迷宮への挑戦 3
「お兄様のばかあああああああああああああ!!」
27階層に響く、シズカの悲鳴にも似た非難の声。
トラップ解除とルート探索の為、本隊を離れる俺に、シズカ同様他の仲間からも、目の端に涙を浮かべた恨みの篭った視線が向けられる。
この階層の魔物は[ワープフロッグ]と[リトルサラマンダー]と説明していたのだが、実はもう一種、今シズカ達を包囲するあの黒光りした体…17階層のボスだった[マスターG]がいるのだ!
もちろん実力的には、大した相手じゃ無いのだが、女性陣はアレの姿を見る事自体に抵抗がある様で、混乱を避ける為に内緒にしてたのだが…。
確かに、ボス部屋にいた2m級のでは無く、小ぶりな1m超位の個体だが、まあ1mのアレに取り囲まれるのも確かに辛いものがあるかもな。
ちなみに、ここでは各魔物の得手不得手が合わないのか、一種の集団が襲い掛かって来る様だ。
振り返ると、アレの集団をエレノアが焼き払う所だった。
「ツバキは、アレは平気?」
「嫌い‥でも黒色なので‥平気」
よく理由がわからんが、ツバキは黒い色に対して安心感の様なものを抱くのだとか…。
ここでも様々な物理系のトラップを解除、破壊しながら進む。27階層は上層よりもさらに広い様で、探索に時間がかかる。あと行き止まりが本当に多い。
やや時間が掛かったが、ようやく26階層で見た様な禍々しい扉を見付けたので、本隊に合流すべく戻った。
本隊に戻ると、盾で受けるのが嫌だったのだろう、シズカはハンマーに持ち替え、先頭で魔物を粉砕していた。それに皆の足取りが早い、ってか、ほぼ走る様な勢いだ。
その本隊の周囲に、再びアレが発生しかけていたので、俺とツバキで殲滅しておく。
「大丈夫か?ボス部屋は見付けた。もうすぐそこだ」
「はあはあはあ‥。お兄様…」
そんな恨めしそうな目で見るなシズカよ。
「ここからは、俺とツバキで露払いをするから、皆はのんびりついて来てくれ」
そう言って、皆の先頭をツバキと並んで歩く。
[ワープフロッグ]は、虹色に光る皮膚を持つ1m程のカエルで、瞬間移動しながら突然死角に回り込み、長い舌で攻撃して来る。この魔物の皮は、マジックバッグの材料としても重宝されており、アイリが背負うマジックバッグのリュックも、この革で作られていた。
本来は、相手が姿を現すのを数人で警戒し、見えた所で矢等で倒すらしいが、俺は【嫉妬眼】の[未来視]を発動させ、出現する度斬り伏せた。
ついでに【強欲眼】を使い、[転移(短)]スキルとやらを頂いておく。
[リトルサラマンダー]は、全長3m程の小型の竜種で、文字通り炎を吐いて攻撃して来る。竜種の鱗は硬く生半可な剣では、歯が立たないのだが、俺やツバキの妖刀[枝垂柳]の切れ味の前では、意味が無い。
結局、以降はアレに遭遇する事も無く、ボス部屋の扉にたどり着いた。
27階層のボスは[デスリザード]四足歩行の所謂オオトカゲなのだが、体長が20m以上ある。
しかも、下位ドラゴン並みの強度の鱗に覆われており、爪や牙、更には吐く息までが毒性だ。
そのあまりにゴツゴツした体表から、シズカがアメリカ版ゴ〇ラだ!と呟いたのもうなずける。
だが、鱗を貫通出来る武器と力さえあれば、ただのデカい的なので、俺達は集中攻撃で難なく倒した。
隠し部屋の無いボス部屋に転移すると、ボス部屋の扉前に飛ばされ、再度ボス戦を強いられるので、28階層に降りた所でマーキングし、シズカの能力で25階層の隠し部屋に転移した。
転移した途端に、やけにぐったりしたシズカ達に、後程お説教されたのは、言うまでも無い。
この調子で、翌日には、28、29階層を突破し、更に翌日、31階層まで攻略した後、隠し部屋のある30階層に本拠を移した俺達は、いよいよ明日、これまでの最高到達点である32階層に挑戦する。
「しかしお兄様、下層に行けば行く程、迷宮がどんどん広くなるのは、何故なんでしょう?」
「それなんだが…俺は25階層以降の迷宮は、目的が違うんだと感じてる」
夕食中、シズカの問いに手を止める。
「上層は、そうゲームみたいだと感じなかったか?適度な難易度で、そこそこ価値のある素材が取れ、余程の無理が無いと死ぬ様な事にならない」
「そう言えば、毒も麻痺や睡眠系ばかりでしたし、蔦などで拘束された方も放置されてましたわね」
「麻痺したり、寝ちゃった人がよく転がってたけど、魔物は攻撃して無かったですね」
シズカの答えにアイリが続いた。
「そう、だから上層は人を招き入れる目的で作られた物だと思うんだ」
「招き入れる…おびき寄せるみたいな感じですの?」
「いや、これは俺の考えだが、25階層までの迷宮は少しでも多くの人に来て、たくさん魔物を倒して貰う為に作られたんだと考えている」
「魔物を倒す?…何でですの?」
「そこは、まだ解らない…だが、その理由こそが最下層にあると思う」
「それを知られない為に、26階層からは、難易度が上がると?」
「そう26階層からは、敵を寄せ付けない為の迷宮。つまり先には、そうまでして隠したい何かがあるって事だと思う」
「つまり、迷宮や魔物を操っている何者かが、最深部に待ち構えているんですの?」
「待ち構えてるってのは違うかな、だって相手は来て欲しく無いんだろうから…」
この先に居るかも知れない、未知の存在。
俺達は、皆一様に手を止め、隠し部屋の扉の先を見つめていた。




