第五話 ふさふさのモフモフ
今回のお話は、新キャラが登場します。
やっと新キャラかといった感じですが、最後までお付き合いいただければ嬉しく思います。
「やった...」
暗がりと煙の中、カイトは勝利の余韻に酔いしれる。
「嘘みたい...」
ディアブラは辺りを見渡して、煙の中に点々と見える
巨大な蚊の死骸を眺め、声を漏らす。
宿に戻る間に簡潔にカイトは自分が何をしたのかをディアブラに説明をした。
「あなた...えーっと、ケイト?意外と賢いのね。」
うーん。惜しい!
「いやいや、それほどでもないよ。偶然知ってただけだよ。」
謙遜しつつも、つい顔が緩む。
(そういえば、いつの間にかディアブラとも普通に話せてる...!?まともに女子と話したことなんて小学生以来のことじゃないか...俺も成長してんだなぁ...)
今なら何でもできる気がする。そんな気持ちを抱えて床に就いた。
◇
翌朝、次にモスキュートが来るまでに、家畜たちのために屋根のある小屋を建て、そこに家畜を入れておく事を推奨し、村を出た。
村をあげて見送られた時は少し恥ずかしかったな...
「でも、まさかあなたに助けられるなんて思ってもみなかったわ。」
馬車の中でディアブラが話しかけてきた。
「ははは、たまたまだってば。」
こう素直に何度も褒められると困ってしまう。
「後で報酬もわけてあげるわ。」
(いや最初は渡さないつもりだったんかい!)
とも思ったが、働いてないのにお金も貰えないよな。
「「ありがとう。」」
景色が変わり、街のにぎやかな音が聞こえてくる。
◇
「申し訳ございません。報酬額に関しましてはそちらのお連れ様がお買いになられたハーブの代金としてギルドが立て替えていた額を差し引いたためゼロでございます。」
「はあ!?!?!?!?!?」
ディアブラの怒声がギルド内に響き渡る。
しまった。そういえばあの時は冷静ではなかったから忘れていたが、
よく考えれば当然だ。
状況がどうであれ、タダでもらえるような量ではなかった...
「ちょっとカイロ!どういうことなのよ!」
ああ、もうちょっとで正解!
「い、いやあ...でもさ、あのままだったらどっちみち大変なことに...」
「ほんっと信じられない!」
俺の言い訳を聞くこともなく彼女はただただ怒っている。
「ちょっとちょっと~。カノジョ、ナニをそんなに怒ってるんです~?」
なんとも軽い、力の抜けた声が後方から聞こえてきた。
「ああ、すみません。実は...」
振り向きつつ、そこまで言ったところで声が出なくなった。
そこに立っていたのは猫だった。
いや、正確には猫のような人なのだろうか。
小学生ほどある背丈で、黒い毛並みが美しいが、
顔をよく見れば猫というよりかは人に近いと思う。
金色の爛々とした瞳がこちらの目を覗く。
動きやすそうな軽装を身にまとっているが、
腰には大振りなナイフを提げている。
「あの~?ダイジョーブですか~?」
心配そうに見つめてくる。
「あ、す、すみません。いえ実は...」
ひとまずここまでの経緯をひとしきり説明する。
ここまでくれば獣人でもなんでもこいだ。
「なるほど~。そんなコトがあったんですね~!」
しかし、何なのだろう。微妙にイライラするなこの話し方。
「だったら~、チョード良かったです~。実は~、これから討伐のオシゴトに行くとこだったんですケド~、メンバーの子のトーチャクが遅くて~、セッカクですし~、ご一緒に~、行きませんか~?」
う~ん。イライラを通り越して聞いてると眠くなってきたな。
「取り分は?」
急に落ち着きを取り戻したディアブラが話に入ってきた。
普通にびっくりするのでやめてほしい。
「そちらは~、お二人ですし~、4:6でどーですか~?」
「わかったわ。それで行きましょう。」
スピーディーに話がまとまる。
「よかった~。ワタシは~、ユンヌ=シャットって言います~。職業は~『盗賊』です~。ユンヌって呼んでくれたら~、ウレシーな~。」
「よろしくね、ユンヌ。私はディアブラ。」
「よ、よろしくお願いします。俺はカイトって言います...」
「じゃ~、ジコショーカイもできましたし~。仕事内容のセツメーをしますね~。今回の~オシゴトは~『カニーボープランテの駆除依頼』です~。」
「カニーボープランテ...なかなかの大物ね。それなら報酬にも期待が持てるわ。」
「な、なぁ、カニーボープランテ?ってなに?」
ディアブラに聞くが、無視される。
「大きなショクブツです~。ヒトも食べちゃうんですよ~。」
代わりにユンヌが説明してくれる。案外優しい性格なのかな。
しかし、今度は人食い植物か...生きて帰れるといいが...
ディアブラが馬車をとり、乗り込む。
◇
街を出て、さっき助けた村のある郊外を抜け、深い森に入る。
「すまないが、馬車はここまでだ。」
先を見ると、道がない。馬車は通れないようだ。
馬車を降り、歩くことにした。
「おーきな木ですね~。」
「ここは通称『求血の森』。油断してると死ぬわよ。」
ディアブラが鋭い目で辺りを警戒する。
「キューケツですか~。コワイですね~。」
こんな時までこのテンションを保てるとなるともはやプロだ。
「でもダイジョーブですよ~。
索敵はワタシの専門ですから~。ほらぁ!」
ユンヌは突然ナイフを抜くと振り返り、
背後からいつの間にか近づいていたモスキュートを切り捨てる。
「すっげぇ...」
思わず声が漏れる。
羽音のするヤツとはいえ、
会話を聞いていた俺や、話をしていたディアブラは気付けていなかった。
それに気づくだけでなく、振り向きざまの一閃で仕留めたのだ。
「ありがとう。助かったわ。」
「どーいたしまして~。」
つかみどころはないが、実力は本物のようだ。
よかった。これなら生きて帰れそうだ...
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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ちょっと中途半端なタイミングで切ってしまったような気もしますが、読みやすいぎりぎりの長さかなと感じ、試験的ですが思い切りました。