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殺したいほど愛しい君へ

【手のひらの上の舞台】よりレグルス、リピチアの話。痛い表現とイタい表現、血なまぐさい表現があります。



 焦がれるほどの茶の髪。欲しくて欲しくてたまらない翠眼。転がっている体を抱きしめて、レグルスは女の首筋に口づけを落とす。いつもなら文句と足蹴りが襲ってくると言うのに、今日の彼女は酷くおとなしかった。


 ――当たり前か。


 自嘲気味に浮かんだ笑みは、目の前の女の翠眼に映り消えていく。物も言わない茶髪の女は、虚ろな目をレグルスに向けていた。

 鼓動はある。生きている。呼吸もしているし脈もある。

 けれど、レグルスが求めているのはこれではない。

 物も言わない蛋白質の塊なんて、レグルスは求めていなかった。レグルスが欲しいのはリピチア・ウォルターであり、自らで“構築”した、リピチア・ウォルターの紛い物なんていらなかった。


「お前はいつ俺の手に落ちてくれるんだ、リピチア」


 本人の前では決して呼ばないその名を、レグルスは“紛い物”の前でなら口に出来た。

 何度も何度も口にして、そのたびに虚無感に襲われて“解体”してきた。

 紛い物とはいえ、彼女の血でこの手が濡れるのは何度目だろう。レグルスにはもうわからない。

 彼女を殺すのにはもう慣れた。自分で作り上げた“リピチア・ウォルター”は本物そっくりで、けれど本物のように彼に逆らうことはない。彼が命じれば彼の命じたとおりに動く、忠実な彼の人形だった。


「君が欲しいよ、リピチア」


 呟きとともに唇を合わせても、翠眼に色は乗らない。ただぼんやりと無機質な瞳のまま、レグルスにされるがままだ。

 レグルスはそれが気に入らない。

 あの強気で不遜な眼が好きで、自分に向けられる嫌悪に近い強い眼差しが好きだから。

 それを屈服させることが自分の望みであり、すでに従順なリピチアなどいらなかった。


 ――それなのに、解体してはまた新しい「彼女」を作る自分のなんと愚かなことか!


 アジトの地下に作った拷問室は、彼女のための施設と言ったって過言ではなかった。一度、本物のリピチアがここに訪れたことがあったが、それでも彼女はレグルスの手には落ちずに逃げ切っている。

 

「君を手にする日が待ち遠しい」


 殺したいほど愛しているよ、リピチア。


 肌を突き破るように歯を立て、“リピチア”の首筋に歯形を刻む。赤い滴が溢れて、レグルスの唇を染め上げた。

 吸血鬼みたいだと自嘲してから、動かなくなった茶髪の女だった蛋白質の塊を見下し、レグルスはその傷痕に低く笑う。


「首筋へのキスは執着の証、か」


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