第八話 記憶
月末の課題ラッシュで執筆どころではなくなっていました。
久々の更新です。
大木ほど太いツルがムチのようにしなり、
カイトたち目がけてとてつもない速度で向かってくる。
凄まじい風圧にカイトは立っていられなくなる。
「『魔障壁』!!」
先頭に立っていたディアブラが魔法を詠唱し、
大きな障壁を張り、仲間をかばおうとする
が、抵抗むなしく障壁ごとディアブラとカイトが弾き飛ばされる。
「...ッうぅ...ッツゥ...!!!」
「うがぁっ!...グッ!...ガァッ!!!!」
障壁がクッションになったこともあり、
ディアブラは受け身を取ることに成功し、即座に体制を整える。
しかし、カイトは受け身を取れず、地面に背中から叩きつけられる。
「カイトクン!!」
即座に跳びあがり巨大植物の攻撃を避けていたユンヌが上空からカイトの身を案じる。
「ダメ!気絶してるわ!」
体制を立て直したディアブラが即座に判断し、次の展開に備える。
カイトは意識を失い、夢の中、過去の出来事を思い出していた。
▽
それは数年前の夏の出来事であった...
「...ふぅ~...」
カイトは祖母の家の庭で雑草取りを手伝っていた。
「おばあちゃ~ん!つかれたよ~!!」
まだ小学生であったカイトは駄々をこねる。
「あらあら、まだ半分も抜けていませんよ?」
カイトの祖母が雑草を抜く手を止め、カイトをなだめる。
「やだやだー!もーつかれたー!!」
「そうねぇ、ちょっと酷だったわねぇ。」
祖母は怒ることはせず、優しく受け止める。
「それじゃあ、楽チンな方法を試してみましょうか?」
祖母はしわくちゃな顔で、子どものように無邪気な笑顔を浮かべる。
「やったー!」
カイトは待ってましたと言わんばかりに喜ぶ。
祖母はカイトに優しい笑顔を向けると、
家の中へと上がって行った。
しばらく経ち、
カイトが庭のそばの居間で扇風機の風にうたれていると、
祖母が両手に大きなヤカンを持ち、戻ってきた。
「なにそれー!?」
カイトが興味深々で祖母に近寄る。
「あら、危ないわよ。これはお湯だから、火傷しちゃうわ。」
祖母が慌ててカイトからヤカンを離す。
「おゆぅ?なんでなんでー!?」
「これをね、雑草にかけてあげれば雑草は枯れちゃうのよ。」
「うわぁ!すごいや!」
早速祖母が庭に降り、実践して見せる。
「カイ君は危ないからそこで見ていてね?」
「はーい!」
「こうやって、たっぷりのお湯を雑草にかけてあげるの。少しのお湯だと、根っこまで枯れなくってまた元気な草が生えてきちゃうからねぇ...
まだ17のカイトにとって、
小学生の頃など遠い記憶だったが、
何故かこの時は夢として鮮明に思い出された...
「ばあ...ちゃん...?」
△
カイトが気を失っている間、
ディアブラとユンヌは圧倒的な魔物を前に苦戦を強いられていた。
「『波状火炎』!『一点放火』!!」
ディアブラが放射状に広がる火炎や一点に集中する熱光線を魔物に放つ。
が、広がる火炎は魔物の身体の表面を焦がすだけにとどまり、
集中する火炎も高威力ではあるが、魔物のツルに防がれ、
さらにツルですらその芯まで焼き切るに至らない。
「『クトー・ヴォラントゥ』~!」
ユンヌもディアブラの攻撃でできた隙を狙い、
空から無数の飛ぶ斬撃を浴びせるが、これも効かない様子であった。
魔物は根を脚代わりにし、器用に二人にむかって迫り、
まるで動物のようにもつ両眼で捉え、
腕のような位置に生えた太いツルで攻撃を繰り出す。
大振り故に、二人とも避けることはできるが、
このままでは先に魔力や体力が底をついてしまう。
「ック...ちょっとマズいわね...」
「このままじゃちょっとピンチ~」
絶対のピンチに二人は弱気な声を漏らす。
◇
その時、安全な林に移動させられていたカイトが唐突に上体を起こした。
「...えーっと、なんだったけか...」
カイトは辺りを見渡し、状況を思い出そうとする。
ズガーン!ドシーン!
少し先から激しい戦いの音と振動が響いてきた。
「ああ!思い出した!おーい!大丈夫かー!」
カイトは気絶前の状況を思い出し、
大慌てで二人のもとへ駆け出した。
◇
「なあ!聞いてくれ!」
カイトは激しい戦いを繰り広げるディアブラのそばの木の後ろから声をかける。
「あっ!起きたのね!でも、危ないから下がってて!」
ディアブラは一瞬カイトの方に目をやると、
即座に向き直り攻撃に戻る。
「違うんだって!聞いてくれよ!」
「もー!何!?」
戦うことで手一杯なディアブラはついイライラしてしまう。
「わかったんだ!あのデッカイ植物野郎を倒す方法が!」
「はあ!?わかったってなにが!?」
「ヤツの弱点はお湯なんだよ!熱湯!!」
「お湯がぁ!?それホントなんでしょうね!?」
ディアブラはあふれ出る戦意ゆえに意味もなくけんか腰だが、
魔物にたいする注意を怠らず、的確に攻撃を回避しながら話を続ける。
「ああ、マジだってば!」
カイトも目の前までくる攻撃に怯えながらも、
つられてけんか腰な物言いになる。
「それに!それが本当だとしても、お湯なんてどっから持ってくるのよ!」
「ええ!?魔法でお湯とか出せないのか!?」
「知らないわよ!魔法だって万能じゃないのよ!!!」
ディアブラはそう吐き捨てると話を切り上げ、魔法の詠唱に戻った。
依然、ピンチは変わらないのか。
そんな思いを抱きながら。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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