【緊急家族会議】 「魔王様、勇者が来ました!」
「魔王様、勇者です! 勇者が来ました、たった一人で!」
配下のゴブリンが慌てた様子で我のもとへやってきた。
「ふむ、分かった。そのまま通せ」
「かしこまりました! この命に代えて……え? 魔王様、今なんと?」
「通せと言った。次はないぞ」
「ひぃい、かしこまりましたあ!」
配下のゴブリンは休む間もなくとんぼ返りで謁見の間を出ていった。
ー 数日前 ー
「ふははははは! 人間よ、我にひれ伏せ」
「見事な采配です。これでこのニーエの街も我らの支配下に加わりましたね、魔王様」
側近のヴァンパイアが我を讃えるが、この程度たやすいことよ。
ふふふ。あははははははははっ!
ー 現在 ー
「……ということがあったな。ニーエの街とはあれのことか。それで、その街がどうした?」
「即刻、魔王軍を引き上げたのち、街の解放を要求します!」
目の前の勇者は堂々と片腹痛いことを言ってのけた。
長く艶めく髪、信念を湛えた怜悧な瞳。それらを飾る強力な装備。まごうことなき今代の勇者だ。しかし。
「仲間も連れず、たった一人でのこのこ現れて言うことがこれとは。勇者とはいえ所詮はまだまだ子供か」
「それは、否定と捉えてもよろしいですか?」
「無論だ。我は世界を支配するまで誰にも屈さぬ」
「そうですか、残念です。では」
勇者は交渉の決裂と判断し、席を立った。
そして向かいに座る我に軽蔑の眼差しを向けてきた。勇者になめられぬよう、我もにらみ返す。
敵どころか味方さえ震え上がる魔王の威厳を見せてやろう。
しばしの沈黙。我と勇者の間に緊張が走った。
「パパなんて嫌いです。もう二度と顔を見せないでください」
沈黙を破った勇者の言葉は、我にどんな攻撃よりも重い衝撃をもたらした。
このような攻撃に屈するわけにはいかない。我は魔王なのだ。
「待て。それとこれとは話が違うだろう」
しまった。引き留めるだけ引き留めてもったいぶるつもりが、慌ててそのまましゃべってしまったではないか。
「違いますね。ですが私はもう二度とあなたとは会いません。では」
「ま、待て。まだ話は終わっていない」
「誰にも屈さないのでは? 話は終わりでしょう」
「ぐ…何が望みだ」
「二度は言いません」
魔王である我に対してなんと尊大な態度だ。全く、誰に似たのか。
「くっ…わかった」
「ちゃんと話せばパパは分かってくれるって、私信じてました。パパ、だーいすきです♡」
うむ。よく考えたら街一つ程度どうでもいいではないか。
ー 後日 ー
「魔王様。次の進軍先ですが、ニーエの」
「そのことだがな、ニーエの軍は撤収だ。即刻引き上げさせろ」
「えっ…それはどういうお考えで」
「二度は言わん。行け」
「ひぃい、かしこまりましたぁ!」
いつか部下に裏切られそう。
以下連載中です。
【一撃追放】
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追放ものっぽいテイストで書いてます。よろしくね