荷運びのお仕事。
「あ! 人だ!」
コウタの指差す方向を見たら、確かに第一村人発見!
我々はヨーロッパ系ののどかな農村って雰囲気の場所にたどり着いた。
「すみません! 私達、道に迷っていて、ここはどこですか!?」
私は見知らぬ40代くらいの見た目の男性の方に、小走りで走り寄り、喜び勇んで声をかけた。
「ここはビニゴの村さ。ここらじゃ見ない服装だね、異国の人かい」
凄い! 日本語じゃないのに分かる!
異世界言語スキル有能!
ちなみに我々はブレザー系のブランド制服を着ている。
「はい、遠くから来ました。
教会に行ったら助けてくれるとかありますか? 寝床を提供してくれるとか」
「うーん、寄付をすれば数日くらいは泊めてくれるかもしれんがな」
「……私達、お金がないんです」
私はしゅんとして、哀れっぽい声を出した。
同情を買ってでも安全な寝床が欲しい!
「働くしかないね」
「仕事欲しいです、この村に有りますか?
多分、荷物運びとかできますし、材料さえ有れば、お料理も多少は」
まだ伏せておくけどアイテムボックスの力もあるし。
いざとなったら異世界行ったら定番のマヨネーズだって作るわ。
命かかってるから、すみません。考案者には謝ります。
「んー、荷運びなら誰か人手を欲しておるかもしれん。
ちょっくら村長に相談してみるか」
「ありがとうございます!!」
「「あざーす!」」
紗耶香ちゃんとコウタはさっきまで大人しく聞いてたけど、最後だけ御礼を言った。
「口を挟む隙がなかったわ、カナデっち、交渉ありがと」
「こういうのは多分、女の子が頼んだ方が聞き入れて貰いやすいから、黙っててすまんな、サンキュ」
「いいって事よ」
軽口を叩く事で異世界に紛れ込んだ辛い現実を、私はどうにか中和する。
他二人もそうかもしれない。
一見、気丈に振る舞っているけど。
「しかし、ビニゴの村なのは分かったが、国名を知りたい。聞いたら不自然かな?」
「すみません〜〜、ちょい、ど忘れしたんですが、この国の名前って、何でしたっけ?」
紗耶香ちゃんのど忘れ演技で聞いた話によれば、ここはバルド王国と言うらしい。
「バルド王国……か。いや、知らんけどな」
「異世界だもん、知る訳無いよね〜〜」
コソコソとうちわで話をしていると、村長の口ききで、荷運びの仕事をゲット。
「このとうもろこしの粉と小麦粉の袋を荷馬車の荷台に運び入れて、お店に卸すと言う事ですね?」
「そうだよ、うちの倅が腰を痛めているし、私も足腰が弱ってしまっているから力仕事がしんどいのさ」
「一旦、魔法の鞄で収納して荷台に卸すでもよろしいですか?」
「あんたら収納魔法のかかった鞄持ちかい!
それに随分丁寧な言葉使いだね、着てる服も高級そうな。貴族の家で使用人でもしてたのかい?」
「えと、学生ですけど、ちょっと、気がついたら知らない山の中にいて」
「は? 誘拐でもされたのかい? 気の毒に」
「一旦鞄にどんどん入れます。……そして……、荷台の上で取り出す!」
アイテムボックスを使い、腰を労る荷物の移動方法。
「たまげた、アイテムボックス鞄持ちで誘拐されたけど、何かで誘拐犯が逃げたとかなんだろうか」
お腹の大きなおばさんは勝手に脳内でストーリーを作ってくれている。
「ええ、まあ、魔法の鞄があるので、そうかもしれません」
「何で誘拐犯は魔法鞄を奪ってから逃げなかったんだろうね」
「本人しか使えないのを気がついたのかも」
「ああ、なるほどね。そう言うもんなのか」
本当はスキルだけど、用心の為に本人しか使えない魔法の鞄って事で旅行鞄を使っている。
ちなみに旅行鞄の中身は全てアイテムボックス内に移動して空にしてる。
「じゃあ別に荷台に置き直しせずに、魔法鞄に入れたまま現地まで行ってもいいよ。
荷が少ない方が盗賊とかに目をつけられずに、馬も楽が出来る」
「はい、では、一旦鞄に入れます」
「ところで俺の着てるこの上着、実は高級品です、この辺で浮かない服装と交換は出来ますか?
古着で構いません、三人分欲しいのですが」
「コウタ! 私の上着も売っても良いよ!?」
この制服は気にいってるブランド物だけど、今はこの世界の通貨のが欲しい!
「アタシのも!」
「まだ、この先お金が必要になった時用に二人のは取っておこう」
そうか、確かに。お金は大事だもんね。
「あー、そうだね、荷も卸し先の雑貨屋さんに頼んでみな?
この私、シーラの紹介だって言えばいい。
ここよりは大きな街なので洒落た服を買う金持ちもいるだろう」
「シーラさん、分かりました。ありがとうございます」
コウタは人好きのする笑顔を浮かべてシーラおばさんにお礼を言った。
「あらあら、本当に丁寧な子だ事」
おばさんはちょっと照れている。
コウタにはちょいホスト系の才能もあるのかもしれない。
ゴトゴトゴトゴト……。
我々は荷台に乗せられ、大きな街へと移動する。
秋色の草原を行く。
「荷台に乗って運ばれるとドナド◯されてる気がする……」
私がそんなセリフを呟くと、すかさずコウタがツッコミを入れてくれた。
「いやいや、これ俺達の出荷じゃねーから」
「ねー、アタシら仮に奴隷として売られたら、誰が一番高く売れんの?」
紗耶香ちゃんが急にとんでもない事を言う。
「やっぱり普通は力仕事も出来る若くて健康な男のコウタになるんじゃない?」
「見た目が綺麗で可愛い女であるお前達のが高そうに見えるけどな」
「今、コータ君、アタシ達が綺麗で可愛いって言った!?」
「い、一般的に、や、客観的に見て、そうだと思うけど!!」
「へ──、ありがと」
「お前ら、からかうなよ!」
「えー、御礼を言っただけなのに」
コウタの顔は真っ赤になった。耳まで赤い。
ホストをやるには純情過ぎるかな。
「あ! なんか立派な壁が見えて来たじゃん! 街をぐるっと囲んでるっぽい!」
紗耶香ちゃんが興奮ぎみに声をあげた。
「へー、何かかっこいい」
景色を見て、私がそんな感想を漏らしたところに、
「あ〜〜しまった!」
荷馬車を移動するお爺さんが急に声を上げて、馬車を停めたので、私がどうしたのか聞いてみた。
「お爺さん、何かありましたか?」
「門番に荷物を運んで来たって説明すんのに荷台に荷物無くて人間しかいないとおかしな事になる。
ここでいくつか荷物を出してくれるか?」
「あーはい、確かに! すぐに出します!」
「オッケー!」
「一人5個くらいでいいかな」
私達は慌ててアイテムボックスから荷物を出した。
一人5個ずつで15個出した。
本当はもっと有るけど。
無事に門番さんのいる城門?を突破して、我々は街の中に入った。
服装がアレなので、ちょっとジロジロ見られてしまったけれど、笑顔で手を振ったりして、私は無害アピールなどしてみた。
「いやー、アイテム収納鞄持ちがいたとはね、ありがとう、助かったよ」
「あの、我々はシーラさんに紹介されて来た訳ですが、お願いがあります。
この上着を買い取っていただけますか?
そしてここらで浮かない服を三人分欲しいのですが。古着でもいいので」
コウタは着ていたブレザーの上着を店主のおじさんに渡した。
「……ふむ、おお、なんて綺麗な縫い目だ。貴族の着るような高級品だな。
いいよ、何か知らんが訳ありみたいだし。金貨3枚で買おう」
「ありがとうございます!」
金貨! やった! 多分高い! 流石有名デザイナーのブランド制服!
「奥に古着、手前に新しいけど、お手軽価格の服もあるよ。試着室も有るから」
「はい! 見て来ます! ほら、お前達、宿代残すくらいのを選べよ」
「はーい! コウタ、さんきゅ!」
「コータ君、ありがとー!」
「長袖、上着、うーん、外套は大袈裟か? でもフード付き良いな」
「カナデっち、この長袖シャツにスカート、上は防寒用にポンチョっぽいこれ可愛くない?」
「ディアンドル系の服、可愛いよねえ、ここで着れる機会が来るとはね。
女性は基本的にスカートっぽいし、色違いでこれにしようか。私は緑……いや、やっぱり上が黒で下のスカートが赤いのにしようかな」
商売人になるなら、購買意欲をそそると言われてる赤にしよう。
自分を売る訳じゃないけど、買い物する時に、目に入るだけで効果あるとしたら……ね。
「じゃあアタシはピンク色の強いこの紫のにしようかな」
「良いんじゃない? 暖色系で」
私達は試着室で着替えた。
「コウタは焦げ茶ズボンに淡いベージュのシャツとフード付きの外套ね」
「また野宿する羽目になったら、敷き物にもなりそうな布面積広いのにしといたわ」
なるほどねー。
「おじさん、俺達、これ、このまま着ていきます」
「あいよ」
コウタがまとめてお支払いをして、お釣りを私達に分けてくれた。
「「ありがとー!」」
ピロロン! と、どこかでゲームっぽい不思議な音が聞こえた。
何だろう? 後でステータス見てみようか。
「あ、おじさん、この辺でおすすめの宿屋は有りますか?
あんまり高く無いと助かるんですが」
「赤星亭って食堂の上の宿屋はわりと安いよ、夜は酒飲むやつが多くて五月蝿いけど」
「ありがとうございます! そこに行ってみます」
「おい、ピーター、案内してやれ、ついでにこれ、赤星に袋二つ納品だ」
「あいよ、とーちゃん」
「息子さんか、荷物重いから、俺が運ぼうか?」
コウタがアイテムボックスを使って運ぶらしい。
「ありがと!」
ピーターと言われる男の子はニコっと笑った。
さあ、異世界食堂兼、宿屋へ行くぞ!
そこでステータスをもう一回見よう!
さっきのピロロン音がめっちゃ気になる!