たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<11>委員会っていいんかい?
ウングレー基地ではたくさんのAI型航空機が住んでいます。
その中でも運用機は普段の演習や訓練のほかに人手不足をおぎなうことと,基地にいる人間とコミュニケーションを図るために委員会活動もしています。
もともととくにたっくん達のようなステルス戦闘機は長時間飛行はできないので委員会活動の時間が多いのです。
委員会活動の時間は,みんなそれぞれの部署で働きます。
綺麗好きでいつもきちんとしているA10ちゃんは用具管理委員,本が好きなF35は図書委員,細かいことによく気が付き心の優しいB2君は保健委員でしたがたっくんは委員会がまだ決まっていなくて委員会活動の時間はいつも1人で過ごしていました。
長い間他の航空機と接することなく暮らしてきたので1人で遊ぶのは慣れていましたし整理整頓が苦手でめんどくさがりでけが人の手当てなんてできない蔵書の細かい管理なんて頭を使う仕事もできないたっくんはどの委員会にも入れそうにありません。
そもそもたっくんはお金儲けにならないボランティア活動なんてお断りです。
それでも1人でぽつねんと遊んでいるたっくんを見てAWACSさんはなんとかしないと,と思っていてジェイムスン中佐のいる副司令官室にやってきました。
「中佐失礼します」
「なぁーに」
「ラプターの委員会を決めたいと思いますが」
「でもなぁ,あいつにできることなんかあるかなぁ。あいつが整理整頓したり,図書室の本を片づけたり,けが人の介抱ができると思うか?」
と中佐はニヤニヤして言いました。
AWACSさんは中佐の机の上を見ました。仕事パソコンと大事な書類は隅においやったまま,机の真ん中には週刊誌と定規と食べかけのあんドーナツとコーヒーが置いてあります。
中佐はちょうどおやつを食べながら雑誌の袋とじのセクシーなページを開こうとしていたところでしょう。それを見てAWACSさんはがっくりと主翼を落としました。
そういえば演習のときの個別の棚(人間の会社でいう個人ロッカーや教室のかばんを置く棚)もたっくんのところだけいつもぐちゃぐちゃに物が突っ込んであるのをAWACSさんは思い出しました。
軍人と言う物は本来整理整頓が大事なのですがこの親子<…のようなもの>は本当にどう仕様もありません。
「とにかく中佐も何かラプターにできる仕事はないか考えて下さい」
AWACSさんはそれだけ言って遅めの昼食のために食堂へ行きました。
「元気がないな,どうした」
仲のいい同型機の給食調理員,ストラトタンカーさんが話しかけてきました。
「実は…」
とAWACSさんが係活動についての話をしました。
「あっはっは,たっくんねぇ!確かに整理整頓も掃除もけが人の世話も本も苦手かもね」
とストラトタンカーさんは笑いました。
「どこの委員会も人手不足なのは事実だし,ラプターにも手伝ってもらえば助かるというのもあるけど,何より委員活動の時間1人ぼっちにさせるのはかわいそうだと思うんだ」
とAWACSさんは言いました。
AWACSさんが食堂を出て行ったあと,ストラトタンカーさんは調理場でマッカラムさんと他の給養員達と献立会議をしていました。
すると窓の外を1人で移動しているたっくんを見つけたので声をかけました。
「一人で遊んでるの?友達は委員会に行ってるんだね」
「うん」
たっくんはつまらなそうに言いました。
ストラトタンカーさんはたっくんが主翼に落書き帳と色鉛筆のセットを持っていたので
「絵を描いてたの?僕にも見せてくれよ」
とたっくんの落書き帳を見せてもらいました。
パラパラとめくるとアニメやゲームや特撮のキャラクターがたくさん描いてありました。
「すごいなぁ,絵が描けるのか」
「へへ,まぁな」
たっくんは少し気をよくしたようです。
「これってすごい才能だよ」
「そうかなぁ。でも絵が上手くてもここじゃ何の役にも立たないよ。俺,手先が器用じゃないし,頭もよくないし,掃除も苦手だし。基地の手伝いとかできないし」
やはりたっくんは委員会に入れないことをとても気にしていたようです。
「委員会に無理に入らなくても君に手伝えることはたくさんあるとおもうけど。そうだ,ちょうどよかった。ちょっと頼みたいことがあるんだ。絵を描くのが好きな君に頼みたい」
夕方,AWACSさんは中佐では話にならないと思ってケビンに相談することにしました。
ケビンはちょうど他のクルーと一緒に晩御飯の支度をしていました。
ところでここのハンガーの台所のカウンターの壁に大きな卓上ベルが取り付けてあるのですがこれは何に使うのでしょうか。
普通,卓上ベルは下に置くものですが,なぜか壁に横向きにつけてあります。
「たっくんなら奥の部屋で遊んでるけど呼ぶかい?」
とケビンは言いましたがAWACSさんはケビンに用があると言い,さっきの話をケビンにもしました。
「たっくんがそんな委員会の仕事ができると思うかい?何かさせるたびにお駄賃お金って言うんだよ。でも,確かにこの基地は人手不足だし僕も考えとくよ」
とケビンは豚肉と青梗菜の炒め物を盛り付けています。
そして壁の謎の卓上ベルを2度拳で叩きました。
すると奥の部屋から亜音速でたっくんが飛び出してきました。
「はい,お願いね」
とケビンが言うとたっくんはキッチンカウンターにある大皿を次々と主翼に乗せてダイニングテーブルに運んで行きます。
出来上がった料理を運んだり,お皿やおはしを並べていきます。
「ラプターは毎日これをやってるのですか?」
AWACSさんが驚いて聞くと,ケビンは,
「ハンガーにいるときは毎日ね。夕食はクルーの人数が多いからたっくんにも手伝ってもらわないと。こればっかりはお駄賃なくても手伝わないと準備が終わらないから食事にありつけないし」
と言いました。
AWACSさんははっとしてストラトタンカーさんに会いに食堂に行きました。
食堂の入口に黒板が置いてあって明日の日付が書いてあって『今日の献立』が書いてありましたがいつもと違うのはただ文字で書いてあるだけではなく献立の麻婆豆腐と卵スープとごはんと杏仁豆腐の絵が描いてありました。
「それ,たっくんが描いてくれたんだよ」
とストラトタンカーさんが出てきて言いました。
「そう,それだ,ラプターのことで相談があって来たんだ」
とAWACSさんが言いました。
「実は僕もたっくんのことで話があって」
とストラトタンカーさんも言いました。
そしてまるで全く声をかぶらせて同じことを言いました。
「「ラプターを給食委員に」」
全く同じことを言った2人はお互いを見てびっくりしました。
そしてお互いがなぜそう思ったかを話し合いました。
ストラトタンカーさんはたっくんが絵が好きで献立の絵を描いてくれたこと,AWACSさんは普段たっくんがハンガーで配膳のお手伝いをしていること。
「食堂はいつも昼は戦場だし本当に人手不足で困ってるんだよ。俺も毎日目が回りそうでね。配膳を手伝ってくれると助かる。それに毎日黒板に献立の絵を描いてほしいし給食便りのデザインも頼みたい」
とストラトタンカーさんが言いました。
「ラプターは演習の休み時間は絵を描いているんだ。そう言うことなら得意だと思う」
とAWACSさんが言いました。
それに食堂の手伝いはランチタイムのお昼だけの短時間なのでスタミナ(航続距離)の少ないたっくんでもできそうです。
しかしAWACSさんとストラトタンカーさんは次の問題にぶち当たってしまいました。
すぐにお駄賃やお小遣いというたっくんが素直に食堂のお手伝いをしてくれるでしょうか。
そこでAWACSさんとストラトタンカーさんは再びジェイムスン中佐とケビンに相談に行きました。
ジェイムスン中佐は
「そうだなぁ…」
と腕組みをしていましたが,AWACSさんが
「中佐ならラプターの性格をよくご存じかと思いまして…」
と言うと,
「あいつの性格ねぇ…」
と考えてから
「そうだ」
とある方法を思いつきました。
次の日,お昼の委員会の時間になったときにAWACSさんがみんなの前でたっくんを呼びました。
「なんだよう,俺,委員会なんて絶対に嫌だぞ。タダ働きはお断りなんだ」
と言うとAWACSさんが,
「おめでとう。ラプター,キミが給食委員会『委員長』に『選出』されたぞ」
と言いました。
「は?」
「君は名誉ある給食委員長に就任することになったんだ」
委員長も何も給食委員と言う委員会すら今までなかったのですから委員長もへったくれもありません。
しかしたっくんをのせるにはおだてて持ち上げてこうするしかありません。
「いやー,おめでとう」
とAWACSさんは拍手をして,たっくんにまるで戴冠式みたいにピンクの給食帽をかぶせました。そこでやっと空気を読んだB2君A10ちゃんF35が拍手をしました。
「先輩すごいですよ,委員会初日から委員長だなんて」
とF35が言いました。他のみんなも一斉にたっくんのことをかっこいい!たのもしい!とほめました。
「へ,へ,そうかな」
おだてられたたっくんはだいぶ気をよくして,
「よし。お前たちの昼飯は俺に任せろ」
とすっかり威張って給食委員長をつとめることになったのでした。
(おわり)