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愛の春夏秋冬  作者: 綾咲 彩希
8/9

語りの冬


「冬月さん、次の授業始まるよ」

「んー」

 あの自己紹介の後、私と夏川は仲が良くなった。良くなったと言っても、話題を振るのはいつも夏川だ。懐かれたのか、それとも興味を持たれたのか。夏川はいつも、休み時間私を起こしにくる。クラスでもそれが噂になるのは速かった。傷物とロミオ。絶対交わることのない二人に、クラスの連中は気味が悪いとすら言っている。

「夏川。私と仲良くすると友達無くすよ?」

 夏川は、きょとんとした顔をし、どこか複雑そうな笑みを作った。

「冬月さんがそんなことを心配してくれるなんてね。ごめん。ちょっとびっくりした」

「私ってそんなかな」

「どちらかというと、俺に興味がない感じという感じだと思ってた」

 まぁ、興味がないとまでは言わないけど、あると言えばどうだろう。

「だから、まぁ、嬉しかった」

 そんな悲しそうような嬉しいような、複雑な顔をされても私が困る。

「別にあんたのこと心配したわけじゃないから、勘違いしないで」

 あれ、このセリフどっかで聞いたことがある。

「冬月さんって、ツンデレみたいだよね」

「ツンデレ?」

「素直じゃない。ということさ」

 多分、条件反射みたいなものだと思う。私は、夏川の溝に拳をめり込ませていた。



 家に帰れば、両親がいる。父はお酒を浴びるように飲み、母は注射器で麻薬を投与している。至って、普通の家族だ。

「ただいッ‼」

 リビングの扉を開けた瞬間、顔面に衝撃が走った。私は、床に倒れ込んだ。

 鼻からは鼻血が垂れ流れている。目の前には父がいる。いつものことだ。

「ただいま。お父さん」

 父の顔は、真っ赤になっており足も千鳥足になっている。壁に寄り添わなければ、ろくに立ち上がることすらできないようだった。

「あんた‼顔はやめろってんだろ。学校の方になんか言われたらどうすんだい‼」

 奥から母の怒鳴り声が聞こえる。いつものことだ。きっと、小さい声では聞こえないと思って、あえて大きな声を出しているのだろう。

「別にかまいやしねーんだよ。俺の××に何しようがかってだろうがよ‼」

 父と母はよく喧嘩をする。だけど、十八年間離婚せずに居られたのは、それだけ仲がいいということなのだろうか。

 父は倒れ込んだ私に馬乗りになり、頭を床に押さえつける。頭蓋骨が悲鳴を上げている。

「雪子。駄目じゃないか。こんなに帰りが遅くなったら」

「ごめんなさい。日直が」

 再び、父の拳が振り下ろされる。

「駄目だろう?いぃわけしちゃ」

「ごめんなさい」

 父はにたぁとした不器用な笑顔を浮かべる。

「それと、俺のことはパパって呼ぶように教えたよな‼」

「ごめんなさい。・・・パパ」

「何度も同じ間違いをする子には、お仕置きが必要だよねぇ」

 父は、私の服に手にかける。同じ、間違いをしたのは私だ。そう、当然のことなのだ。いつも通りの日常が今日もまた過ぎていこうとしていた。



 起きた時には、既に次の日の朝になっていた。制服はシワだらけになっている。身体に付いたこれもカピカピになっており、匂いが身体にこびりついている。お風呂に入ってからではないと、流石に不味い。制服を服で溢れた洗濯機に置くようなに置き、お風呂場へと向かった。だが、お湯は出なかった。仕方がなく制服を着なおし、タオルを持って家を出た。

 こういう時、公園の蛇口は役に立つ。無料、いくらでも出る。そして、人が来ない、心置きなく、水浴びが出来る。

 カピカピも落ちて、身体が綺麗になっていくのか心地よいものだ。匂いも少しはまともになるから、一石二鳥だ。

 ドサッ

 後ろから何かが落ちた音がした。誰か後ろに居る。どうしようか、今、裸だから襲われたどうしよう。

「冬月さん、どうしてそんな姿に」

 この声・・・

「夏川?」

「とにかく、早く服を着て。少し歩くけど、家が近くにあるから」

 服を着ると、夏川は私の手を引いた。夏川の手は異様に冷たかった。



 夏川の家に何故か連れて来られた私は、温かいお風呂に入っていた。冬の入り初めとはいえ、外はなかなか寒く、水を浴びた私の体は芯から冷え切っていた。

 お風呂に入ると、ジーンと熱が伝わってくるのがよく分かる。夏川の家の風呂は結構広く、足が伸ばせた。暖かなお風呂に入ったのはいつぶりだろうか。

「湯加減どう?」

 ドアの向こうから海色に聞こえる。

「あ、うん。平気」

「着替え、ここに置いとく。制服は洗濯してるから」

「あのさ」

「うん?」

「ありがとう」

「別にいいよ。上がったらリビングに来て」

 夏川はそのままドアから離れて行った。私はもう少し、この温もりを味わっておきたかった。この温もりは、どこか体に付いた汚れを落としてくれる気がする。



 改めて、確認すると夏川の家は豪邸だ。こうして見ると、別次元のことに思えてくる。そして、夏川はどこか配慮が足りない。もしくは、下心があることを私は目の前の服を見ながらそう思う。

 目の前に用意された服は、Yシャツ一枚とGパン、男物の下着だ。着てみても分かるが、結構エロイ。このまま行くかどうか迷う所だが、もう裸を見られているから別にいいと私は気にせず、この広い豪邸からリビングというものを探し出した。



 探すのに五分くらいはかかっただろうか。リビングに着くと夏川は驚いた声をあげ。

「なんで、Yシャツ一枚なんだよ。俺のだけど下着置いてただろ」

「もういいじゃん。一回裸見てるんだから。ちゃんと、身体拭いて来たから透けることもないから」

 証拠に見せつけるが、夏川は目線を反らす。初心な奴め。

 夏川は、一度ため息を付き、私を椅子に座らせる。そして、テーブルにご飯、味噌汁、魚の塩焼き、卵焼き、漬け物、海苔、サラダ。次々に並べられて行く。

「え?なにこれ」

「身体、冷えてるだろ」

「全部、夏川の手作り?」

「冬月さんがお風呂入っている時に作った」

 寒さのせいか、鼻の奥に詰まった鼻血の塊のせいか、匂いは感じなかった。

「い、頂きます」

 箸を持ち、ご飯を口に運ぶ。それは温かった。常温のご飯ではない。

 味噌汁を口に運ぶ。それは温かった。冷たいお湯ではなかった。

 魚の塩焼きを口に運ぶ。それは温かった。ガムみたいな感触をしていなかった。

 卵焼きを口に運ぶ。それは温かった。卵なんていつ以来だろう。

 頭に浮かぶは、カップラーメン。冷めたお湯だったもの。コンビニ弁当。カビの生えたパン。それが日常だったはずだ。だけど、涙が止まらなかった。涙がボロボロこぼれる。ご飯がしょっぱい。食べ物が胃に入る度に、心の中の寒さが溶けていく感覚に襲われる。それが、たまらず痛い。痛いけど嬉しかった。

「夏川」

「ん?」

「ありがとう」

 私は心から夏川に感謝した。



「本当に送らなくて大丈夫?」

 夏川は心配そうな顔をして、私の手を離そうしない。そろそろ帰らなくてはまた両親に怒られる。

「大丈夫だよ」

「冬月さん」

「なに?」

「冬月さんは親から虐待されてるの?」

 夏川はいい奴だ。ここで私がイエスと言えば、きっと対処をしようとするだろう。だけど、私はそれを望んでいない。

「されてないよ。ウチの両親は確かによく喧嘩するし、暴力も振るうけど、それが私の家庭で。私の両親で。私の日常だから」

 私は私の日常を守りたい。私は私の家族を守りたい。私は私の家庭を守りたい。

「・・・そっか」

 夏川は手をゆっくり手を離す。

「だから、今日はありがとう」

 また明日


「ただいま」

 リビングの扉を開けると、父が包丁を持ち私を睨んでいた。

「なぁ、雪子。お前は俺を愛してるか?」

 その目は狂気をはらんでいる。鳥肌が一斉に立つ。今までにはない恐怖。奥歯がカチカチとなっている。

「なら、一緒に死のう。ゆーーーーーーーーーきーーーーーーーーーーーーこーーーーーーーーー」

 包丁が頬を切り裂いた。避けようと思って避けたわけではない。反射だ。恐怖からの反射。もしも、避けなかったら、眼玉一個失っていただろう。

「どうしてよけるるるお@:&’#’*」

 既に、父の呂律は回らなくなっている。きっと薬が切れたのだろう。なら、薬を打てば元の生活に戻れるのではないだろうか。きっと、いつもの生活に戻れる。期待を胸に、振り回される包丁から逃げていく。だが。

「ぐッ‼」

 家に散らばっているゴミに足を取られ、頭から地面にぶつけてしまう。意識はそこで途切れた。


まだ、表現など足りない部分が目立ちますが、とりあえずストーリだけ理解していただければ幸いです。

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