断片の春夏秋冬
お久しぶりです。
最近忙しくて全くかけていませんでした。
すみません。数少ない読者さんを待たせて本当にすみません。
冬の断片
「おとーさん」
「」
「おかーさん」
「」
「ねぇッ!!見てみて。百点取ったよッ!!」
「」
「今日ねぇ、運動会かけっこ一位になったよッ!!」
「」
「雪。お料理が出来るようになったよッ!!」
「」
「雪。裁縫が出来るようになったよッ!!」
「」
「今日、雪の産まれた日だよ」
「」
「おとーさんお誕生おめでとう」
「」
「おかーさんお誕生おめでとう」
「」
「あのね、雪。おとーさんとおかーさんの事」
「」
長い夢を見ていた気がする。どんな夢だったか、さっぱり思い出せない。外は薄暗く、冷たい空気が肌を撫でる。時計を見れば、まだ朝の三時だった。横には海色が目の周りを真っ赤にして寝ている。折角の顔が台無しだ。再び寝ようとも考えたが、尿意と寒さで起き上がることにした。
「海色より、早く起きることって私あったけ?」
二ヶ月前からずっと、海色に起こしてもらっている。自分で起きた記憶なんて、ここ二ヶ月、一度もない。海色の寝顔をもう一度見る。綺麗な顔が涙で台無しになった顔だ。
「海色ってこんな顔で寝てるんだ。」
私は海色のことを何も知らない。
海色は何も教えてはくれない。
それが、何故か悲しくて、心が傷んで。
「うっ……」
私は、口を抑え急いでトイレに駆け込んだ。口から苦い胃液しか出てこなかった。でも、お腹の中に何がある感じがした。もやもやとした何か。私は、自分の指を喉に入れ無理矢理吐き出そうとする。だが、もやもやは取れてくれない。何回吐き出そうとしても、もやもやは出てきてはくれなかった。遂に胃液すら出なくなり、私は自分のお腹叩く。
「ぐッ!!」
自分の力で殴った痛みよりも、お腹にあった元々の傷を殴った痛みが予想以上に痛かった。
「うッ……つッ……」
あまりの痛みに涙が零れる。痛かった。辛かった。
私はふらふらと立ち上がり、適当な服を着て外に出た。自分自身何がしたかったのか分からなかったけれど。それでも、今は外に出たかった。
「寒い」
適当に選んだ服だから、完全防寒までには至らなかった。
「私……何がしたんだろう」
自分から吐いて、自傷して、外に飛び出して、こんな知らないおんぼろ公園にまで来て。気を緩めてしまえば、涙が流れてしまいそうだ。私は自分の手に顔を埋めた。
「大丈夫かい?」
いきなり声をかけられ、頭をあげるとそこには帽子を被った人が居た。
「あの~大丈夫でしょうか~?」
「てか、なんでこんな時間帯に公園に少女がいんの?マジ受けるww」
「」
防止の他にも、ハゲにヤンキー女子。無口なロリも居る。
「あの大丈夫なんで……」
「んな、まっおな顔でなに言ってんだよ。うだッ!!お前も食うか?季つのめ。どう、の顔だと、めとか食ってねぇんだろ~?」
め?目?眼?眼球?この人は、一体何を言ってるんだろうか。きつのめ?もしかして、狐の目でも食べようとしてるのだろうか。ならば、遠慮したかった。というか、食べたくない。吐きすぎて食欲はまったくない。それに狐の目なんか食べたくない。
「え~と、そんな真っ青な顔でなに言ってんだよ。そうだッ!!お前も食うか?季節の飯。どうせ、その顔だと、飯とか食ってねぇんだろう~?と、佐貫さんは言っています。はい。決して、貴女が考えてるような目などは食べたりしません。はい。」
ハゲが佐貫?という人の言葉を和訳する。ハゲは、頭をふかぶかと下げると自分の名前を名乗った。
「あぁ、申し遅れました。私、箕作柄長提灯鮟鱇と申します。はい。もしかしたら、ハゲと思っているかも知れませんが、どうぞ私の事は箕作柄長提灯鮟鱇とお呼び下さい。あ、もし、呼びづらいと言うのでしたら、箕作柄長提灯か鮟鱇とお呼び下さい。はい」
………………………………………………………………
「それは本名ですか?」
「えぇ、私の親が三日三晩寝ずに考えてくれたいい名前です。はい。改めて、いいますが、」
「」
「い、痛いです。幽咲さん。扇子で叩くのは、や、やめて下さい。痛いです。はい」
親は何を考えて、そのなんならアンコウを付けたのだろうか。というか、長すぎて覚えられない。言葉が抜けている佐貫さん。名前が長い時折心を読んでくるアンコウさん。紙で出来た扇子でアンコウさんの( ハゲの )頭を叩くロリ。
「」
ぎろりと睨みつけたられた。まさか、心を読まれた?だが、目付きが悪いわりにはそこが可愛かった。可愛過ぎた為、おもわず、頭を撫でようと紙扇子で防いでくる。
「くっ」
「」
幽咲ちゃんと私の間に火花が散る。何がなんでも頭を撫でさせない気だ。
右手をそーと前に出す。バチン。
左手をそーと前に出す。バチン。
勢いよく真正面から手を出す。バチン。
もう一度、勢いよく真正面から手を出す。フリをして横から。バチン。
「ぐぬぬ」
「」
上下右左、斜め上下右左、前後ろ。ありとあらゆる場所から手を伸ばす。フェイントも入れたりするが、
バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン。
ロリ。幽咲ちゃんは紙扇子で相殺する。寸分の狂いもなく的確に正確に対処してくる。正直、紙とはいえ手に出来ている傷を叩かれると多少、いや、凄く痛い。だけど、撫でたい。小さな体。ぷにぷにとした肌。若い顔立ち。小さな手足。子供とはこんなに可愛かっただろうか。まだ、諦めたくはなかった。だが、
「うッ……」
朝から体調が悪かったのに、こんなに暴れれば悪化するのは当たり当たりまえだった。膝から崩れ落ちた私。
「まぁ、具合が悪いのにメアリーちゃんと暴れれば当然だね」
季節さんは、いつのまにか公園で火をおこしていた。パチパチと火花が散っている。
「はい。」
季節さんは、手に持っていたカップに何かを注ぐと私に手渡した。カップからは温かさが伝わってくる。冷たい手がじわぁ~と温かくなっていくのが分かる。同時に叩かれた痛みのヒリヒリが襲ってくる。カップの中身を見るとシチューだった。
「お!今日はチューか。季つ。」
「季節は冬だかね。シチューでも作ってみたよ」
「いいですね。はい。風物詩ですね。はい」
「」
「御飯ももうすぐ出来るから」
これは、飲んでも良いのだろうか。いや、飲むと言うは正しいのだろうか?食べる?でも、具は入っていないように見える。
「別に意地悪したわけではないよ?何も食べてないのだろう?なら、まずはスープで胃を馴染ませないと苦しくなるよ?」
「は、はい」
口に出ていたのだろうか。なんだか、恥ずかしくなってきた。
「まぁッ!!取り敢えず、一口飲んでみろって、季つのめはマジで旨いから」
佐貫さんに背中を押されおそるおそる一口、口に含んでみる。
「美味しいッ!!」
口に含んだ瞬間、甘味とまろやかさが口に広がる。優しく舌触りも滑らかで飲みやすい。飲み込むと熱すぎない温かみが喉を通り胃に行くのがよく分かる。一口めだというのに、体が温もる。
「だろぉ?季つのめは」
佐貫さんが何かを言っているが、私はカップに入っていたシチューを飲み干した。
「そんなに慌てて食べなくても、シチューは逃げたりしないよ?無くなったりはするけど」
季節さんは、ご飯にシチューをかけて皆に渡す。
「君の分もちゃんとあるよ?」
渡されたシチューはとても美味しそうだった。だが、何故彼らはここまで見ず知らずの私に優しく接してくれるんだろうか。
「どうた?」
佐貫さんがこちらを心配そうに顔を覗いてくる。
「あの」
「ん?」
「」
言葉が詰まった。本当に聞いても良いだろうか。正直、今の空間が心地いい。でも、知ってしまったら絶望に変わるかもしれない?それが、怖い。でも、心のどこかでは知りたかった。
「あの、どうして。どうして、皆さん。その、あの、良くしてくれるんですか?」
佐貫さんにアンコウさんはきょとんとした顔を見せた。季節さんは、にっこりと笑っている。幽咲ちゃんは相変わらず無表情のままだ。
「うだな。たかに、ふぜんと言えばふぜんだな」
「そうだな。確かに、不自然と言えば不自然だな」
佐貫さんには語り、アンコウさんは訳する。
「わた達は、訳ありゅう団なんだよ。訳あり、ふらふらと公園に立ち寄って、きつにたけてもらった」
「私達は、訳あり集団なんだんだ。訳あり、ふらふらと公園に立ち寄って、季節に助けてもらった」
「別に助けたつもりはないんだけどね?」
季節さんは、くすっ笑う。
「なんか嫌な事があって、なんか嫌な事があったから、皆で集まって愚痴る。れでいいんじゃないか?」
「なんか」
「流石に分かるので言わなくて良いです。」
私はアンコウさんの訳を止めた。そんなにしょんぼりしないで下さい。
「だから、皆で一緒にめを食べて、嫌なことわれて、かいんッ!!とかで、良くね?季つのめは旨い。箕作柄長提灯鮟鱇は名前が長い。幽咲ちゃんは可愛い。私ほどじゃないけど。お前は、幽咲ちゃんに挑んだおもろい奴。そんな連中と一緒ににめを食べる。いこうじゃねぇかッ!!」
佐貫さんは、シチューをスプーンで口に運ぶ。
「お前も食えッ!!食って、駄弁って、嫌な事われて学校に行け。で、また嫌な事があったらここに来て、食って、駄弁って、嫌なことわれろ。」
うんッ!!と、佐貫さんからスプーンを手渡された。口に含むと、さっきとは違った味わいが口一杯に広がった。
頬っぺたが冷たい。でも、体は温かい。シチューを口一杯に入れる。いくらでも食べれる気がした。しょっぱくて、甘くて、まろやかで。
「しょばいでずよぉ゛~きぜつざん~」
「泣きながら食べてるからね」
「旨いだろう?なッ!!」
「おいじいでずッ!!」
「新しい仲間が出来ましたね。はい」
「」
「ん?おかわりかい?メアリーちゃん」
「」
「ふふ、素直じゃないね」
寒さの中に私は温もりを感じた。まるで××のようだ。
季節さん達と解散後、私は自宅に帰ってきた。
「ただいま~」
海色を起こさないように小さな声で言ったが家の扉を開けた瞬間、海色が立っていた。
「おかえり」
「うん、ただいま」
空気がどことなく重い。海色のことだから心配をしてくれていたのだろう。悪いことをしてしまった。
「どこ行ってたの?」
「ちょっと、散歩」
「心配した」
「ごめんなさい」
「……」
「……」
「ご飯にしよう」
「ねぇ、海色。」
「なに?」
「今晩。シチューがいい。甘いの」
夏の断片
「」
「誰だ。お前」
「」
「五月蝿い。なんで、ここに居るんだよ」
「」
「答えろ。お前は誰で。なんで、ここにいる」
「」
「お前には関係ないだろ。いいから答えろ。場合によっては×すから」
「」
「そんな理由で、不法侵入なんか」
「」
「ッ!!」
「」
「ち、違ッ!!」
「」
「俺は×そうは思わなかった。ただ、好きだったんだ。」
「」
「なるに決まってるッ!!俺がしたことは」
「」
「ッ」
「」
「何が押し付けだッ!!俺はお前にも雪子にも何も」
「」
「そんなこと」
「」
「雪子は、××されてたんだ。それから俺は解放したんだ。救ったんだ。」
「」
「五月蝿いッ!!単なる通りすがりが口を挟むなッ!!」
「」
「やめろ……やめてくれ……」
長い夢を見ていた気がする。そんな悪夢のおかげで朝から寝覚めは悪く、おかげで雪子はどこかに行っていて、ろくに睡眠が取れていない。それに、雪子が言っていた公園がなによりも気がかりだった。もし、季節さんと会っていたら厄介なことになる。帰りに公園に立ち寄って調べなければならない。
国語の授業中、俺は教科書を読んでいてふと考え込んでしまう。今、習っている授業の内容がとある侍の話だ。
侍は道端で病気に苦しんでいる人を助けようとするが、病人は、あまりの苦しみに「殺してくれ」と侍に頼み込む。侍は、生かすか殺すかの選択を迫られた。侍が殺さなくても、病人は死ぬ。でも、侍が殺せば病人の苦しみは短くなる。これだけなら、殺してでも救ってあげたいという気持ちにはなるだろう。だが、ここで重要なのはその後、侍の人生だ。
この時代では、人を殺せば必ず死刑にされる。どんな理由があっても。
この条件が入ってしまうと、前の考えは大抵の人は無くなってしまうだろう。人を殺して自分も死ぬ。それも、あかの他人を助けて(ころして)自分も殺される。それは、誰だろうと嫌だろし、嫌がるだろう。
しかし、結果は侍は病人を助けて、死刑にされた。侍が何を思って殺したのかは教科書には書いていない。それが、今回の授業の内容だ。侍の気持ちを考えを求めよ。
でも、だからこそ俺は考えてしまう。もし。もし、これが家族や友人や恋人ならどうしたのだろう。
侍はどうした?助けた?それとも殺した?考えても答えは出ない疑問だが、それでも考えてしまう。
季節さんならどう答えるだろう。
「君は年頃の少年のようなことを考えるね?海色君」
気づけば教室には誰も居ない。静かで、人の声や雑音などはまったく聞こえない。逆に静かすぎて耳の奥が痛かった。この空間は、まるで時が止まっているようだった。季節さんは床から一段一段トランプのピラミッドを建てていた。
「今回は出番が多くて困るね。ボクは××したいと言うのに」
やれやれ、と言わんばかりに首を振る。
「ボクを呼び出しても、何も変わらないよ?」
俺は首を傾げた。どういうことなのだろうか?
「君は既に答えを持ってる。気づいてない。いや、見てみぬフリをしているだけだね。忘れようとしている。はは、駄目じゃないか。あれは、君が償うための罪で。あれは、君が償うきっかけになったこと、なんだからね?」
罪。きっかけ。罪とはなんなのだろうか。きっかけとはなんなのだろうか。あれを罪と呼んでいいのだろうか?あれをきっかけと呼んでいいのだろうか?
「残念ながら、教えてあげたい所のなのだけど、生憎、今は出来ない。ここでは出来ない。不可能だ。でも」
季節さんは話を進めた。現実を突きつけた。
「侍が助けた、殺した。と、君は二つの選択肢を作っている。だけど、その選択肢は間違いだ。大間違いだ。テストなら零点は避けられなかっただろう。良かったね。明日の小テストは満点が取れるよ。」
はて、明日の小テストがあると先生は言っていただろうか。そもそも、俺は、選択の話を一度でもしただろうか。
「侍に出来ることは二択だ。侍が出来たことは二択だ。単純且つシンプル」
殺したか。
見殺したか。だよ?
「どのみち、侍は殺人以外の道は無かったんだね。うん。これにてこの無駄話は終了だね」
気づけば、トランプのピラミッドは天井にまで到達していた。季節さんは、ハンカチで手を拭いている。だが、そんな事はどうでもよかった。
「季節さん、意味が解りません」
「おや?結構簡単に分かりやすく説明したつもりなのだけど?」
「まず、二択です。殺したのは分かります。でも、これは同時に助けたことになります。」
「助けた?何を?誰を?」
季節さんは眉間に皺を寄せ、首を傾げた。本当に分からないらしい。
「病人は苦しみのあまり「殺してくれ」と侍に頼み込んでいます。これは、殺すことによる救済。助けたことと同意義になりませんか?」
「ならない」
冷たい声だった。空気が変わった事が肌で感じ取られた。季節さんの目はまるで死人のようだった。冷たく凍えて、なにより生きている光がない。
すべてを諦めているようで。
全てに絶望しているようで。
全部を終わってしまっている。
「君は本当に目を反らしているようだ。まったく、朝のことで情緒不安定になりすぎだよ。良いだろう。特別授業だ」
季節さんは、小指でピラミッドのカードを一枚弾いた。弾いた所を中心にピラミッドは崩壊していく。まるで、精神のように。
「人間はね、生きているうちにしか痛みを感じないんだよ。」
「それがなんで分かるんですか?季節さんはまだ」
グチッ、グギッ、
変な音が体の中からなった。腹を見ると、剣が生えていた。
「……は?」
胃から、肺から、食道を通って口に到達する。俺は、口から大量の血を吐いた。血の味が口一杯に広がる。後ろを見ると、季節さんが剣を持って、俺に刺していた。
ブチッブチッブチッ
季節さんは剣を抜くと、筋肉が切れる音が鼓膜に頭に響いた。俺は床に倒れた。
「侍は確かこんな殺し方をしてたかな?」
季節さんは、剣を持ち直すと何度も何度も何度も何度も何度も俺を刺した。刺す。力一杯刺す。力任せに刺す。同じところを刺す。違うところを刺す。滅多刺す。侍が、こんな殺した方をしたと教科書に書いてあっただろうか。
「まっ、こんな感じかな」
ゆうに百ヶ所以上刺された。教室は既に地獄と化していた。俺の血は、床に、壁に、天井に、黒板に、机に、椅子に、窓にべっとりと付いていた。
「刺される気分はどうだい?」
「……」
「おや?黙り込んでどうしたのかな?」
「……」
「あれ?」
「……」
「死んだかな?」
「……」
「おいおい、止めておくれよ。ボクが主人公を殺したでめでたし、めでたし、なんてこれ以上面白くない話はないよ?前作の青春よりつまらないよ?」
「……」
「死んでるわけじゃないんだから、さっさと起きるんだ」
「おぶっ」
季節さんは死んでいた俺の股間に蹴りを入れてきた。痛…くない。
「ここは君の夢の中だから痛みなんて感じるわけないだろう?」
刺された傷もいつの間にか癒えている。さっきの痛みは(なかったけれど)嘘のようだった。
「夢の中は死んでるのと同じ条件だから、痛みを感じなくて当然だよ?さて、話を戻そう」
気づけば教室には誰も居ない。静かで、人の声や雑音などはまったく聞こえない。逆に静かすぎて耳の奥が痛かった。この空間は、まるで時が止まっているようだった。季節さんは床から一段一段トランプのピラミッドを建てていた。
「戻りすぎなような気がするけど、まぁいいさ。」
俺は首を傾げた。なんの話だろうか?
「痛みがあるということは生きていると同意義なんだ。君もさっきので経験が済んだだろう?」
「さっき?」
「面倒だなぁ……」
季節さんはどこから出したか分からない剣を構える。そうだ、俺はさっき季節さんに惨殺され斬殺されたんだ。
「すみません、思い出しました。なので、どうか剣をしまってください」
「おや?思い出してくれたんだね。いや、いや、嬉しいものだね。夢の中で、二度も海色君を滅多刺しにしなくて安心したよ」
季節さんは安心した様に笑った。
「さっきも言ったけど、痛みは生きている同意義なんだ。それを奪うことは、生きることを無くすことだとボクは思っている。侍は、殺すという選択が無かったとしても、侍は見殺しにするべきだったんだ。病人には、生きることを諦めてはならなかった。苦しんで、苦しんで、苦しんで。そして、死ぬべきだった」
死んでしまったら何も感じないんだよ?
「感情というものは無くなり、五感からは何も伝わらなくなる。感情や五感が、いや……死ぬということは」
何かを視ることが出来ないということは。
美しいものや愛するものを視ることが出来ない。
醜いものや嫌いなものを視ることが出来ない。
そこには感動も未知も存在はしない。
何かを聞くことが出来ないということは。
友の言葉を聞いたり、物の音を聞くことが出来ない。
音色を聴くことも、雑音も聞くことが出来ない。
そこには感動も未知も存在はしない。
何も匂わないということは。
何も味わえないということと同意義だ。
親が作った料理を食べたときの喜ぶことが出来ない。
自分の味すらも分からない。
そこには感動も未知も存在はしない。
あるものはそう
虚無だ
「おい、起きろ。夏川。おい!」
耳の奥に声が響き渡る。重い瞼を開けてみれば、目の前には心配そうな顔をした教師が立っていた。
「大丈夫か?夏川。お前体調が悪いのか?」
「なんのことですか?」
「お前、自分の顔を触ってみろ。悪い夢で見ていたんだろう」
自分の顔を触ってみると、汗が肌の毛穴という毛穴から吹き出していた。体も同じように汗まみれだった。別に教室の温度が高い訳ではない。きっと教師いう通り、夢のせいだろう。
「先生、すみません。着替えてきてもいいですか?流石にこのままだと風邪をひいてしまうので」
「あ、あぁ。いいぞ?替えはあるのか?」
「はい。一応」
俺は席を立ち、後ろに置いていた体操服を握って教室を出た。教室を出る時、雪子がこちらを見ていた。俺は、そんな雪子の視線を遮るように扉を閉じた。
廊下を歩いてる時、夢の内容が頭を過る。季節さんは何が言いたいのかは分からなかった。ただ、季節さんは現実を突きつけた。俺が目を反らしている現実を突きつけた。逃げ出そうとしたものから見せつけた。
唇を噛み締め、拳を握りしめた。
俺は雪子に許してもらいたかった。
秋の断片
「ねぇ、ねぇ、あの子って「あれ」なんでしょ?」
「」
「うん、噂によると「本気」らしいよぉ~」
「」
「やだー、キモーい」
「」
「あたしぃ、襲われないかしんぱーぃ」
「」
「学校やめてくんなぁいかな~」
「」
「居るだけで迷惑なんだけどぉ~」
「」
「なによ!その目ッ!!」
「」
「誰よ、あんた!」
「」
「ちょっと!やめて!やめて!助けて!」
「」
長い夢を見ていた。昔の夢だ。懐かしい忘れてはいけない記憶。私が生きていて良かったと思えた思い出。
「紅葉」
「どうしたの?雪ちゃん」
ウチは、現在、学校敷地内。雪ちゃんの隣で至福の時を過ごしていた。この上なく至福の時だ。おぉ、神よ。居るのなら、この時間を永久に続かせて。今日は、雪ちゃんが急にウチを帰りに誘ってくれた。雪ちゃんはいつも事前に(お昼休みには)言ってくれる。だが、今回はウチが帰ろうとした時に誘ってくれた。これは、遂にウチの時代がきた?!
「海色が不機嫌なんだけど、どうすればいいと思う?」
「……」
あー、はいはい。分かってたよ?分かっていましたよ?ウチの幸せの時間は短いことぐらい。おぉ、神よ。居るなら、とっとと、さっささと、死んでください。というか、海色も海色でなにウチの雪ちゃん(仮)を悲しませて、何がしたいのだろう。でも、ウチが知る限り海色と雪ちゃんが喧嘩したことも、海色が不機嫌な所は一切見たことがない。
「な、なんか原因があるとか?」
ウチはさりげなーく、うん、さりげなーく聞いてみた。あまり深く聞きすぎたら嫌われてしまいそうで、怖かった。傷ついてしまうのが怖かった。
「あー、一つだけ心当たりがある。でも、確か朝には仲直りしたはずなんだけど」
「こ、こ、心当たりって?」
なに聞いてるのウチ。また、自分から傷つきに行って馬鹿じゃないの!?もうやだ。絶対嫌われてた。なに、こいつとか思われてるよ。絶対。
「朝ね。三時くらいだったかな。私、自分の家から出たの。散歩程度のつもりで」
「う、うん」
あれ?もしかして、セーフ?
「ぶらぶらしてたら、面白い人達?かな。その人達に会って、一緒にご飯食べたの」
雪ちゃんは楽しそうに話すが。ウチの頭の中では混乱が起こっていた。
え?面白い人達?見ず知らずの人達と?一緒に?ご飯を?食べた?
「ゆゆゆっゆ、雪ちゃん!?」
「どうしたの??紅葉」
「大丈夫!?なにもされなかった!?酷い目にあわされなかった?!」
「だ、大丈夫だよ!?それより、紅葉。脳がシェイクされるから肩の手を外して」
「は!?」
気付けば、ウチは雪ちゃんの肩を掴んでいた。あわわわ、雪ちゃんに触っちゃった。一週間は手を洗わないことをウチは自分の手に誓った。じゃなくて、ウチは急いで手を離した。
「ご、ごめんね」
「い、いいよ。でも、嬉しいな。紅葉がそんなに心配してくれるなんて」
「当たり前だよ!!だって、だって」
思わず、声が出てしまった。だけど、ウチが雪ちゃんを心配するのは当たり前だ。例え、クラスの皆が雪ちゃんの敵になったとしても、私は雪ちゃんの味方になる。なにがあっても雪ちゃんの味方になる。どんな時でも助ける。雪ちゃんが私にしてくれたように。次は私が雪ちゃんを守る。その為になら、命なんていらない。だって。
「友達だからッ‼」好きな人だから。
気持ちと言葉が違うことに、私は唇を噛んだ。もし、この想いを伝えたら雪ちゃんはどんな反応をするだろうか。やはり、気持ち悪いだろうか。ウチの恋は実らない。でも、それでも愛しい雪ちゃんの為ならウチはどんな我慢でもする。雪ちゃんと一緒に居られるのなら。
「ありがとう。行こっか」
冷たい風が木々を揺らした。木々には葉っぱは既に無く、あるのは木の葉がない枝だけだった。
「うん」
まるで、ウチの心を表しているようで。
「寂しいな」
「なにか言った?」
「ううん、何も」
ウチは首を横に振った。その時、海色が視界に入った。
「雪ちゃん。あれ」
ウチは指を指した。雪ちゃんも海色の存在に気付いたようだった。気付いた瞬間、顔色が真っ青に変わった。海色がベンチに座っている。その目の前に女が立っていた。海色と女が話していること自体が驚きだが、そこが重要なのではない。女が海色が色目を使っていた。座っている海色の膝に両手を置き、顔を近づけている。女の顔が徐々に海色に近づいていく。ウチの中で焦りと混乱が起こっていた。
どうすればいい。止めに入る?それとも、雪ちゃんが現場を見ないようにさせる。ウチはどうすればいい。雪ちゃんの顔を横目で見ると、さっきとは全くの逆の表情だった。
ウチは馬鹿だから上手く表現できないけど、氷。冷たく、相手を凍死させるような冷たい表情。思わず、顔を反らした。もし、眼を合わせてしまったら、ウチは死んでしまう。冗談でもなく比喩でもなく、本当に死んでしまいそうな冷たい表情。
雪ちゃんは、女に向けて歩きだした。
「ゆ……」
とっさにウチは雪ちゃんの手を握ろうとするが、その手を握れることはなかった。
雪ちゃんは、女の目の前に立つ。女も雪ちゃんの気配に気づいて、顔を近づけるを止める。
「」
女が雪ちゃん話けているがここまで聞こえない。だが、次の瞬間。雪ちゃんは、女の顔面を殴った。そしてここにまで聞こえる声で断言した。
春の断片
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
長い夢を見ていた気がします。どんな夢かは忘れてしまいました。ただ、私にはまったく必要のない夢であることには、間違いありません。なんだったら消えてくれて構いません。むしろ消えて欲しかったです。なのに、夢というのは、記憶いうのはどこまで残酷なのでしょう。たった一つの記憶を思い出すだけで、次々と連鎖的に思い出していまいます。あぁ、なんて忌々しい。本当に無くなってしまえばいいのに。
そんなイライラしていた時です。ベンチに座っている海色君を見つけました。私は、唇をぺろりと舐めます。近くに邪魔者が居ません。これはチャンスです。
最初は自然な感じで。
「こんにちは」
「……」
ゆっくり。
「寒いですね」
「……」
焦らず。
「どうしてジャージなんですか?」
「……」
丁寧に。
「あの、この場所好きなんですか?」
「……いや」
掛かった。ここから話を進めよう。
「そうなんですか?てっきり、ここから見える風景が目的なのかと」
「……」
「知ってますか?ここは、春夏秋冬で風景がこの学校一よく変わる所なんですよ?」
「……例えば?」
「今は、冬ですから枯れた葉っぱすらない木が並びますが、春は桜の吹雪が。夏は緑が一面を覆い尽くし、秋にはちょうどここから綺麗な満月と紅葉がが見えます。素敵だと思いませんか」
「……それは、いいね」
海色君は、自然の美しさを理解できる人間の様だ。もし、豊かな自然に囲まれながら海色君の絶望した顔を見れば、私はどれだけの快楽が得られるのだろうか。考えただけで……
「それでは、どうでしょう。冬が終わったら、一緒に行きませんか?私、男友達とか居なくって」
「俺……彼女いるから」
えぇ、知っています。貴方に似合わない傷物と付き合っていることぐらい。
私は、彼の膝に手を置きました。
「そんな、冷たいこと言わないで下さい。一緒に行きませんか?その彼女さんも連れて、皆で仲良く」
考えただけで反吐が出そうです。考えたくありません。想像したくありません。何故、私があんな傷物と。でも、海色君となら。
私はゆっくり、ゆっくりと海色君に顔を近づけていきます。私の経験上男の子は不意打ちには弱いです。海色君も男の子。不意打ちには弱いですよね?
「ねぇ」
私は声がした方向を向きます。傷物です。せっかくいい所でしたのに
「初めまして、貴女が」
喋り始めた途中だった。突然、左顔に衝撃が走る。それが殴られたと感じる。いや、理解するまでに時間はかからなかった。傷物が私を殴った。私は、地面に倒れ込んだ。そして、傷物は叫んだ。
「私のモノに気安く触らないで」
その瞬間
私の心は
ウチの心は
俺の心は
私の心は
「桜の花がひらひら踊るように踊りました」
「空が雲で覆われるように黒いもやもやに覆われた」
「夏の暑さで陽炎で歪むように……歪んだ」
「雪が全てを包むように……見えなくなった」
さて、いかがでしたか?
やっと、物語が動き出してきた感があります。
評価や感想など頂けたら幸いです。飛んで喜びます。




