高瀬莉音について
第1章 つづき
<Side:高村みなみ>1
気づくと中体連は一か月後に迫っている。
この欝々とした日々が終わったら、太陽が照り付ける暑い日々が待っている。
今日もあたしは、部室でちーとありちゃんを待っていた。
最近友達関係がうまくいかないんだ。
隣のクラスの莉音は春に突如としてこの学校にやってきて、
先輩からも後輩からもすんなりなじんだっていうのに、
あたしだけなんだかうまくいかなくて、このところずっともやもやしている。
期末テストが明日で終わったら女テニの部長選びが待っていて、
先輩からも後輩からも、次の部長は莉音がいいんじゃないかって話が出てるくらいだ。
つい半年ほど前までは実力的に見て、高村みなみだねって、
ちーもありちゃんも、顧問の先生だってそう言ってたのに、
最近はみんなあたしを見ても何も言わなくなった。
テニス一家のうちの親でさえ、スポーツ少年団にたまに参加しにくる莉音のプレーをみて、
あの子は筋がいいね、みなみももっと練習頑張りなさい。
なーんて言ってくるようになった。
それで、ほんの少し、ほんの少しだけ、もやもやが前より増してるんだ。
「みーみ、おそくなってごめーん!!顧問のうっちーからコートのカギ借りてきた!!
少しだけやってこーよ。なんかテストばっかでストレス溜っちゃってさぁ!!」
「え、あーり、鍵借りてきたん?明日がテスト最後なんだしさっさとかえろーよぉ。」
二人ともセーラー服だけど、ありちゃんはげっそりした顔で、ちーは少し明るい顔で言った。
なんで?
なんで二人ともそんなに能天気なの?
「・・・・・・あたし、今日はもう帰る。」
えぇー、とダルそうに声をあげたのはありちゃん。
「・・・みーみ、テスト週間前の部活だってサボってたじゃん。
ストレス溜まってるのかなって思ってわざわざ鍵借りてきたのにぃ。」
「・・・誰も頼んでなんかないし。」
ちーはあたしの気持ちを感じたのか、とっさにあたしの腕をひっぱった。
「ストレスも明日までの辛抱だって。明日は部活できるんだし、あーりも帰って勉強しなよ。
私は小テストで満点続きの莉音ちゃんに負けないように明日も頑張るー。
ただでさえ部活は負けっぱなしだからこれくらいはねぇ。」
そういうちーの顔は負けず嫌いの性格がそのまま表れている。
「ね、みーみもそうしよう?」
「・・・あたしは一人で帰る。ほっといて。」
あたしの声は少し苛立って冷たい。
「なぁに、最近のみーみなんか機嫌悪いよねぇ。なんで?」
「そんなのありちゃんに関係ないじゃん?」
「関係なくないじゃん。小学校のときからの仲なのにさぁ?」
「・・・そういうのそろそろウザったいからやめて。」
「みーみ、それはちょっとあーりに失礼やん?」
「ちーも、もうあたしなんかにかまわなくていいよ。」
「・・・なんかって何さ?大事だから一緒にいるんでしょ?」
「・・・別に。」
ここまで言うと、二人とも少し機嫌を損ねたらしい。
「んじゃ、明日までテストだからやっぱりさっさと帰るわー。」
「なにさ、ちょっと気ィ遣ってあげたのにさぁ。」
一言二言かわすと、どちらからともなく、いこ。と言って、
二人とも部室を後にした。
あー。
この気持ちは、今日の空のように、厚い雲に覆われている。