迷宮への挑戦 4
「あれもか?」
「その様ですわね」
俺達は、今32階層の入口付近で『違いが判る男爵』の動きを注視している。
ここは、最高到達点ではあるが魔物等の情報は無い。何故なら、以前ここに来たパーティは、全員この入口付近に設置された転移魔法陣により、10階層まで戻されたからだ。
二の舞にならぬ様、今慎重に魔法陣を探している所なのだが、見付けただけでもすでに3か所。見えずに歩けば、いずれかを踏んでしまう様に絶妙に配置されていた。
「ペースはゆっくりでいい。シズカ達は、慎重に進んでくれ」
そう言い残して、いつもの様にツバキと先行する。
物理系のトラップは、殆ど無い。だが、所々に転移魔法陣の気配に似た、魔力の乱れの様な物を感じるので、ここのトラップは、それが主体なのだろう。
(…いよいよ本気で、引き返して下さいって感じだろうか?)
そんな事を考えながらも、トラップ解除の必要が無い為、かなりの速さで迷宮を探索したのだが、ボス部屋への扉は見つからなかった。
「おかしいな…ツバキそっちはどうだ?」
…ブンブン。
同行するツバキに尋ねても、見落とし等は無さそうだ。
思案に暮れていると、ツバキが何か思いついた様に、コートの袖を引く。
「どうしたツバキ?」
「主様、魔物部屋の中は?」
「モンスターハウスか…」
実は、モンスターハウスは、これまでも沢山あった。、殆どが部屋の中央に『餌』となる宝箱が置いてあり引き込む気満々だったが、特に宝箱の中身に興味が無いし、又ボス部屋までのルート上で、通る必要も無かった為、ずっと避けて来たのだ。
ちなみに、この階層には、4か所見つかっている。
「ツバキ、危なくなったらすぐに影に隠れるんだぞ!」
そう言って、ツバキと二人で1つ目のモンスターハウスに入る。数歩進むと後方の扉が閉まった。
そして足元が、ボウっと光りだし…。
「くっ、しまっ…!!」
部屋全体を範囲とした転移魔法陣により、ツバキ諸共どこかへ飛ばされてしまった!
「大丈夫かツバキ?」
「無問題…来る!」
景色は、先程の部屋と変わらない、だが俺達の転移を感知したのか壁から床から、あちこちから魔物が産み出されてくる!
「モンスターハウスへご案内か。同じ階層だといいな。ツバキ、いくぞ!」
…コク!!
瞬時に『聖霊装身』に入った俺と、ツバキは、瞬く間に魔物達を斬り刻んでいく!
だが、流石にモンスターハウスだ。次々と、それもこちらの強さを測っている様に、より強い個体を産み出すのだ。
最初は[ゴブリン]。
そして[デミゴブリン][ホフゴブリン][ゴブリンアーチャー][ゴブリンソルジャー][ゴブリン軍曹]…。
この辺りは、大して変わらないので問題無いが、何せ数が多い。見ると更に雰囲気の違う個体が現れた。
見えたのは[ゴブリンメイジ]数体と一際大きな[ゴブリン将軍]だ!
[ゴブリンメイジ]がやや強力な魔法を発動しようとしていたが、俺とツバキで発動前に[将軍]諸共、斬って倒した。
魔物が湧かなくなった室内に静寂が訪れる。見ると魔物の死体は、次々迷宮に吸収されて消えて行く。
粗方の魔物の死体が、一部のアイテムを残して消え去ると、前後で変化が起きる。
後方では、迷宮内に通じると思われる扉が開き、前方には、他の層で見たあのボス部屋の扉が出現した!
迷宮内への扉から様子を伺うと、どうやら階層は同じらしい。
一安心した俺達は、扉が閉まる等の仕掛けがあると面倒なので、ツバキに皆を呼びに行かせて俺は、そこに残った。
推測だが、他3か所のいずれのモンスターハウスに入っても、ここに飛ばされる仕掛けだったのでは無いだろうか?
しばらくして、シズカ達と合流した。聞けばここでは、全く魔物と遭遇しなかったそうだ。
恐らく、ボス部屋が見つからず彷徨わせ、うっかり踏んだ転移魔法陣で、上層に送り返す狙いの階層なのだろう。魔物や物理的なトラップが無いのに油断して警戒を緩めれば、また上層からやり直しと言う訳だ。
扉の前で、遅めの昼食を摂り、休息してからボス部屋に入った。
32階層のボスは[オルトロス]体長10m近い、黒毛の双頭の犬で、馬の様な鬣があり、その一本一本と、長い尻尾は、全て蛇になっている。
強大な魔物だが、やはり的が大きいとやり易い。素早い動きにも係らず、全員面白い様に攻撃を当てているので、俺は襲い来る蛇からの防御に徹した。
それでも1時間程で倒した俺達は、33階層にマーキングし、30階層に戻った。
33階層への足跡を残して来た俺達は、その夜、いつもと違う豪華な料理を囲んでいた。これは、出発前にラティに頼んで作って貰ったのを【魔眼】に収納して持ち込んだ物で、今夜の『新記録樹立』の料理と、別に『迷宮攻略』祝いの料理も準備してある。
「ワタクシ達『黒装六華』の到達点新記録を祝して…」
「「「「「「「カンパーーーイ!!」」」」」」」
中身は、もちろん酒では無いが、気分を味わう為、思い思いの飲み物をいつものカップでは無く、グラスに注いで乾杯した。
「これで『黒装六華』の名は、歴史に刻まれましたわねお兄様!」
「何かまだ、夢みたいです!」
「主様、当然!」
「我が君が、名を残すのは嬉しい限り。この調子で御子も残して欲しいものじゃのう。ほほほ」
「ダンナ様‥最高‥なの」
「本当に、このパーティならどこまでも行けそうじゃんよ!」
「主君の偉業は、家臣の喜び。誠にめでたい!」
「これ位で偉業なんて大袈裟だな。俺達なら行けるさ、どこまでもな!」
そう言って、俺はまた全員とグラスを合わせた。
興奮冷めやらぬ宴は、その日の深夜まで続く。誰も皆、危険な迷宮内に居る事も、謎の脅威が待ってるかも知れない事も、今は忘れて、笑い、騒ぎ続けた。




