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王都への護送

ニャッシュビルを発った俺達は、5階層の隠し部屋に転移した。


「さて、行くか」


シズカ達と昨晩話し合ったのだが、入口からは取り合えず俺一人で出る事に決めていた。

仲間が遅れている理由等、どうとでもなるし、何より目の前で俺が捕まるのを見た時、恐らく誰も冷静ではいられないだろうと考えての事だ。


「俺は大丈夫。必ず戻るから、屋敷で待っていてくれ」


そう言って、一人一人と口づけをした。

誰一人泣く者は居なかったが、アイリの握り過ぎて血の流れる手が、その内に秘めた感情を物語っていた。


「お兄様、お気をつけて…」


話してしまうと、誰しもが感情が抑えきれなくなるのだろう、シズカが一言だけ、そう言うのが精一杯だった。



1階層にたどり着く。

そこで、師匠の形見のコートを脱ぎ、[村雨丸]等と共に【魔眼】に収納して、ダミーのコートを着込む。



迷宮入口から出た俺を真っ先に見つけたのは、ガゾム達親衛隊の面々だった。


「あ、兄貴!!」

「久しぶりだな」

俺は、何も知らないふりをして、駆け寄って来たガゾム達と話し出した。


「兄貴…あの…」

ちらちらと緑色の冒険者達を見ながら、ガゾムが何かを言おうとした時、俺はやや大きな声で、ガゾムの話を遮った。


「どうしたんだ?皆傷だらけじゃないか!一体何があったんだ?」


俺の声に、他の冒険者の検問をしていた緑の集団が一斉にこちらを向いた。


「…すまないな。この借りはきっと返すよ。ありがとう…」

俺は、小声でガゾムや親衛隊の者だけに聞こえる様に言うと、検問をしている者全てに、かなり抑えた殺気を放った!

咄嗟に武器を構えたのは、緑の者達がそこそこの修羅場を抜けて来た証だろう。

数合わせで連れて来られたであろう王国軍の兵士は、殺気に充てられパタパタと気絶し倒れていく。


『誰だ?彼等に怪我を負わせたのは?』


対峙した者達の魂に刃を突きつける様な、怒気を含んだ俺の声が響く。

辛うじて武器を構えた緑の者達であったが、誰一人戦意を保てる者は居なかった。


苛立ちを覚えた俺が、殺気の度合いを高めようとした時、聞き慣れた声が、割って入った。


「そこまでにしといてくれや、黒衣の」


「久しぶりだなダレウス。ところでこれは、一体どうなってるんだ?何故アンタがここに居る?」


「察してくれや…」

ダレウスのその一言が、全てを雄弁に物語っていた。

つまり俺が、全て解ってこんな茶番をしている事さえ、お見通しだと…。


「あっちに馬車を待たせてる。来てもらっていいか?」

そう言ってダレウスは、それ以上今は(・・)話さないとばかりに背中を向けた。

俺が殺気を解き、ダレウスについて行こうとすると、背後から別の殺気が迫る。


ガキィィィーン!


俺の足目掛けて振り下ろされたのは、長い柄の付いた大鎌だった!

しかしそれは、部分展開した『聖霊装身(バプテスマモード)』により弾かれる。


「ダレウス、こいつらは誰だ?」

俺は、今の攻撃が無かったかの様に、淡々と言った。


「筆頭!こいつヤバイよ!せめて手足でも切り落としておかなきゃ!」

ダレウスの返事より先に、大鎌の女が喚き散らした。

それを聞いた緑の者達が、一斉に俺を囲み、武器を構える。


「止めねえか馬鹿共が!」


だがそんな彼等に、ダレウスの叱責が飛ぶ。


「こいつは抵抗せずに、従った。余計な手出しはさせねえ!」

ダレウスの身体を薄っすらと光が包む。『金剛』を発動させた様だ。


「ウチの者が勝手をしてすまない。罪人は斬るがモットーなんでね」

緑の者達のリーダーと思しき女性冒険者が、一歩前に出た。


「俺はまだ、罪人と決まった訳じゃ無いはずだが?」


「ふん、罪人は皆そう言うよ」


「…そうか…名前を聞いても?」


「私は『緑機衆』筆頭、エヴィ」


「…覚えておこう」


俺は、再び背を向け、ダレウスの準備した馬車の方へ歩き出す。

しばらく『金剛』を纏ったまま、緑の者達を警戒していたダレウスだったが、奴らが武器を仕舞うのを見て、『金剛』を解き、俺に続いた。


馬車に乗った俺達は、王都に向け出発する。

ダレウスは、事の経緯を話してくれたので、俺もガイウスとの一件を説明した。


「…ち、あの馬鹿そんなもん使いやがったのか!それが王都で暴走していたらと考えると、ゾッとするぜ」

「ああ、だがもう魔剣は壊した(・・・)。俺が隠していると言われても、仕方が無いな」

実際は、ニャッシュビルにあるのだが、あの村の件は、ダレウスであっても話せない。


「お前さんのカードに魔獣化した魔剣との記録が残ったはずだ。それに真偽官が来ている。言ってることが事実だと証明されれば、あとはただの冒険者同士の小競り合いだ。何とでもしてみせる」

「随分、買ってくれてるじゃないか?ホレたのか?」


「馬鹿言え!黒衣のを『敵』に回すなんて、『王都』を人質にされてるも同然だ!誰が、あんな馬鹿のちっぽけなプライドに、『王都』を賭けるかよ!」

「ひどい言われ様だ。だが…俺の仲間に危害を加えるなら…」


「わーかってるよ!俺が命に代えても、お前の留守は、襲わせねえ!誓うよ!」


仲間の話に、うっかり俺から殺気が溢れていたのだろう。ダレウスが、額に滲んだ汗を拭く。


「34階層到達か、本来ならパレードでもして王に謁見出来る偉業なんだが、すまねえな…」

「まあ、楽しかったよ…」

俺は、ニャッシュビルの皆の顔を思い浮かべて、微笑んだ。


「最高到達点に行って、そんな、ちょっと遊びに行って来ました。みたいに笑えるのは、黒衣のだけだろうさ」


そのダレウスの言葉を最後に、車内は沈黙に包まれる。


重苦しい空気の俺達を乗せて、馬車は王都に向かって夜通し走った。





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