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天魔の子・藤堂高虎  作者: 宇井崎定一
第六章 本願寺の落日
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藤堂高虎、側室としてお桂を娶る

ここでまったくのオリジナルキャラクターが登場します。どうかお付き合いくださいませ。

「あなたが真面目に探さないからですよ」

「一応、探してはいたぞ」



 孕んでいる事が分かっているのに平気で夫の女を探そうとする姿は、本来ならば痛々しいものかもしれない。

 だがその顔はむしろ、この痛々しさを楽しんでいる風すら感じられるほどに爽やかだった。



「ああはっきりと言っておくが」

「ええ、この金ヶ崎一帯を離れる事に難色を示すような女性は既に弾いております。正確には弾かせておりますですけどね」



 長政はほどなく一万石どころか、一万四千石の重臣として自分に城を与える事になる。それは高虎や四葩だけではなく、側室もまた一緒なのだ。


 

「それで、いかほどの人数が集まったのだ」

「第一段階で三百人近く集まりました」

「そんなにか!」

「条件はほぼ先に述べた一点でしたからね。ああ、あと丈夫であなたより少し年少と言う事のみです。私より年長なのは大歓迎ですけどね。まあ、それこそ百姓から次代の当主の母となれば稀代の大出世です」


 元々名主である虎高の息子である高虎に、小作人の女性を嫌がる趣味はない。家柄で箔を付けるとか言うが、そんな物は四葩の段階で十二分に付いている。没落大名の姫と呼ぶには、あまりにもこの女性は覚悟が決まり過ぎていた。



「で、今は何人だ」

「十四名です」

「十四名か、しかしどうやって弾いたのだ」

「それは無論、正信の力と言う物です。いくら氏素性を問わぬと言っても間者を入れる訳には参りませんからね、調べた所数人ほどその類の娘が混じっておりました」

「何ゆえ分かった」

「それは正信に聞いて下さい、私はあくまでも第一次選抜を通過した人間を見聞しただけですから」




※※※※※※※※※







 正信は参加者たちに対し重臣の側室となればいつどんな存在が自分の命を狙ってくるかわからない、ましてや子どもを産めばなおさらだと言って一杯の水を渡し、飲み干すように命じた。


「ああ言っておきますが、怪しき存在とはあなた方も入る可能性がございますので」


 そう笑顔でささやいた正信を前にして、百人単位の人間が辞退を申し出た。確かに理屈で言えばその通りだが、だとしても実際にそう言われると箱入りのお姫様やあわよくば玉の輿をとか言う覚悟のない女性たちにはまるでその水が毒入りのそれに思えて来た。


「では、飲んでもらいましょう」


 残った女性たちに水を飲ませた正信は、その飲みっぷりをじっと見つめていた。


 ちびりちびりと震えながら飲む者もいれば、ぐっと一気に飲み干す者もおり、隣を見ながら飲んだり飲まなかったりする者もいた。




 そして正信は、一番目以外を全て切り捨てた。




(殿も奥方様も大変強いお方だ。それに呑まれてしまうような女性では務まるまい。

 そして天魔の子と呼ばれる武士の懐に入り込もうとする間者だからこそ、ああして勇気を見せて仮にも武士である存在に取り入ろうとする。

 もちろん演技の可能性も多分にあるが、今の殿に必要なのはそういう強い女性ではない。)



 三番目は高虎や四葩と言った強烈な個性の持ち主と戦えるとは思えず、二番目は間者だと判断した。間者でないとしても、今の高虎には不要な女。



 この査定により二百人近かった女性は三十人ほどに絞られ、さらに四葩が義父母と共にその姿を見聞した上で絞り、十四人にまで至ったのである。




※※※※※※※※※




「どうせこの体なので産むまでは城には入れぬでしょう。ですから女子は絶対に必要になります」

「まだそなた以外と交わった事はないぞ」

「その点の才能はおありではないようですね」


 高虎は童貞を捨てたのも四葩ならば、最後に交わったのも四葩である。父親がこの年になっても平気で側室とそうしているのに比べると不思議なほど淡泊であり、兄のためにと思おうとしてもその気になれない。




「もはや武田や毛利などに通じる娘はもう一人も残っておりませぬ。一人と言わず二人三人とお選びくださいませ」

「そうしよう」




 刀剣でも選ぶような気持で見合い会場となった長徳の屋敷へと入った高虎は、十四人の女性をしっかりと見つめた。

 試験着と言う訳でもないが皆似たような着物を身に纏い、整然と並んでいる。


 その顔を見ながら巻物を開き、それぞれの女性の名と素性を確認して行く。


 上は二十五歳から、下は十三歳まで。足して二で割ればちょうど十九歳、高虎と同じである。身分的な事で言えば上は数千石から下は小作人の後家までいる。


 そして顔はと言うと、かなり差がある。いかにもな美人もいれば、どちらかと言うと今の四葩のように手を節くれ立たせる事を美徳とするような顔をした女性もいる。四葩の命令と侍女の手によって四葩と負けず劣らずの化粧は施されているが、それでも地の顔を見る分にはまったく問題はない。



 その上で、じっくりと十四人の顔を眺めてみる。顔と言わず髪から肢体、手足や肌の色まで、当主の特権だと言わんばかりに天魔の子の顔をして女性たちを眺める。


 その高虎の視線を浴びながらも、十四人ともほとんど動く事もなくまるで人形のようにじっと立っている。



(まいったな……我ながらここまで自分が女に関心がないのかと逆に感心する。かと言って衆道に走るような気にもなれんしな……)



 おそらく十四人とも内心では早く断を下してくれと焦っているのはわかるが、どうにも踏ん切りがつかないのもまた事実だった。不思議なほど、性欲と言うのがない。


 独身時代にどういう女が好みなのか父からも聞かれたが、まったく頭に浮かばないままたかが自分程度にそんな物を決められる権利があるのですかと逃げ回り、四葩を得てからはすっかり四葩以外の女が思いつかなくなってしまった。







「ああ、それでだ。私は知っての通り天魔の子と呼ばれている。一向宗から言わせれば私はそんな存在と言う事だ。それに付いて来ると言う事はだな、その一族全てが皆殺しの対象となってもさほど驚けないと言う事だ。その事をわきまえているのか」




 結局、そんなまったく的外れな質問をかましてしまった。確かにその通りなのだが、正信や四葩がそんな事を意識させていない訳などないと言うのに、あまりにも余計と言うか時間の無駄ではないか。


 このまったく下手くそ極まる打ち手に恥ずかしくなってなんとかごまかすように首を振るその姿はまったく雑兵のそれであり、自分が敵であったら真っ先にぶった切るか斬る価値もないとして見逃すかのどちらかだろう。


「それは無論です」

「そこまでの覚悟あればこそここまで参りました」


 三千石の家の姫と農夫の娘がそう言い出したのはまったく当然であり、四葩が見ていたら何と言われるかたやすく想像が付いた。

 本当にあなたは女性に感心がないのですねだの、本当に寝所では雑兵のままですねだの、びた一文害意のない笑顔のまま吐いた言葉でこちらの自尊心を削って来るだろう。




「守っていただけますか、四葩様や私たちを」

「それは無論だ、地獄に落ちるのは私一人で十分だからな」




 その愚にも付かぬ愚痴に対して、一人の女性がまるで先ごろの四葩のようにくずおれた。いくら自分が一向宗の僧兵など怖くないと気取っていた所で、まだまだ庶民には一向宗の恐ろしさは根付いている。ましてや越前はそういう勢力の脅威を受けて来た所だから、そうそう恐怖心が抜ける物ではない。



「それは四葩様やお館様も」

「ああそうだ。だが言っておくがこれより先の相手は本願寺とは限らん。多くの存在を相手にする事になる」



 そこまで口にしてようやく、高虎が天魔の子の顔になった。



 自分が求めていたのは何か。四葩に足りないものは何か。


 それを見つけたと言わんばかりに高虎は草履を履いて先ほどくずおれた女性に近寄り、その手を取った。その振る舞いは紛れもなく雑兵のそれから天魔の子のそれになっており、目の輝きも戦場に立つそれになっていた。














「ええ、お一人だけですか?奥方様があそこまで苦労したってのに」

「私に三人目を抱える甲斐性はまだない!」



 結局その女性、若狭と近江の国境の自作農の長女であるお桂と言う娘のみを側室にする事に決めた高虎を、長徳が早速からかいに来た。ためらいなく情けない言葉をぶつけてやると、長徳はまた嫌らしく笑った。


「そなたこそ良き女性を」

「まあね、奥方様もおっしゃっていましたよ、旦那様はそういう女性を選ぶだろうって」

「具体的にどうだって言うんだ!」

「私が旦那様を引きずり回しているので、自分の事を全面的に頼りに来るような方がよろしいかと言う事で、奥方様は大殿様や大奥様と共にそういう人間を選んでたようですよ」


 そして殴り返してやったはずなのに、まったく敵わない。自分では自分の意志のつもりだったのに、結局は四葩の手の上だったと言うのか。


 第三段階程度まで四葩とその四葩の命のままに動いた正信によって振り落とされたのだから当たり前と言えば当たり前だが、だとしてもその前から読まれていたのかと思うと男として情けなくもなって来る。



「それで、我々はどちらへ行く事になるんでしょうか」

「武田様が若狭に関わる気をなくしているようでな、ほとんど若狭一国のどこでもいいと言う状態だ。だができれば山も海もあり、なるべく開けた場所がいい」

「ぶしつけながらそんな権限があるんですか」

「誰が若狭に入る?」

「ああ、そうでしたね。これは失礼を……」


 阿閉貞征は北越前、磯野員昌は加賀、赤尾清綱は北近江におり、さすがにこれ以上は動かせない。浅井政澄は久政と近かったためあまりおいそれと大領を与えにくく、海北綱親や遠藤直経は長政の側にいて策を練る人間であるため長政から離れる事は出来ない。


 何より、元より土着性の強い土豪たちにとっては領国と引き離されるのはかなり嫌な話であり、阿閉や磯野のように数倍の石高を与えられても領国を離れたがらない人間が多数生まれたのもまた事実だった。そういう家臣は既に彼らの元を離れ、浅井の直臣になったり清綱の家臣になったりしている。


 それでいくら若狭が金ヶ崎からそれほど遠くないと言っても、結局の所そこに封じられるほど動かしやすい人間はほとんどいなかった。

 そして高虎が真っ先に禄高を与えなければいけないのは直基、長徳、正信の三人ぐらいで、あと景鏡が自動的について来たとしても若狭の武田寄りの国人を抱える枠は十分ある。

 そういう意味でも、高虎は便利なのだ。


「だからこそ武田様を何とか留まらせようとなさったのだが……孤独は辛い物よな」

「そうですね、でもこれで浅井にとっては丸儲けですけれどね」



 これで若狭一国をほぼ手にし、その先に待つ丹後や但馬へと道が開けるのは実に大きい。但馬はさすがに毛利と言う藪をつつくから危ないとしても、丹後ぐらいならば何とかなりそうに思える。無論その何とかなるが危ないからこそまた慎重に構えるつもりではいるだろうが、いずれその二ヶ国を手にすれば浅井はますます大きくなるし、場合によっては能登方面へと広がる事もできる。


「好事魔多しだからな」

「そうですがね。ああとりあえず、奥方様にはお桂様おひとりで決まったと申し上げておきますので」

「私が直に言いに行く!」










 高虎と長徳が、そして四葩がいつも通りのたわむれ合いに浸ろうとしていた中、越前のはるか南の河内の国と大和の国では、激しい殺し合いが始まろうとしていた。

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