忍び寄る危機
ニャッシュビルの村での生活も7日目。
俺達は、すっかり慣れ…というかダラけていた。
俺は、日々様々な施設や技術に触れているのだが、他の仲間は、愛らしい仕草のケットシー達と、じゃれては食べ、そして眠る毎日だ。
「これは、人間自体もダメにしてしまうのかも知れないな…」
彼等の魅力は、接する者も骨抜きにしてしまう。その当時の地上の様子を想像すると、少しぞっとした。
そんなシズカ達の状態を危惧して…では、もちろん無いが、俺はそろそろ地上に戻ろうと考え、チャムロックの屋敷に向かった。
「これはシンリ様、村での暮らしはいかがですかな?」
そう言うチャムロックとテーブルに向かい合って座り、お茶を飲む。
「ええ、本当に素晴らしい所ですね。出来れば住みたい位に快適に過ごさせてもらってます」
「それは、良かった。シンリ様達さえ良ければ、いつまで滞在していただいても良いのですよ」
自分達の村が褒められるのが本当に嬉しいのだろう、チャムロックは笑顔でそう言った。
「そうしたいのですが、地上に待たせてる者もいますので、そろそろ戻ろうかと思うのですが」
「それは残念ですが、仕方ありませんね。では、準備をさせますので、明日までお待ちいただけますか?」
「ありがとうございます」
そう俺が返事をした後、急にチャムロックは真剣な顔になり、俺に顔を近づけた。
「実は、シンリ様のお耳に入れておきたい事が御座います」
「何でしょう?」
「迷宮入口付近を監視している者からの報告ですが、何者かが入口にて検問を行っているそうでして、その者達がシンリ様を探している様だと…」
「本当ですか?…ちょっと待って下さい…」
俺は、【嫉妬眼】の能力[千里眼]を発動させて、迷宮を遡り、入口へと視界を飛ばす。
「これはダレウス!?」
「お知り合いでしたか?」
「一人は。でも…」
そこに見えたのは、椅子に座って不機嫌そうに頭を抱えるダレウスと、王国軍の兵士、そして全員が緑のコートを着た冒険者風の者達。
彼等は、出て来る冒険者を、一人一人確認している様だ。
近くに、親衛隊の面々も居た。数人が怪我をしている様に見える。
「ガイウス…だろうな…」
ここまでの人員をこの短期間で動員している事から、余程の機関を動かしたと思える。そんな事は、国主のお墨付きをもらった立場であるS級冒険者ぐらいにしか、出来ないだろう。
「ここに留まられても構わないのですよ?」
俺が、思いつめた顔をしたからだろう、チャムロックが優し気に言ってくれる。
「いえ、予定通り明日地上に向けて出発します。何より、皆さんを巻き込む事だけは絶対に避けないと!」
「シンリ様…。私は、シンリ様を全面的に信用致します。それだけはお忘れ無く」
「追われているのにですか?」
「言ったでしょ。私、見る目はあるつもりですよ!」
そう言ってチャムロックは、また背筋を伸ばして、誇らし気に眼鏡に触れた。
「ありがとう。信頼に応える為にも、ここの秘密は絶対守るとお約束します!」
「さて、そうと決まれば忙しくなりますな。シンリ様、御一緒に来ていただけますか?」
俺は、彼の案内で、村の『魔法開発所』に向かった。
以前も来たここでは、様々な新魔法の研究が行われていたはずだ。
「こちらへどうぞ」
チャムロックに続いて、以前は入れなかった地下へと階段を下る。そこには、ローブを着た数人の魔法官が待っていた。
「シンリ様、貴方は先程、迷宮外を見た事といい、何か特殊なお力をお持ちですね?」
「ああ、この眼は【魔眼】なんだ」
これまで全てを見せ、話してくれた彼等に隠すのも失礼だと思い、俺は正直に話した。
「成程、その【魔眼】の能力に、他人の魔法やスキルを、自分の物に出来る能力がありますね?」
俺が、[ウォールシャーク]の能力を奪った所でも見ていたのだろう。全てを知っている様子だ。
「ええ、俺は【魔眼】で能力を奪えます」
「良かった。では、彼等から奪って下さい。スキルを魔法を!ニャッシュビルとシンリ様との友好の証として、差し上げましょう!」
「しかし、彼等は…」
「それこそ心配無用です。我々の技術力があれば、ユニークで無ければ、能力付与等、朝飯前です。ただ、人間用では無いので、シンリ様には、御自分で奪っていただくしか無いのですが」
「解りました!そう言う事なら有難く」
「まずは、この者の[転移(遠)]を。これがあれば、地上からニャッシュビルはもちろんの事、一度行った事があれば、王都から帝都まででも飛ぶ事が出来ます」
俺は【強欲眼】を発動させ、魔法官から能力を奪った。
「次は……」
「次……」
俺は、こうしていくつもの能力や魔法を、彼等に貰った。
仮住まいに戻ると、全員を集め、事の次第を話す。
「あのおバカさん、消しておけば良かったですわ!」
「シンリ様を捕まえるなんて、ひどいです!」
「主様…敵抹殺許可を」
「ほんに、魔物よりも恐ろしいのう人間の嫉妬とは…」
「ダンナ様‥捕まる‥なの」
「シンリなら、ちょちょいのちょいじゃんよ!」
「主君、これより地上を掃討してまいります!許可を!」
「許さないのにゃー…ん?何の話にゃ?」
外に漏れるから、少しは殺気を抑えようか君達。ってか、チロルいつまでいる気だ?
「まあ、落ち着け。上にダレウスが来ていた。本部長が自らただ来るなんて考えられない。恐らく俺と捕縛に来た者との衝突を避ける為だろう」
「それは、お兄様に罪を重ねさせない為…ですの?」
「うん。恐らく何らかの手を打ってくれているのだろう。ひとまず彼を信じてみる事にする」
「それでも、シンリ様を縛ろうなんて!!」
アイリが、チリチリと身体に電撃を纏って立ち上がる。
「全て、抹殺!!」
これ程、憤怒の表情のツバキは初めて見る。
「待たれ、我が君が決定じゃ。黙って待つのが良い妻と言うものでは無いかのう」
エレノアにたしなめられ、二人が落ち着きを取り戻す。
「じゃが、愛しの我が君にもしもの事あらば、王都一つ、滅ぼしてみるのも一興じゃ。ほほほ」
何気に一番物騒なエレノアだった。




