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R80 最後にスッキリ!「祖母が悪魔になった夜」

作者: チャバティ64

この物語はハロウィンをテレビで見ていて思いつきました。

登場人物の名前も一切出てこない、少し変わった短編小説です。

予期せず、コメディー方向に進んでしまいました。

本作品は、80歳以上の女性に読んでいただきたいものとなりました。

楽しんでいただけましたら幸甚です。



短編小説「祖母が悪魔になった夜」


とある年の8月の終わり、祖父が亡くなった。

田舎で祖母と二人暮らし、健康的に暮らしていたが歳にはかなわなかったようだ。

90歳での他界は大往生と言っていいと思う。

祖母は85歳、先日お亡くなりになったフィルムのCMに出ていた「大女優」に、少しだけ似ている。

どちらかといえば物静かな人で、落ち込むかと思ったけど、そんなそぶりも見せず、今も一人で暮らしている。


それから2ヵ月が過ぎた。

私は「寂しがっているだろう」と思い、お茶を飲みに立ち寄った時のことだ。

居間でのんびり二人でお茶を飲んでいると、渋谷に集まっていた「ハロウィンの仮装行列」の様子をテレビニュースでやっていた。

皆写真を取り合い、とても「日本でのこととは思えない」というのが私の感想だった。


私は言った。

「東京の人はスゴイねぇ」

「でも、ばぁば、これはないよねぇ」


祖母は言った。

「えっ、どうしてな?」

「あんたも若いんだからやったらええのに」

「20若かったら行くけどな、TOKIO」

(ばぁば、どうしてTOKIOなの?)


祖母は、まんざらでもないようだった。


(ばぁば、20若くても65歳だよ)

私は、ひとりツッコミを連発した。


つづいて祖母が言った。

「来年行くかな、TOKIO」

(だから、なぜ?)

「冥土の土産にやっとこか?」

「ついでに、じいさんも驚かせてやろうかの」


「ばぁば、じぃじが腰抜かしたら逆だよ」

私は「ココだ!」と会心のツッコミを放った。

「ハハハハハ」二人で大笑いした。


(よかった、ばぁば元気そうで)


私は少しだけ安心したのだが、この時は、まだこれから起こる「あの出来事」を考えもしなかった。


翌年9月のお彼岸に、祖父のお墓参りに行った。

みんなでお参りを済ませ、祖母の家でお茶を飲んでいた時だ。


「あんた、衣装は頼んでええのか?」

祖母が言った。


「衣装って、なんの?」

私は言った。


「去年、約束したじゃろ、じいさん驚かすって」

「いくぞ、東京」

(そこはTOKIOって...)

そう言うと、右腕を上に突き出した。


「えっ、ばぁば、もしかして...?」

「マジで~」私は年寄りをあなどっていた。


早速、衣装を作った。

私は服飾の専門学校出なので衣装は得意だ。

祖母は「冥土の土産」だけに「メイド服に羽が生えたもの」と笑えないリクエストをよこした。

出来上がりを試着したら「羽が小さいから飛べん」とか言われたけど「大きい羽じゃ電車も乗れない」と説得した。

最終的には「棺桶に入らない」ということで納得していた。


(ばぁば、そこは譲っちゃダメなとこだよ)

私はのど元まで出ていた。


リハーサルも兼ねてメイクもした。

白髪が肩まである祖母が、オカルトメイクに真っ黒なメイド(冥土)服は、ちょっとどころかリアルに怖い。


悪霊退散間違いなし!

これでは、味方の「ジャック・オー・ランタン」も、オレンジ色から青くなっちゃう。

祖父も裸足(足は無い?)で逃げ出すだろう。


当日、衣装や小物・メイク道具をバッグに詰め、新幹線に乗った。

品川からはJR山手線で渋谷へ行った。


「うそ~本当に来ちゃった!」

私たちは、人の多さに驚きながら、駅のトイレで着替えた。

祖母の「オカルトメイク」もバッチリ決まり、周りは「リアル老婆風」だと思っている。


本物さながら(本物だけど)の迫力に、若い子たちから写真を求められ、祖母もご満悦のようだった。

「ヒッヒッヒィ」なんて笑って見せる。

祖母は、いたずらっ子のように楽しんでいた。


しかし、田舎の一人暮らしがたたり、早い時間だが眠くなってしまったようだ。

電池が切れたかのように急に元気が無くなった。


私は「少し早いけど帰ろう」と思った。

「ばぁば、もうすぐ終わるから帰ろ」


私の問いに祖母は残念そうだったけど「来年またこればいいか」と、つぶやいた。

(これは記憶しとかなきゃ)


トイレで着替え、メイクを落とし衣装をまたバッグに詰めた。


祖母が「スイカタワー(スカイツリー)だけ見て帰りたい」と言った。

(ばぁば、それどこの国にあるの)


真顔で言われ、下を向いて笑いをこらえた。

「うん、行こう!」

私は、すぐに電車を調べ行くことにした。


渋谷から東京メトロに乗ったが、混んでいて座れなかった。

祖母は「眠くなるから座りたくない」と言ってくれたので安心した。

足下のバッグが邪魔で、イスの無い優先場所(ベビーカー寄せ)に、二人で手をつないで立っていた。


向かい側が優先席だった。

制服を来た学生が、足を広げ座っていた。

「耳は大丈夫なの?」と、心配してしまうほど、イヤホンから音漏れしていた。


そう思っていた矢先、次の駅でベビーカーを押した妊婦さんが乗車してきた。

だいぶ、お腹が目立ち、カラダが重そう。

私たちは、すぐに場所をあけ、ベビーカーを寄せてもらった。


向いの学生(彼)が、チラッとこちらを見た。

私は「席を譲る瞬間が見れる!」とワクワクした。

しかし、彼は無視して目を閉じた。

なんと「タヌキ寝入り」したのです。


私は「恥ずかしいんだろうなぁ」と思い、彼に声をかけました。


「あの~ぅ、席を譲っていただけませんか?」


そうしたら、彼は目を開け耳に手を当てて「私に聞こえないアピール」をしてきました。

コンサートで観客をあおるときのあのしぐさです。

私はあきらめたくなかったのですが、祖母に両手で肩をつかまれ、後ろに下がらせられました。


祖母は私に言いました。

「ありゃハルク・ホーガンじゃな」

(誰それ、ばぁば?)

「それならこっちも、この超満員の観客に聞かないとな」

(ばぁば、何する気?)


祖母は悪い顔をしています。

まるで「さっきの悪魔が乗り移った」ように…。


彼がまた目を閉じた瞬間に大きい声で言いました。


「ぼくちゃんは席を譲るのが、はずかちいんでちゅかぁ~、ちかたがない子でちゅね~」


それを聞き、まわりは(観客)は大爆笑です!


唯一、聞こえなていない彼は何が起こったのかわかりません。

あわててイヤホンを外しました。


そこで祖母は彼に言いました。

「あの妊婦さんに席を譲ってくれんかのぅ?」


彼は何も言わずに、スッと立ち上がり、その妊婦さんに席を譲ってくれました。


それから、祖母とスイカタワー(スカイツリー)を見て帰りました。

その時にはいつもの「やさしいばぁば」の顔に戻っていました。


忘れられない「ハッピーハロウィン」の一日です。


おしまい



最後までお読みいただきありがとうございました。


お楽しみいただけましたでしょうか?

ぜひ、お茶でも飲みながら思い出し笑いで、ふきだしていただけましたら幸甚です。

口元に手を添えることをお忘れなく。


またお会いしましょう!


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