終わらない世界を…
いつものようにして、会社に訪れる。
椅子に座り業務を済ませる。合間にちょっと
コーヒーを飲んでARグラスでパッとニュースを
見る。
少し重いため息をついて、会社の窓から見える
夕日を見つめる。そして呟く。
「…アムイ社長。お話があります。」
社長も何か考え事に浸りながら夕日を静かに見つめていたからか、突然話しかけられてビクッと体が動いた。
それを隠そうとしたのか、咳を一回した後で
「…な、なんだね。レイグ君。」
と、言う。
俺は知っている。この男が、イグシャニファ政府側についている人間であることを。
最初から知っていた。俺を会社に引き入れた時点で既に俺を利用して出世しようとしているのが目にとれた。
口では優しく、穏やかな人間を演じているが
事実がその嘘を暴いてしまう。
コイツは、俺がグリファンデから渡航してきたところを見ている。
そこで最初に出会った。
……グリファンデ人、グリフ人である俺を売り捌き
会社を出世させる。国のために行動する。それは
戦争のために行動しているのと同じだ。
そういう状況なんだ。今は。
「……社長。なぜ、今なのですが?」
「……ん?、そ、その今って何が?」
とぼけても無駄だ。この男は、ずっと俺の出方を見張っていた。戦争への反対者である証拠を国に差し出せば
もっと出世できるからだ。
…まぁ、最初っから俺はコイツを信用はしていなかったが悪い奴だとは思っていなかった。
この前見みたく、わざと、グリファンデにいる故郷の友が死んだことをハッキリ伝えてその出方を見守った。
俺が行動している間、イグシャニファの奴隷達が
護衛をしてくれた。国の者と戦う覚悟で。
だが、奴らはこなかった。なぜだ。
あの男は俺の事をわかっているのに国に言わないのか?
でもどっちみち、もう遅い。
休憩中に窓から会社の下を見た。
イグシャニファ政府の軍隊が静かにこの会社を囲っているのが見えた。
この483階まで来るのも時間の問題だろう。
「社長。なぜ、今まで俺を見逃した?」
「え……。」
「なぜ、今俺を国に売り出すんだ?」
男は少々汗をかいている。何かが怖いらしい。
だが、その恐怖を振り払うように
拳を握り、歯を食いしばった。
「………。息子が殺された。」
「……ッ。」
「どうやら私が君をかぎつけた時、既に政府も
それに気づいていたらしいな。
軍は、私をずっと試していたのだよ。
国のために忠実な人間かどうか。
軍を呼んだのは私だ。
……。私の判断が遅かったばかりに。
軍は息子を殺し、私に軍を呼ばせた。
私も……君も、ここで殺される。必ず。」
「は?………なんで。…なんで判断が遅れた?」
「君が…。平和のために、ここまで頑張っていることを知ったからだ。」
「……。」
「君が一度、会議室で1人、残って作業している時だった。その様子を私は防犯カメラで録画していた。その時、君の声でハッキリ聞こえた。
この世から戦争が無くなればいいのに。」
社長は、その場に座り込む。
「君の今までの行動を全て知っている。
裏で軍事力を奪うために奴隷たちと協力し
日々、ハッキングや情報集めをしていたことを」
「でも、平和を目指している人だからって…。」
「それを目指している本気が伝わったから、
国に売り渡さなかった。
…私は、5th世界壊滅戦争で兵に出されたんだ
あの残酷な惨状を見て、どれだけ平和というものが大事なのかが、いやでもわかった。」
「……社長。」
「平和は、大切だ。レイグ。君だけは、生き延びるんだ。私が囮になる。」
「…は?な、な、何言って…」
窓から軍装ドローンが入り込み、銃を乱射してきた。
社長は走って俺を押し飛ばした。俺は窓から外に放り出され
高層ビルから落ちていく。
「……な、なんで!」
そう叫ぶ。すると下に無重力転換装置が置いてあり
俺の体は宙に浮いた。
「おい!そこのアンちゃん!しっかり捕まってなよ!!?」
「え!?ええ!?。」
七色の派手な格好をした20歳くらいの男がそう言い、ドローン車のブレーキを踏む。
会社からだんだんと距離を置き、離れていく。
だが、軍装ドローンが17台ほど迫ってきて
銃口を定めてきた。
〝そこのドローン。止まりなさい。
これは軍事命令です。止まらなければ
即座に撃ちます。止まりなさい。〟
どういうことだ?
俺は今の状況が掴めず、運転手に問うと
「社長がお前を助けたんよ!」
と言った。もともと、俺を助け出す計画だったらしい。…どうして、そこまで。
俺が…。止めなきゃ。これ以上、
俺に巻き込まれて死ぬ人をもう、増やしたくない。
この運転手も。
ドローンから顔を出して、銃口を定める。
俺が死ねば、この人達は…。なんとか逃げ切れるかもしれない。
俺に巻き込まれなければこの人達は今も、
普通に生活できてたはずなのにっ!
感情に任せてひたすら銃を乱射した。
4機ほど撃ち落としたが、AIにはその精度は劣った。
AIは俺の心臓に目がけて銃弾を放った。
避け切ろうとして心臓には当たらなかった。
だが、腹部にあたった。急死はしない。
でも、死ぬことだけは…確かだ。
「ぐほぉご!!」
「おい!アンちゃん!何してんだ!!」
「…っ。……」
「おい!死ぬな!お前さんのために命はって
ここまで来てるのに!!死ぬなよ!
このやろう!!」
「……う……。」
あぁ。夕日が…かすれて見える。
あぁ。呼吸がしにくい。苦しい。
痛い。
手に、何かあたる。それを視界に入れると
真っ赤に染まったものが目に入った。
あぁ。死ぬんだ。ここで。これが…死なのか。
何も成し遂げることもなく。
これが死……。
終わるんだな。ここで。 …モンシュ…。
今行くぞ…そこに。
《もう平和を…諦めるのか?》
暗闇の向こうから誰かの声が響いて聞こえた。