第七話 知恵と力と
「銅って持ってる...?」
「銅?何に使うのよ?」
ディアブラが聞いてきた。
「あの辺に投げ入れる...」
俺はボウフラが一番密集しているポイントを指さす。
「どーしてドーを~?」
「だからなんの意味があるの?」
ほぼ同時に聞き返される。
「実はさ、ボウフラって銅が苦手らしいんだ。」
正直理屈は知らないが、
ばあちゃんが銅鍋で実験して見せてくれたことを覚えている。
あの時もボウフラの九割がふ化しなかった。
「らしいって...まあいいわ、前回のこともあるしそれは信じてあげる。でも、どうやって銅を用意するのよ?」
「それが問題なんだよ。特に池全体に効力が及ぶほどの銅となると物凄い量が必要なんだ。」
「うーん。かなり非現実的ね...」
議論が行き詰まる。
「あの~、直接ドーを体内とかに埋め込めばショーリョーのドーでもダイジョーブですか?」
ユンヌが軽く挙手をするような動作をし、話に入ってくる。
「う、うん。多分そんなことができれば少しの銅でも足りるんじゃないかな?」
確証はないが、周りに銅があるだけでふ化しなくなるのだから、
体内なんかに埋め込めば流石に大丈夫だろう。
「じゃ~なんとかなりますね~。」
ユンヌはそういうと池の方へ向き直り、
腰にいくつか提げているサイドバッグのようなものに手を入れた。
銅を持ってきているのだろうか、しかし、
埋め込むという表現がずっと引っかかる。
「よ~し~、いきますよ~。」
バッグから手をスルスルと抜き、しゃがみこむ。
(ん...?なんだ...?)
ユンヌの手元に目をやる
「銅貨...!?」
ユンヌは両手の指の間に銅貨を挟み込むようにして持っていた。
「ちょっと!それ使っちゃっていいの!?」
ディアブラもユンヌの手に気付き、驚愕する。
どうやるのかは知らないが、
とにかくユンヌは今から銅貨をあの巨大ボウフラに埋め込むつもりなのだ。
「ダイジョーブです~。ワタシ個人のおカネですので~。」
「いや、個人のお金とかそんな話じゃなくて...!」
ディアブラが心配そうに声をかける。
しかし、ユンヌはディアブラに笑顔だけ向けると、
そのまま遥か上空へ跳びあがった。
(すっげぇ跳躍力だなほんと...)
おおよそ10mは跳んでいるように見える。
目測で測る技術なんてないからテキトーだが。
「『ルイー・ヴァ・キュイヴル』~!」
ユンヌが何か難しい言葉を唱え上げ、
両手のコインを池めがけて投げる。
投げられたコインは淡い光をまとい、
空中で分裂し、的確にすべてのボウフラへ突き刺さった。
ボウフラたちは少し身もだえるように暴れると、
すぐに大人しくなり、完全に動かなくなった。
(正直、あんな威力で突き刺せるなら銅でなくても普通にやっつけられたな...)
ユンヌが異様に長い滞空を終え、降りてきた。
「すごいコントロールだったわね。使った硬貨も最小限に抑えられていたわ。」
ディアブラが感心し、ユンヌに声をかける。
「エヘヘ~///。ソレホドでもないですよ~///。」
ユンヌはしっぽをくるっと巻いて照れるようなしぐさをする。
「さてと、いい休憩になったわ。そろそろ行きましょう。」
ディアブラが立ち上がる。
あとで二人の会話から知ったのだが、
魔力は少し休めばある程度まで回復するらしい。
「え?ユンヌさんは休まなくていいの?」
正直もう少し休んでいきたいので、
さっきから休めていないユンヌを盾にする。
「ワタシはダイジョーブですよ~?」
しかし、ユンヌはケロッとしている。
「あなた知らないの?獣人種は一日平均30分の睡眠で十分なのよ。」
ディアブラが呆れたように言う。
「変な知恵ばっか持ってないで、少しは常識も覚えたら?」
それどころか更にキツイことまで言ってくる。
「ハハハ...ごめん...」
特に言い返せず、はや足で歩きだすディアブラについていく。
◇
あれから更に30分は歩いたのだろうか。
足場が悪い箇所が多く、時間以上に疲労する。
「ダイジョーブですか~?」
ユンヌが心配してくれる。
「だ、大丈夫大丈夫。」
つい強がる。
「イエイエ、そうじゃなくって~...」
「ん?」
「今から戦いますけど、ソンなに前にいてダイジョーブですか~?」
ユンヌが前方を指さす。
俺は嫌な予感と共に、ユンヌの指さす方を見る。
そこには、天を衝くほど巨大な植物が立っていた。
「い"ぃ"や"あ"ぁ"ぁ"!!!!」
俺は驚きのあまりとんでもない叫びをあげ、後方へ逃げる。
「...ッ!来るわよ!!」
ディアブラが構えると共にユンヌもナイフを抜く。
巨大植物はこちらを睨みつけ、
大木のように太いツルを凄まじい速度でこちらに伸ばしてきた。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
前書きは邪魔かなと思い、おもいきってなくしました。
評価、感想のほど、よろしくお願いいたします。