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ユーステティア

 古の文献には、こう記されている。


『彼の者、銀の瞳を持ちて、魂を読む。


 彼の者の前で偽る事無かれ、偽りは砕かれ、汝に滅びをもたらすだろう』


 かつてこの世界には、『魂』を読む事が出来る種族が存在していた。

 彼等が、どんな種族で、どこから来て、どこで暮らし、どこへ行ったのかは、誰も知らない。


 仮に知っていた者が居ても、それは既に薄れ、風化した記憶になってる事だろう。

 それ程、彼等に関する伝承は、古い物であった。


 ただ現在に於いて、彼らの遺産とも言うべき物が一つだけ有る。


 殆どの者が、その存在さえ知らない『魂』の記録‥『ステータス』を読み取り。


 如何なる『嘘』をも見抜く、特別な力。


 それを、この時代の者達はこう呼ぶ…『真偽眼』と。


 『真偽眼』は、古の一族の血を僅かでも引く者が隔世遺伝で、ある日突然発現するものだ。

 だが長い歳月に、あまりに希薄になったその血では、滅多に発現に至る者は無く。それは、発現者同士の交配ででも、伝承される事は皆無であった。


 そのあまりに貴重、且つ重要な『真偽眼』の活用と保護、管理の為に、超国家的組織として作られた『真偽院』の歴史は、冒険者ギルド等よりも遥かに歴史が長い。

 しかし、『真偽院』の活動を以てしても人の寿命は、管理出来るハズも無く、現在の『真偽眼』発現者は、2名だけとなっていた。


 そんな『真偽院』にある日もたらされた朗報。

 それは帝国の、ある孤児院の少女が『真偽眼』発現に至ったというものだった!


『真偽院』に迎えられた少女の名は、ユーステティア。発現者に、太古よりの慣例で必ず付けられる『ミカヅキ』の苗字が与えられ、ここに新真偽官ユーステティア・ミカヅキが誕生した。


 彼女と交渉した『真偽院』幹部の者に、彼女が提示した真偽官となる条件は一つ、今帝都で話題の新鋭S級冒険者ジャンヌ・ギルシュテインを専属護衛として付けて欲しいと言うものだった。


 帝都の女子達の憧れ、『青薔薇』を手した彼女は、時間を見つけては魔物と戦い、ダンジョンに潜る等して『青薔薇』と一緒の冒険を存分に楽しんだ。


 職業柄、命を狙われる事も多かったが、最強の護衛と、異例の速さで進歩した彼女自身の強さの前では、たいした障害にもならなかった。


 私達二人なら無敵!伝説のSSS級冒険者『天剣』のアストレイア以上じゃないかしら?とさえ彼女は思っていた。



 だが…



 いつもの様に、『真偽院』の指示で訪れた王都。


 そこには、彼女の理解を遥かに超えたモノが待っていた。



 先程から、二の腕に爪が刺さる程握りしめても、身体の震えが止まらない。

 あまつさえ、多少の失禁すらしている始末。


 震えで、歯が噛みあうのが止められず、まともな言葉も出ないが、ただ絞りだす様に小声で彼女はひたすら詫びていた。



(…「…王都を、王国を滅させる訳にはいかないのよ」)


 王都に着いた時に、懇意のシルヴィア王女が言った一言が、頭の中にふと浮かぶ。

(まさか本当だったなんて、いえ、これ程の御方(・・)なら世界すら滅ぼしかねない…)


 ガシャァァーーーン!!

  「てめえ!ゴミ虫の分際で、ユーステティアに何しやがったぁ!!」


 やっと、僅かばかりの思考が戻った彼女の耳に聞こえたのは、ジャンヌが鉄格子を叩きつけシンリを怒鳴りつける声。


(今、ジャンヌちゃん何て言ったの?…ゴミ虫?あの御方(・・)に向かって?)


 辛うじて、僅かに顔を上げた彼女が見たのは、鉄格子に張り付き、シンリを威嚇するジャンヌの姿。

 ジャンヌの剣技を以てして、僅かに射程の外にいる彼に、害が及ぶ事は無いだろうが、ジャンヌが発し続けている殺気と威圧は、彼を苛立たせるには十分だろう。


「…待って、ジャンヌちゃん」


 未だ震えの止まらぬ彼女だったが、生命の危機に無理矢理言葉を押し出した。

 だが、興奮気味のジャンヌに、その小声は届かない。彼女はもう一度、精一杯の声を振り絞る。


「止めて、ジャンヌちゃん!」


「ユーステティア、無事なのか?」

 必死の声がジャンヌに届き、彼女を心配して傍に来る。


 苛立った彼が、動き出さないか不安で、一瞬見たが、彼が動く気配は無い。

 視界にチラっとシンリの『ステータス』が再び入ったが、あんなモノ二度と見るのは御免だった。

 いや、あれ程の御方ならば、見られた事自体に気付き、その報復をされかねない。そう考えれば考える程、彼女はシンリを視界より避けた。


 シンリを見ぬ様に、互いの顔が触れる程ジャンヌに近付くと、ほんの少し震えが治まった。

 だが、冷静に成れば成程、先程のジャンヌの行動に、背筋が冷たくなった。


「どうしたんだ?大丈夫なのか?」


 貴女のせいで、大丈夫じゃ無いと言いたかったが、まずは状況を知ってもらう必要があるだろう。


「ジャンヌちゃん、私は大丈夫だよ。大丈夫じゃ無いのは、むしろジャンヌちゃんかも…」

 そう言いながら、彼女は『真偽眼』を阻害する特殊な『印』の書かれた目隠しを、拙い手つきで付け直した。


「何故それを付ける?真偽はまだ調べても無いだろう?まさか奴は、調べる価値も無い『悪』だと言うのか?」

「見ないで!!」

 短絡的に、再びシンリを睨もうとしたジャンヌを、間髪入れず彼女が叱責する。


「いいジャンヌちゃん?私との話が終わるまで、絶対に彼を見てはダメ!威圧も殺気を送るのも、絶対ダメ!わかった?」

「よく解らんが、お前が言う事だ。従おう」


 その言葉に、ようやく場の落ち着きを感じた彼女は、看守達の準備していたカップにポットから冷めきったお茶を注いで、それを一気に飲み干した。


「うえ、不味っ!またシルビアちゃんとこのお茶が飲みたいよ…」

「帝都に帰る前に、また寄ればいいじゃないか?」


 飄々としたジャンヌの言葉に、彼女はボソッと言った。



「そうだねー…帰れれば…ね…」







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