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3


午前中に二つの講義を受け、昼食を終えた後にさらに二つの講義を消化する。どの授業でも生徒たちはどこか浮ついていて、せわしなかった。恐らくは、誰もが二週間後に控えたクリスマスと冬休みに、浮かれているのだろう。そんな中、優人はそういう話で盛り上がるグループから少し離れたところで、一人まじめに教師の話を聞いていた。


別段、彼も知人が少ないわけではない。だが、どういう訳か彼には同性の友人が極端に少なかった。特に彼が男子を拒絶している訳ではなく、むしろ誰にでも分け隔てなく接するのにも関わらず、男子の方が遠慮して寄ってこないという始末なのだ。逆に女子の方からは、まるで同類でも迎え入れるような感覚で、話の輪(ガールズトーク)に混ぜられる。そうなるといよいよ自分のアイデンテティが崩壊しかけてしまうため、せめて授業中くらいは距離を置くようにしているのである。


「さてと」


優人は教科書類を鞄にしまい、コートを着てから教室を後にする。時刻は、四時半を少し過ぎたくらいだった。入学当初は全容を把握できずにいたキャンパスを、八ヶ月経った今は迷うことなく進んでいく。グラウンドでサッカー部たちが練習に勤しんでいる声を耳にしながら、彼は校門へと続く道を歩いていった。ほんの半年くらい前までは、新入部員獲得のための勧誘でいっぱいだった道も、今では葉のない街路樹が並んでいるだけだった。


「そういえば僕、運動部系の勧誘は一つも受けなかったな……」


女子バスケと女子バレーという例外は確かにあったが、それはノーカウントだろう。


校門の警備員に頭を下げ、彼は大学を後にする。十二月の空はすでに暗くなり始め、すでに街灯が点いていた。キャンパスから繁華街に続く道を進んでいくと、五分と経たずにコーヒーチェーン店が見えてくる。慣れた様子で彼はその中に入り、周囲を見渡す。さほど時間をかけずに、彼は勉強をしている黒髪の少女を見つけ出した。


「アサキ、お待たせ」


「あ、ユートさん。意外と早かったね」


彼女は開いていた英語のテキストを閉じると、飲み物が入っていた容器を持って立ち上がる。舌を噛むほど長い名前の飲み物が入っていたであろう容器をゴミ箱に捨て、朝咲は優人の方を振り返った。


「じゃあ、夕飯の買い物して帰ろうか」


「アサキ、今夜もうちに来るのか?」


朝咲は困ったように苦笑しながら頷くと、「生物のテストが近いんだよね」と舌を出す。


「夕飯作るからさ、その分勉強教えて?ダメ?」


ねだるような口調で、彼女は小首を傾げた。


「別に、それはいいんだけど……アサキのお父さん、心配しないか?ここんところお前、ほとんど毎日俺の家に寄ってくだろ?」


「いいのいいの。お父さん、どうせ帰ってくるの遅いし。それに、ユートさんと違って、ちっとも私の料理褒めてくれないんだよ。どうせなら、おいしそうに食べてくれる人に料理作りたいじゃない?」


腕組みをしてウンウンと頷く朝咲を見ながら、優人は困ったように頭を掻く。


「……それとも、私が来るのはイヤ?」


少し困らせてやろうと画策し、朝咲は落ち込んだような顔で尋ねた。


「いや、そんなことはないよ。いつも本当に助かってるし。それに、アサキが来てくれるだけで僕は嬉しいから」


何の気なしに優人が笑うと、鳩が豆鉄砲でも食らったように、朝咲は目を丸くする。


「でもね、アサキのお父さんも、娘が男の家に行って遅くに帰ってくるのを、よく思わないんじゃないかなって……アサキ、どうかした?」


「な、何でもない!……ユートが、不意打ちするせいでしょ……」


耳まで真っ赤にしながら、朝咲は目を伏せてモゴモゴと呟く。当の優人は、彼女が赤面している理由も分からずに、首を傾げていた。


「もう、いいから早く買い物行くよ!とにかく、ユートさんのことは、お父さん公認だから!」


朝咲はプイッとそっぽを向くと、さっさと逃げるように店から出て行く。


「……何か、怒らせるようなこと言ったかな?」


後ろからでも分かるほどに耳が赤い朝咲を見ても、優人には彼女の苦悩が分からないのだった。


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