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「──ねえ、どうだった?最高に素敵だったでしょう?」
そんな声が、背後から聞こえてくる。地に足が着いている感覚はなく、奇妙な浮遊感だけを感じる。周囲を確認しようとしても、後ろにいる誰かの手が、自分の目を隠してしまっていた。
「……誰?」
「そんなこと、今はどうだっていいじゃない。それより、感想を聞かせてよ」
背後の人物が、自分の耳元に口を寄せながら囁いた。
「どうだった?あなたの眼に映る『死の未来』は」
その瞬間、背中から虫が這ってくるような悪寒が走る。
「知ってる?『死』には色があるの。とってもキレイな、綺麗な『無色』。それは、決して透明だという意味ではないのよ。もっと深い、『無』そのものの色。最も完成された色。ああ、素晴らしいわ!」
悦楽を感じているように、背後の人物が身悶える。それが、いやに薄気味悪かった。
「何の……何の話だ……?」
「フフ、とぼけなくてもいいじゃない?」
首筋にわざと呼気を当てるように、背後で笑い声が上げられる。その瞬間、彼の皮膚は怖気に粟立っていた。
「あの首なしの死体を見た時、あなたは何を感じた?あなたの胸の鼓動が高鳴っていたのはなぜ?逃げようと思えば逃げられたはずなのに、その場に立ち尽くしていたのはどうして?見惚れていたからでしょう?首を切られて絶命した死体を見て、『美しい』と思ってしまったからでしょう?溢れ出る赤い流血に、白い肌、肉の裂け具合に骨の切り口……思い出しただけでゾクゾクしてくるわね」
「違う……俺は……」
「否定することはないわ。だって、『死ぬ』ということは、『完成』するということだもの。未完の絵画ほどつまらないものはないでしょう?同じことよ。生物という作品の完成形、究極の形……それこそが『死』。作品が、もっとも輝く瞬間」
自分の目を覆っていた指が、瞼をなぞる。細く冷たい指先が行き来するたびに、ゾクゾクという寒気が、体の中に浸透してきた。
「もっと、見たいんでしょう?魅せられてしまったんでしょう?だったら、何も恐れることはない。躊躇うことはない」
右目に当てられた指先に、グッと力が込められる。押し潰されてしまうのではないかと思った瞬間、耳元で何かが囁いた。
「──もっと私に、『死』を見せて。『私の目』なら、それができるでしょう──?」