でもちきりになった。

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